第11話
『リレーラジオの最後のバトンは
「
「まったくですねぇ~」
巨大な桃色空間にボリュームを抑えたラジオの音だけが静かに流れる。
「先ほどは大変失礼なことを……どうも情緒をコントロールするのが苦手で」
「気にするな。スマートグラスが戦闘モードに入ったままだったのじゃろ? しかし挑発は作戦としては有効じゃが、アルフェスがいなければ、切り刻まれとったぞい」
教授は青年から差し出された珈琲を受け取り、柔和な笑みを浮かべた。
『へぇ、VRなしでバスケットボールを実際にやっちゃうんだ。美波なんか感受性が鈍くさいのかVRでもこけちゃいますけどね、あは。枯れそうなベンジャミンさんはスポーツ保存会なんてすごい。いつも応援ありがと。そだね。大切なものは後世まで残したい。こちらもそんな一曲、ルイ・アームストロングで、Hello Dolly Live』
二人は同時に珈琲を飲み干し、テーブル代わりの保温ゲージにカップを置いた。
「……で、なんでここにいる? 危険地帯にソロキャンプってわけでもあるまい?」
「尋問ですか?」
「尋問ではない。わしはポリスじゃない。そもそもポリスなんて古い言葉じゃて……レジスタンスが暴れていたのは遠い昔話」
「ですね。古い昔の概念……僕も同じです。学究の徒。マザーAIとなんらかの端末でつながっている現在に必要ない、VRを使わずギターを弾くとかバスケットボールをするのと同じ、趣味の領域です」
「学究の徒? ……それよりどうやって? 近くにバルーンはなかったようだが」
「はは。手動でバルーンを運転なんかできませんよ。永久凍土の際にジャパネスクのスラムがあって――小さいのであまり知られてませんが――世界観さえ守れば貨幣も必要ありません。隠れて豆をボリボリ食うような連中です。で、これはNinjaというスタイルです。そこから歩いてきました」
「永久凍土まで? 徒歩でじゃと?」
「これでも地上民ですからね。あなた方よりは寒さに強いですよ。中世ヨーロッパの世界観ですけど一応杖まで持って……ウィザードっぽいその衣装の下にいったい何枚重ね着してるんですか?」
問われた教授は指で数えていたが、途中で我に返った。
「そんなことより何を研究しとるのかね?」
「生物全般です。ここいらの木々は効率よくエネルギーを生み出すために取り込んだ炭素を圧縮して……まあ、ターボエンジンみたいなものですね、光合成しています。
この進化は地軸が傾き寒冷化してから程無く獲得したもので、裾野には花を咲かせる草もある。無論、
「おいてめぇらっ! 姉さんと俺に上階を調査させておいて、なに寛いでんだ!」
アルフェスが戻ってきた。
「老人には無理じゃて。それに青年を見張っておくよう言ったのはお前じゃないか、アルフェス」
「だからって侮辱してきた相手と仲良く喋ってんじゃねぇよ」
「おまえこそ、常日頃から欠陥品、欠陥品とわしを侮辱しとるじゃないかっ!」
「…………まぁまぁ、お二人とも。あれは僕が悪いのです。すみませんでした」
「そうだそうだ。って名前なんだっけか?」
「クリフトPフィガロです」
「うん。それな。いかにも楽園地帯のゴロツキが好きそうなキラキラネーム」
アルフェスはくたびれた様子で床に腰を下ろした。
「呼び
「そんなのどっちでもいい。クエストの邪魔になるから一般ピーポーにはお引き取り願う。俺たちが二度と会うことはないだろう」
「ですね。本来なら僕もポリスと一緒にいるのはご勘弁願いたいところ……ですが、クエストとはこの塔を調べることですよね。ピンクタワー……ピンクタワー。言葉にすると簡単ですが、実際、皆さんの目にはどの様なピンクに映っているのですか?」
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