第28話「ニギリと握る物」

 一回戦の相手はほん道場A。浅堀が話していたように、どう見ても小学生にしか見えない子ども三人組だ。洪道場はDクラスまでそれぞれ一チームずつエントリーしている。


「六、六、六です」

 私の相手となる主将の少年が、メンバーの段位を発表する。

 無差別戦ならばオール互先だが、クラス別戦は一段差一子のハンディがあるため、最初にそれぞれの段を確認する。

「六、六、四です」

 私も同じように、主将から順に段位を伝える。

 互いに伝え終えたところで、対局カードに相手のチーム名と選手の段位を記入。これは主将の役割だ。


 主将と副将は互いに六段のため、ハンディなしの互先。三将は二段の差があるので、浅堀が二子にし置いて対局する。

 ニギリの結果、私は白番、小森は黒番となった。

 

 碁を始めたころから、私はニギリで外れることが多い。これまで数多くの大会に出場したが、感触として七割ほどは白番だったように思う。

 対して、小森はニギリに強い。大会では八割以上、黒を持てていると話していた。私と打った三局もすべてニギリにより手番を決めたが、三局とも彼が黒番だ。

 小森は黒番が得意とのことだったが、私はどちらが得意という意識はないので――実際、勝率も五分か、むしろ白番のほうが少しよいぐらいだと思う――、ニギリが弱くとも別に構わない。しかし、小森と私の人生における充実度の差のようなものがこうした些細なところに表れているのかもしれないとふと思い、マスク越しに半笑いを浮かべた。


 今大会は持ち時間がひとりにつき四十分で、時間切れの場合は形勢に関わらず負けとなる。大学時代の団体戦は秒読みがあったが、こうした一般の大会では秒読みなしの形式がほとんどだ。そのため、一局におけるタイムマネジメントも重要となる。

 対局時計の置き場所(碁盤の右側に置くか左側に置くか)は白番の選手に決定権がある。私は右利きのため、時計を押しやすい右側に配置した。


 時計のセットを終え、碁盤の手前に置いていた朽葉色くちばいろの扇子を握る。高校三年の秋、GARNET CROWのライブ会場で購入したものだ。開くと小さくロゴがプリントされている落ち着いたデザインのそれを、私は大会で対局する際に欠かさず持参している。

 恰好つけかと問われれば首肯しゅこうするも、それだけかというとそうでもない。多くの碁打ちや将棋指しがそうである――と私は思っている――ように、対局中に何かを手にしているということそれ自体に鎮静作用があると信じているのである。

 

「お願いします」

 それぞれ向かい合って挨拶し、対局が始まった。

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