第13話
「あばぁぶ」「ミルク飲んでご機嫌だね」「ここに泊まるか? バルーンの2時間は結構きつい」「あの聞いてます?」「それにしても旅慣れてないな。荷物が多すぎ。ランタン、寝袋、ガス式グリルと製水器、珈琲メーカーとラジオ……高度計に……光度計に……硬度計!? なんじゃそりゃ!」「荷物を漁らないでくれ」「べろべろば~」「キャッキャッ」「全部スマートグラスでやれよ」「いや無理でしょ。調査にはそれなりに」「この塔はおちんちんみたいに伸び縮みする?」「あ、それっ完全に馬鹿にしてますよね」「よくこんな薄い寝袋で寝られるな~」「だから……」
「皆さんも気付いてるでしょ? この塔の内部は生まれたばかりの乳飲み子を……」
「ふむ……外に出せるほど暖かい」
教授だけが独りうなずき、なぜだか珈琲のおかわりを催促した。
「美味しかったんですね……それだけじゃない均一だ。均一なんだ。大きな入り口がある一階も634メートルの最上階部分も温度計で測れば同じ温度に保たれてる」
「温度計まで持ってんのかよ!」
「混ぜっ返さないでください。で、特定の照明があるわけじゃない。床も壁も天井も全体が弱々しい光沢のような
「興奮するな。ふむ。傷ついた箇所は自己修復されているということじゃのぅ」
「そうです。そして決定的なのは養分の吸収。これだけは生物以外ではありえない」
「あばぁぶ」
赤ん坊が激しく同意した。
「ふむ。
教授は両手で頬杖をついたまま、三本目の手で珈琲を持って指摘する。
「塔が生物であると仮定して、しからばどこからエネルギーを得ているのかのぅ」
「それはわからない。けれど白い夜に忍者村から眺める塔の色が人によって見え方に違いがあると気づいたときに確信した。知性だ。この塔には知性らしきものがある。相手の色覚に影響を及ぼす理由は、違いがあるのは、塔が相手を選別している証拠。そして僕が観察している間に汚物が消化されることはなかった。それが行われたのは下の物音に反応して僕がいなくなった瞬間だ」
「あれれ? その話はジョークでもなかったんだね」
少女は小首を傾げ、保温ゲージに赤ん坊を寝かしつけながら、珈琲を要求した
「つってもにわかには信じられないな。このスロープは? 上に上がる通路みたいなものは人間が作らなきゃ説明がつかんだろ」アルフェスも珈琲を要求した。
「ところがそうでもない。自然界にはよくあることなんだ。複雑な花の構造もすべてフィボナッチ数列で説明できる。シマウマはなぜ縞模様なのか? キリンの模様も同様です。すべては数学的説明ができる。彼らは偶然、生き残ったから存在するに過ぎない。竹という植物はご存じでしょう。素早く成長し、且つ力学的に応力に堪えうる理想的な構造をしている。この塔はまさにそれ。タケノコがニョッキしただけだ」
「ふむ」教授も珈琲のおかわりを要求した。
「何杯飲む気ですか! 僕はメイド喫茶のメイドじゃない。ブルーバード持参で来たんだ。ここまでは教授もすでにわかってることでしょう? 生物であるならば、僕は研究がしたい!」
「ふむ。すまん。実写で飲む珈琲は旨くてのぅ。ふむふむ。マザーAIからクエストを受けた時におおよその話は聞いている。信じられなかったがのぅ」
「ちょっと待て。研究したいって俺たちのクエストに参加したいって意味か? 楽園地帯の一般ピーポーが参加できるわけがないだろ」
アルフェスがあきれ顔で割って入った。
「交換条件がある。僕が持ってきたのはラジオや珈琲メーカーだけじゃない。一週間かけてやっとこれだけ……深紅のキャッツアイやピジョンブラッドのルビーほどではありませんが、価値のあるものです」
そう言って、Pちゃんはマッチ箱ほどのピンクの欠片を差し出したのだった。
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