第22話「自虐と自動ドア」
九時二十四分。WALKMANの停止ボタンを押し、側面のHOLDスウィッチをかけ、イヤフォンを外してそれぞれを別のポーチにしまう。
こうしたケースで、機器にイヤフォンをぐるぐると巻き付ける輩を時折見かけるが、私はそんな粗暴なことはしない。それによりイヤフォンがどの程度痛むかなど知るはずもないが、いかにも品のない行為だ。加えて、巻き付いた側も巻き付かれた側も異様なほど可哀想に目に映り、私は赤の他人が悪気なくそうする時でさえも
こういうふうに妙な点で神経質な性格が、これまで異性にまともに相手にされなかった要因だろうかとふと思ったものの、そんなことよりも日ごろの諸々の怠惰や不真面目のほうがよほど問題たることは承知している。
仮に神経質かつ怠惰かつ不真面目な性格であっても、私の器量が小森ぐらいのグレードであれば女たちの食指ももう少し活発に動いたに違いないと、私は父を想起し
しかしながら、所詮はごまめの
エクセルシオールカフェを出て右手に進み、途中のセブンイレブンでとある知り合いの姿を見かけた。
関口は、以前ラフォーレで私の対局を観戦しており、くだんの斬新奇抜な布石をおおいに称賛してくれた。対局自体は、彼のレベルからすれば色々と指摘すべき箇所があったはずだが、プロ級の棋力である彼にオリジナリティーを評価されたことが嬉しかった。それ以降、頻繁に顔を合わせているわけではないので忘れられていても不思議はなかったが、関口は私に気付くと都度丁寧な挨拶をした。
私は、でも思わず目を反らしてしまう。店の外と中とで、自動ドアを隔てて数メートルの距離があったということもあるが、仮にそうでなくとも同じ行動をとってしまったかもしれない。
もとより存在感の薄い自分は、以前どこかで一定の交流を持っていた人であっても、しばらくしてゆくりなく再会するとほとんど忘れられていたり、もしくは初対面であるかのような反応をとられることは珍しくなかった。それは私の思い込みか思い違いという線もあったものの、自分がその程度の価値しかないのではなかろうかという悲観的な感情を呼び出すには十分な事態であった。私は、だからこういう場合に視線を合わせたり声をかけたりすることに逡巡してしまうのだ。
関口がこちらの存在に気付いていないことを祈り、セブンイレブンを横切って右側のなだらかな坂道を上る。ものの十数秒、ゆっくり上っても二十秒あれば日本棋院に到着だ。
前後に、同じく団体戦に出場するのであろう同年代や中年の男たちが見受けられる(男女関係ない大会なのに、こうも目の保養にならないとはなんたることか!)。
おそらく他の男たちも同様の考えを抱いているだろうなと思いながら、日本棋院の扉をくぐった。
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