第29話 お披露目会とデビュタント①

 只今、午後5時。

 舞踏会会場隣接の小部屋にレイ様達と待機中。



 今日は朝からリベルトやシモンヌ達とは別行動。

 早朝からアヤカとしてミリアさんとリタさんに全身を磨き上げられヘトヘトです。


 そう言えば、朝早くにオル様が今日エスコートを出来ない事を謝りに来た。


 久しぶりに見るオル様は相変わらず素敵で息をするのも忘れて綺麗なサファイアのような瞳を食い入るように見つめてしまった。


 あ、ダメだ、こんなに見つめていると変な女だと思われてしまうではないか。

 ありったけの理性をかき集めて視線をそらす。


 でも声を聞くだけでドキドキする。


 あー本当にね。

 私もオル様にエスコートしてもらいたかった。

 でもここで我が儘を言うわけにはいかない。


 エスコートはレイ様が担当してくれるようだから大丈夫と明るく言っておいた。


 オル様はお披露目会にも少し遅れるかもと言っていたけど、仕事が立て込んでいるのかな?


 元気もなかったし、疲れているのかな。

 後で会った時に癒やしてあげよう。

 それにしても前にお披露目会の予行練習をしていて良かった。


 今日はドレスコードでデビュタントのご令嬢方は白いドレス着用、ご子息方は胸に白い花をさして参加。


 なので、私はラベンダー色のドレスです。

 プリンセスラインのゴージャスなドレス。


 髪はサイドを残し後ろはふんわりアップ。

 ドレスの共布で作ったラベンダー色の大きな花と白い小さな花をバランス良く耳の後ろから飾り付け。


 メイクはいつもより華やかに、唇はローズピンクとラベンダーを混ぜ合わせた上にグロスで仕上げる。


 いつもつけてるイヤーカフは髪をアップにしているのでアヤーネの時と同じ様に認識阻害の魔法で隠す。


「今日のアヤカはとびきり綺麗だね。みんなの前に出すのが惜しいくらいだ」


「ああ、このままお披露目会は中止にしても良いんじゃないか?」


 身内びいきもここまでくると恥ずかしい。


 ほら、レイ様とマー君の会話にヘンドリック様が苦笑してるではないか。


「あら、じゃあ、アヤカさんはこのままお部屋に帰れば?」

 そう言うサーヤ様の言葉に私も頷きたくなる。


 帰っても良いなら帰ってるよ。

 今日はアヤカとアヤーネの一人二役をなんとしてもやり遂げなければ。


 バレたらアヤーネの存在が抹消されてしまうのだ。


 めずらしく反論もせずにうつむいていると慌てたヘンドリック様が口を開いた。


「こら、サーヤ失礼なことを言うんじゃない」


「だって!」とサーヤ様が言ったところで、勇者であるマー君が呼ばれて入場し、続けてヘンドリック様とサーヤ様が入場していった。


 さあ、次ですね。


 レイ様にエスコートされて入場するとこの前の予行練習の時とは比べ物にならない人の海だった。


 思わず足がすくむとレイ様がギュッと手を握って微笑んでくれた。


「大丈夫だよ。全部かぼちゃだと思って。ほら笑って」


 レイ様の言い方が可笑しくって思わず笑顔で見上げると、周りからほ~と溜息とも悲鳴ともつかない声が上がる。


 うん、うん、わかるよ。皆さんの気持ち。

 本当に素敵な王子様だよね。レイ様はここ数ヶ月でずいぶん、大人びたもんね。

 弟のように思っているレイ様の成長が私も嬉しいよ。


 国王様と王妃様の席から一段下にあるお披露目の当事者の席にレイ様とともにつく。


 国王様の今年デビュタントする紳士、淑女に向けてのお祝いの言葉の後に、勇者、聖女、愛し子の順に紹介された。


 あとは各国の王族からのお言葉をちょうだいして舞踏会の開始となった。

 各国の王族と言っても今まで面識の無いのはドワーフ族の方だけだ。


 さあ、まずは、レイ様と一緒に国王様と王妃様にご挨拶。


「おお、アヤカ。今日は忙しい一日になるがくれぐれもよろしく頼むぞ」


「あら、陛下。アヤカさんならきっと大丈夫ですわ。警護担当のアヤーネさんと、うまく立ち回って切り抜けてくれる事でしょう」


 あはは。

 お二人とも副音声が聞こえますよ。


 国王様は『忙しいと思うが、くれぐれもバレないようによろしく頼む』


 王妃様は『アヤカとアヤーネの早変わりでうまく切り抜けなさいね』


 はい、確かに承りました。

 頑張ります。

 もちろん、にっこりと笑顔で頷いた。



 第一王子のアランフィード様と婚約者のオリビア様のダンスを皮きりに次々とダンスの輪が広がる。


 わあ、すごい! 色とりどりのドレスが舞う様は圧巻だ。


「アヤカ姫、僕と踊ってくれますか?」


「はい。王子様、よろしくお願いします」

 お決まりのセリフに笑いながら答えてレイ様とダンスの輪に入る。


 ダンスをしながらマー君に目を向けると女の子に囲まれていた。

 白いドレスの子達だからデビュタントの子達だ。

 相変わらず、私の従兄殿はモテモテですな。


 レイ様と踊っている最中に入り口がザワザワとしだした。

 何だろう?


