第25話
『≪≪≪
上空、2千メートル付近を、
ブルーバードは、澄みきった大気に体を振るわせ、一人カラオケをしていた。
地上民。
特に独自の世界感を有し、貨幣経済のみで活動する人間に、マザーAIは不干渉を貫いている。それは彼らなりのイズムと信条を尊重してのことだが、いざトラブルになった場合の事後処理は、申請と許可の繰り返しで、大いにストレスが溜まる。
仲間と勘違いされたか? ヨーロッパ・アマツバメが追いかけてきた。
疑似恋愛は嫌いなので、そのまま速度をあげて振り切る。
ここまで上昇したのはストレス解消のためだけではない。
≪≪≪ハロ~テルル。ご
≪≪≪鳥の癖にへんな猫なで声をだすんじゃないよ≫≫≫
≪≪≪クエストを外されたからってカリカリしなさんな≫≫≫
≪≪≪どうしようもいない
≪≪≪そんなんじゃない?≫≫≫
≪≪≪じじいの最後の思い出作り。メモリアル・トリップだよっ!≫≫≫
≪≪≪? よくわからないが、大切なサンプルを変則的因子で紛失した≫≫≫
≪≪≪馬鹿だね。そんなの腐るほどある。欲しいなら幾らでもくれてやるよ≫≫≫
≪≪≪相変わらず口が悪いな。腐るとか馬鹿とか。それより幾らでも?≫≫≫
≪≪≪輪切りにして研究所に持ち込んだパーティーもいるんだ≫≫≫
≪≪≪はい? 他のパーティーもこのクエストに参加しているのか?≫≫≫
≪≪≪鳥頭っ! だから今さら機材なんぞ発注せんでいい。現物を取りに来い≫≫≫
≪≪≪? ……わかった。教授やアルフェスと相談して必要ならお願いする≫≫≫
≪≪≪それより
≪≪≪……ちょっとしたハプニングはあったが……順調に若返り中です≫≫≫
≪≪≪これからパーティーを仕切るのはお前になるんだ。しっかりしな、鳥頭≫≫≫
わざわざ高所まで出向いて通信環境は良好なはずのに、交信はそこで途絶えた。
釈然としないまま、ブルーバードは下降を始める。途中で、
それから石壁で囲まれたヨーロッパ仕様の街を視野に収めて、可也、離れた場所に移動してから一気に急降下する。街には水平に侵入したが不満顔の中年女性の視線が向けられているのをはっきりと自覚する。どうせなら、フルカラーバリエーションにして、他の鳥と見分けがつかないようにして貰いたいものだとブルーバードは思う。
街並みに分け入るとアルフェスは直ぐに見つかる。簡易VRとAR(拡張現実)を駆使しての飲酒中――無害な一般人であると自ら分析し判断した人物ではあるが――部外者のPちゃんとである。ブルーバードは小首を傾げ、念のためもう一つの地球も覗いて見ることにした。そこでは二人して、渓流釣りの真っ最中であった。
欠陥品である教授を例外として、メンバーの誰もリビドー(性衝動)を持たない。
しかしながら、現代の人間においても、恋や愛や友情などは存在しているらしい。
なので突然のキスも、渓流釣りに関しても、複雑ではあるが整合性はありそうだ。
飲酒の様子と、もう一つの地球の双方を観察して、ブルーバードはそう判断した。
次にブルーバードは残りの二人を探すが、なかなか見つからなかった。
『?』疑問符が浮かぶ。そのようなことは通常はあり得ないことだった。
ようやく見つかる。
そこは街外れの原っぱで、教授がギターンを鳴らし、少女が歌を歌っている。
『?』またも疑問符が浮かぶ。もう一つの地球に教授がいないのであった。
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