概要
仕事へのモチベーションは低く、恋人もおらず、その日その日を適当にやり過ごす日常には、刺激や生気が不足している。
一番の趣味である囲碁にも飽き、これといった楽しみがないここ一年は、悦弥にとってとりわけ孤独で寂しい生活だった。
そんなある日、悦弥のスマートフォンに一件の着信が入る。
囲碁を通じて知り合った朋友からのとある誘いに、悦弥は忘れかけていた情熱を取り戻そうと感じ始める。
ありふれた日常のワンシーンを、時に大げさに、時に繊細に切り取った、哀しくも熱い長編小説。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!人柄の変化を、成長以外で描ける妥協なき物語
頭に「半笑い」とついている一連のシリーズ中、主人公が30代へと差し掛かる手前の頃の物語は、世の中を斜めに見ているようで、斜に構えて対処する事もある、実にリアルな一人の男性を描いています。
年相応といえば、世間一般的に考えられている点、現実に存在する点、理想とされる点と、それぞれの視点で違うものですが、本作がリアルだと感じるのは、そういった視点からイメージされるものではない、「この人だから」という人間像を描いている点であると感じています。
シリーズ作を読んでいる読者ならば人間性の変化に容易く気付けるだけでなく、初見の読者も主人公の人柄に独特な点を見つけられるはずです。
かつてトゲ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!半笑いに潜む、碁打ちの信念
主人公の悦弥は、物語の中でよく半笑いを浮かべます。
半笑いとは抑制の表情です。
彼は喜怒哀楽を抑え、日常を生きています。
それでも、淡々とクールに過ごす日々の水面下で、ふつふつと情念は湧き立ちます。
職場や家での生活、そして時々思い起こされる過去。
抑えた感情と情熱は、全て盤上で解き放たれます。
渦を巻き、炸裂する信念。
そこに在るものは、単なるゲームを超えています。
囲碁とは哲学です。
対局の描写が秀逸です。
私は囲碁のルールに詳しくありません。
それでも、盤上でどんな戦いが展開されているのかが、ルールを軽やかに飛び越え、筆致でダイレクトに伝わってくるのです。
そして、切り込むところは深…続きを読む - ★★★ Excellent!!!二十九歳、冷めた社会人。思い出した。これが、熱さだ。
僕は前作『半笑いの情熱』を七周したので、主人公、池原悦也の小学生から大学生までを知っています。なので、前作既読済みの立場でこの作品を紹介します(ちなみに、僕は二〇二〇年一月五日時点で『半笑いの信念』を三周しています)。
主人公は福祉に従事する二十代の男。実家住みで、今の御時世では「子ども部屋おじさん」と揶揄されるのでしょう。
彼は給料の発生しない時間前に出社する同僚に理解を示しません。それどころか、仮病を使い、周囲の目も気にせず平気で仕事を休みます。なぜなら、仕事というのはお金を稼ぐ以上のものではないから。真面目に働くだけで馬鹿を見る世界で、仮病を使って自発的に勝ち取った休日というの…続きを読む