第7話
植物の進化とは偉大なものである。
教授が気を利かせスイッチを入れると、バルーンラジオから古いスローバラードが流れ出した。
「楽園地帯のゴロツキはなんでこんなの聴いてんだ? 磁場の影響で音割れが酷い。そもそもの音源も最悪だ。いくらでも目の前で生歌聴けるだろうに……わざわざ日光で体暖めてアイスクリーム食ったり……あいつらやっぱイカレてんな」
首の後ろで両手を組み、アルフェスは目を閉じたままだ。
「わしは嫌いではない。ライブ感かのぅ」
『オープニングの一曲目はタイムマシーン645号でタイムマシーンでした。さぁ、始まりました。みちょぱんのみちょみちょラジオ。この番組は……』
「質問して損した……やっぱリビドー全開じゃねぇか、ったく」
「みちょぱんの悪口を言うなっ!」
「しらんがな。それよりまだ着かねぇのかよ」
木立は変わりなく続いている。おまけに地表が白く煙っているので、眼下の風景をますます意味のないものにしていた。退屈な空気が満ちる中、教授がひとりラジオに耳を傾けている。誰一人、もう一つの地球に埋もれることもなく時間は過ぎてゆく。
◇
『本日はリレーラジオ。みちょみちょラジオの次はニコルンの明日も日曜日ぃぃぃぃです。好評のささやきのコーナーもあるのでリスナーの皆はささやいてほしい言葉をどしどしメールで送ってね』
「むほっ、今日は豪華ラインナップじゃ! ささやきぃぃぃぃ!!!」
「うっうう~~~ん」
少女が大きく伸びをする。
「うるさいぞ、教授。なにを騒いでいる。目的地には着いたのか?」
「セレン様は赤ん坊と一緒でどこでも寝れてうらやましいですのぅ。残念ながら……ほぃっ、着きましたぞい」
ラインが引かれたように、とある場所から木立が途絶えていた。そこからはなにもなく只、平地が広がり、やがて眼の前にぐんぐんと桃色の塔が迫ってくるのだった。
バルーンはスピードを緩め、同時に下降の角度が大きくなる。教授の操縦は巧みでラストの着地では、滑らかな浮揚感さえ皆の尻に残した。
パカッ。バルーンのハッチが開く。
「ふ~二時間って結構長いなぁ」
アルフェスが腕をまわし、
「やっぱり地面がカチンコチン」
少女はその場で飛び跳ね、
「もう少し緊張感をもってくだされ。仮にもここは永久凍土ですぞ。さぁさぁ我々にしかできないことをいたしましょう」
「しっかしなんだこりゃ?」
でもアルフェスがそうこぼすと、皆の視線が下から上へと自然と動く。
本来は細長い円柱の形であるはずだが、余りに大きい為、それは天まで届く一枚のピンクの壁としか思えない。遠くからはぬめぬめと幻想的に光って見えたが近づいてみれば、光沢も金属のような質感もない。ただの壁である。
「まるで粗悪品のプラスチックじゃねぇか。建物って感じじゃねぇ」
アルフェスが壁をなでる。
「思い切りぶん殴ってみろ。穴が開くかもしれん」
教授が
「オッケー。いっちょ、カッパギのアルフェス様の戦闘力を再確認させてやるっ! せぇ~の ――バチンッ―― ……あがっうぐ、いってぇ~~超いてぇ!!!」
痺れるように震えて、その場にしゃがみ込む。
「ふむ。ふむ。やはりな。しかし冬にはソフトボール大の
「ふむふむじゃねぇっ。教授っ! 俺をはめやがったな!」
「これも人生経験だアルフェス。さて情報では入り口がどこかにあるはず……」
素知らぬ顔で壁に沿ってテクテクと歩き出し、少女もゲージを携えそれに続いた。
だだっ広い永久凍土にアルフェスの恨み節だけがこだまする。
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