第12話

「はぁ? どんなピンクって、上下左右どこもかしこも毒々しいじゃねぇかぁ~」

 アルフェスはヤレヤレのポーズをとった。


「ん? それはおかしいね。私には……」

 少女も、赤ん坊を抱いて戻ってきた。


「私には牛乳多すぎのイチゴミルク……極めて白っぽい薄いピンクに見える」

「あばぁぶ」

 赤ん坊も同意した。


「ふむ。意識はしていなかったが、わしにはそもそもマゼンダ……とも違う。もっと臙脂えんじ色に近い……そもそもピンクには見えておらん。赤っぽく見えるのぅ」


「…………それっておかしくありません?」


「んなもん建てた人間がペンキかなにかで細工したんだろ。だまし絵とかトロンプ・ルイユ(トリックアート)とかさ。人間の脳味噌なんか不完全で錯覚させるのなんざ簡単だ。この塔の趣味の悪さを考えたら、そんな仕掛けはサイコ野郎がいかにもやりそうなことだぜ」

 相当疲れたのか、アルフェスはその場で寝転んだ。


「そうですね。誰かが建てた建物ならその可能性もなくはない。ですが本来、物質が吸収せず跳ね返す光の波長を認識するのが色。植物の葉が緑に見えるのは、葉緑素が光合成を行うのに必要ないからでしょうね。けれど、同じ波長の波が見る者によって違うと言うのは……」


「あーうっさいうっさい。クリ……フィガ? ……Pちゃんでいいや。おまえは理屈っぽいな。楽園地帯の連中は変わり者が多いが、Pちゃんは特別だ」


「人を九官鳥みたいに言わないでください。それより頼んでいたことは?」


「ちゃんとやってきた。なにも無かったぞ? 階層はどこも一緒だ」


「間違いないですか?」


「ったく、その為に高度計預かったんだろう! Pちゃんが言った150メートルの地点を確かに調べた。念のためにその上下の階層もくまなくな !」


「そうですか……なにもないなら大問題ですね」


「ふむ。そでり合うも多生たしょうえん。現世で会うのは前世からの因縁と言うではないか……いったい何を調べているのかのぅ? Pちゃん」

 無宗教であるはずの教授が、意味深な誘い水を出す。


「ふっ。なんか抜け目がないな~。教授はおおよそのことは知っているのでしょ? ……実は僕がこの塔に登るのは今回で二回目です。去年の夏に一度、訪れています。そのときは永久凍土を探索中にビバークするのに丁度よい古い建物って印象でした。それであまりに快適なので緊張が緩んだのか、汚い話ですがお腹がゴロゴロと……」

「Pちゃんだけにか?」

「Pちゃんを定着させるのはやめてください……それでまあ、汚いですからフロアを移動しその日は塔で一夜を過ごしたのですが、朝起きたらその汚物がなくなってた」


「それはおしめを取り替える必要がないから便利だね」

 少女は目をぱちくりとさせた。


「こほっ。緊張感ない人だ……えーとですね……その時は予定もあったのでそれ以上調べることができず、今回は地上150メートル付近に……言い方が難しいな。今回は固形のですね……まあ……野糞のぐそをプロデュースしたわけです」


「……」

「…………?」

「………………てんめぇ! 俺に野糞を探させてたのかっ!!!」

 寝転がっていたアルフェスが飛び起きて胸ぐらをつかんだ。


「重要なのはそこじゃない! 暴力はやめてくれ。僕はこの調査に、二週間もかけている。高さ634メートル。塔の頂上まで登り、慎重に他の生物がいないことを検証しながら下りてきた。そして150メートル付近で野糞をしてから下から他の生物が上がってこないよう息を殺して見張っていたんだ」


「おまえ頭イカレてんなっ! ずっと野糞の話しかしてねぇぞ。意味がわからない」


「じゃあ、はっきりさせておきましょう。このピンクタワーは生物です!」











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