 誰かが入ってきたみたい。

 踊りながら何気なく入り口を見ると、なんとそこにはオル様がいた。

 しかも、魔族のビビアナ様をエスコートして。


 私のエスコートは出来ないけど、ビビアナ様のエスコートは出来るんだ。

 一気に気持ちが重くなる。


「ああ、オル兄だ。良かった来てくれて。僕とアラン兄だけじゃデビュタントのお相手は大変だからね」


 なんでも、デビュタントのお嬢様達のダンスのお相手を王族がやるらしい。

 事前に抽選で10名に厳選されているんだって。


 オル様ったらすごく不機嫌そうな表情だ。

 そして私もオル様がビビアナ様をエスコートしているのを見てとても気分が悪い。

 だって、ビビアナ様はとっても嬉しそうな表情だし。


 そう言えば、ビビアナ様はオル様に会いたいと言っていたっけ。

 そっか、そう言うことか。

 それってば友達だからじゃなくてオル様のことが好きだからってことなんだ。


 オル様とビビアナ様は流れるような動きでダンスフロアに足を運んだ。

 なんとなくオル様とビビアナ様のツーショットを見たくなくて一曲終わったあとレイ様に断って早々にダンスフロアを後にする。

 そのとたん、レイ様はご令嬢達に囲まれていた。

 凄いな。

 ご令嬢達の意気込みは半端ない。


 オル様とビビアナ様の関係はとっても気になるが、ここは自分のやるべきことに集中しましょう。


 さあ、私はこの舞踏会でデビュタントするリリアン様を探しますか。


 リリアン様にはアヤカとアヤーネの入れ替わりに協力してもらうことになっているのだ。


 あ、もちろん、記念すべくデビュタントの邪魔にならないようにね。


「アヤカ様! お久しぶりです」


「リリアン様! 本日はデビュタント、おめでとうございます」


 ちょうど探している時にリリアン様から声をかけてもらって助かった。

 キチンとお化粧をして着飾ったリリアン様は女の私から見ても目を見張るほど綺麗だった。


 純白のドレスを身にまとった数名のご令嬢達と談笑していた時に私を見つけてくれたらしい。


「皆様もデビュタント、おめでとうございます」


 そう声をかけるとリリアン様の後ろに控えていたご令嬢達が一斉に黄色い声をあげた。


「「「まあ、アヤカ様! ありがとうございます」」」


 あはは、可愛い。


「本日はデビュタントのお嬢様達にアシストレンジャーからお土産があるので楽しみにしていてくださいね」



 私の言葉に女の子達は目をキラキラさせて喜んだ。


 今日、お嬢様達に用意したのは化粧水と乳液とリップ。

 この国には、化粧水も乳液ももともとあったんだけど、アシストレンジャーが開発したのはお肌別の基礎化粧品。


 お肌って個人や季節によって状態が変わるじゃない?


 普通肌、乾燥肌、脂性肌。

 後は、唇の荒れ止めに薬用リップね。


 せっかく綺麗にメイクアップしても肌が荒れてたり、唇が荒れてたりしたら台無しだものね。


 例によって私は発案と技術アドバイス担当、実際に商品として開発したのはリリアン様を始め、ミリアさん、リタさん、マリーさんです。


 私もみんなと開発に携わりたいところだが、騎士団の方で手一杯なのでお許しくださいと言ったところだ。


 そして今回は、まだ発売前の商品の試供品を配るのだ。


 この世界、試供品という概念が無いらしく、ミリアさん達に驚かれたがこれが今後の売れ行きに繋がるとの私の力説に今回お土産という形で実現しました。


 ただでもらえるんだから文句は出ないだろうと言うことでね。


 アシストレンジャーのことで相談があるとリリアン様と共にその場を後にしてアヤーネに変身する準備に入る。


 実は王妃様に舞踏会会場の近くの一室をアヤカ専用の休憩室としてお借りしているのだ。


 部屋の前にはビンセントさんとナリスさんが交代で見張りをしてくれている。

 変な人が部屋に近づかないようにね。


 休憩室の中ではリタさんが待機。


 今日は護衛のライナスさんはお休み。

 奥様のターニャさんの悪阻がひどくてそばについているように半ば強制的にお家に帰したのだ。


 そして、ミリアさんはもともと貴族なのでこのお披露目会にご令嬢仕様で出席してもらっている。


 もちろん、エスコートはディランさんだ。


 ディランさんはミリアさんの美しさにもうメロメロだ。

 わかるよ。

 わかるけど、もうちょっと締まりのある顔をして下さい、ディランさん。


 一抹の不安はあるが、この二人に会場にいてもらってアヤカとアヤーネの入れ替わりに万全の体制を作ってもらっているのだ。


 今日は会場と休憩室を行ったり来たり、アヤカとアヤーネの変身術で一人二役を乗り切る作戦だ。


 ひとまずリリアン様とソファに落ち着き一息いれましょう。


「今日、会場入りしたとたん、学園のお友達に一斉に囲まれてしまいました。皆さん、アヤカ様が開発したお化粧品に興味深々なんです。私が急に綺麗になったのはどうしてか聞かれました」


「あら、リリアン様はもともと可愛いわよ。でも今日は一段と綺麗ね。チークの入れ方もアイラインの引き方もリリアン様の優しい美しさを引き立てているわね」


「ありがとうございます。私もメイク一つでこんなに変わるんだと改めて思いました。アシストレンジャーが女性達の支持を得るのがわかります。さあ、アヤカ様、ここは私に任せて、会場へ向かって下さい」


 リリアン様の言葉に頷く。


 では、アヤーネに変身して会場に戻りますか。

 休憩室にリリアン様を残してアヤーネとして会場へ向かう。

 取りあえず、アヤーネとして仕事してますよアピールを決行だ。



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