第46話「感情の共有」
「お疲れ様です!」
相手チームが立ち去った後、小森から労いの言葉をかけられた。
その声音や表情からは対局前の困惑が消失したように見え、いつもの爽やかさのみを湛えていた。
「お疲れ様。相手チーム、強かったね。小森くんでも勝てないとは」
「いやぁ、悦弥さんが勝てないんですから、僕が負けるのは当然です。ここまで調子よく行き過ぎてましたね」
「お互い、まだまだ修行が足りないね」
「ですね。それと、さっきはありがとうございました! 僕のこと、庇ってくださって」
「いえいえ、とんでもない」
先ほどのスピーチに関してなにかしら言われるだろうと思っていたので、予想どおりではあるものの、素直な喜びを感じながら照れ笑いをする。
「俺も、感動しましたよ。さっきの」
他チームの観戦をしていた浅堀が戻ってきて、微笑しながら言った。
「あぁいえ、そんなたいそうなものでは」
「ホント、涙腺ゆるみましたよ~」
「俺も、碁盤の上で記入したり時計強く押したりするの気になってたけど、ちょっと指摘する勇気なかったわ」
「僕もです。やっぱり悦弥さんはすごい人だ」
チームメイトの、温かい言葉たち。
それらを脳内で嚙みしめながら、私は、今朝エクセルシオールカフェで考えていたことを一部訂正したく感じた。団体戦は、欠席した時に人間関係を崩壊させ得るというデメリットのみを備えたものではない。一戦一戦の尽力ののちに、チームメイトと感情を分かち合い、共有する。
すなわち、闘いを通じて得た喜怒哀楽を内に溜め込まず、吐き出す行為。プラスの感情は個々に増幅させて全体に波及し、マイナスの感情は仲間の冷静さと情熱の力を借りて、拡大を防ぐ。もしくは、プラスへと転換させる。それにより、次の闘いはより質の高いものとなり、さらなる新鮮な感情の共有がなされる。こうした正のサイクルをつくり出すことが団体戦の醍醐味であり、愉しさでもあるのかもしれない。
正のサイクルは、形式的に励まし合ったり、愚痴ったりする馴れ合いではない。単に、チームを組むだけで生じる現象でもない。
勝利への情熱を胸に宿し、正々堂々たる姿勢を崩さず、誠実に相手と向き合う。チームのみなが実践して、初めて本物の“チーム”となる。そう思うのである。
天真流露は良いチームだな。
まだ大会は終わっていないが、また機会があればこの三人で闘いたい。
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