第10話

 << ちりぃ~~ん >>   



             鈴の音。 が響き、

                         シュィィィーン


     ガギィンッ!!!                  

                                  ギチッ


                  金属がぶつかる、 音。音。


 


                << ――――――ズザァァァーーー >> 






 瞬間的だった。パーティーの頭上に降ってきた影に、少女の剣技が炸裂したのだ。

 刹那、ボロキレみたいな黒い塊が吹っ飛び地面をこすりながら10m先、止まった。


 教授は慌てて少女が抱いている赤ん坊をもぎ取り、盾を投げ捨てたアルフェスが、跳躍『すとんっ』と両者の中間地点に着地した。そのまま中国拳法の蟷螂拳とうろうけんの低い体制に構えて、左手に円形の刃物を、右手で後ろを制するようにストップのサインを送った。少女の暴走を止めるためである。



「失礼しました」ボロキレは立ち上がると、意外に大きかった。

 それは黒ずくめの奇抜な格好をした、色白メガネの青年だった。


「失礼しましたじゃねぇ! いきなり襲ってきやがって、怪しい奴めっ!」

 アルフェスは臨戦態勢のまま相手を威嚇した。


「いや……こんな所で自分以外の人間と出くわすなんて普通は思わないでしょう? フィンランドやノルウエーじゃない。もしも白銀しろがねネズミだったら死亡確率爆上げです……そっちこそ怪しさ満載だな。服装だけなら中世ヨーロッパ風の世界観だけど、大事な盾を放り投げて得体の知れない武器を構えるところなんか……」

 メガネのレンズが光り、様々な数字や記号が浮かび上がる。

 どうやらそれはスマートグラスのようで、知性として今の現状分析と同時に、AR(拡張現実)で視覚的に情報を投影し、青年に伝えているようだった。

 彼の目にはパーティーの関係性や立場、性格などが瞬時に映ったはずである。



 そして気づかぬうちに、ブルーバードがアルフェスの頭上付近に静止していた。



         スマートグラス VS ブルーバード



*ブルーバード*

<分割『A~F』の『C』、地区『A~Z』の『F』、地番『A~N』の『K』>

<個人レベル番号C・F・K・12704342986、この人物は実在する>



*スマートグラス*

<抗戦しても勝利確率ゼロ>

<危険性無し>

<以上>



 ここでやっと両者に安堵らしき空気が流れた。

 

「なんだ楽園地帯のゴロツキ一般ピーポーかよ。びっくりさせんな」

 アルフェスは構えをいてそう言った。


「ゴロツキ呼ばわりは酷いですね。マザーAIは人類の誰一人として差別的に扱ったりしません。こちらこそびっくりです。ポリスが二人……赤い鎧はこの辺り一帯ではキータイトルですね。ポリスであり尚且つ、グラディエーター。しかも女性。初めて見た。驚きましたよ。優雅に鈴の音のするおもむきある抜刀ばっとう術なんて、コンバットナイフじゃなかったら死んでた。冷や汗ものだ。しかし……変な組み合わせですね。ポリスが二人と年老いた人造人間が一匹、それと……赤ん坊?」

 

「おい若造っ! てめぇさっき差別がどうとかかしてやがったが、人造人間は人間じゃないってか?」


「人造人間なんてものは、マザーAIの一部であるバイオコンピュータの、そのまたさらに一部の端末機器に過ぎないと思いますけどね」


「てめぇまだ言うか? ぶっ殺すぞっ!」


「グラディエーターならいざ知らず、ポリスのあなたに殺人の権限はないはずです」


「まぁまぁ二人とも」教授が割って入った。


「だってよぉ、教授」


「事実だからわしは傷つかんよ」アルフェスの側に歩み寄り、

「それよりこっちを頼む。どうもわしが抱くと赤ん坊は嫌がるのぅ。そっちのほうがよっぽど地味に傷つくわい。おまえにはなついとるからのぅ」

「俺が一番最初におしめ取り替えたからじゃねぇか? よしこっちにこい。それより姉さんを頼む」

 アルフェスが赤ん坊を引き受けた。ところが……



「はんぎゃぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


「誰が抱いたって一緒だよ。ミルクの時間だ」

 少女の瞳に光りが戻った。








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