第47話
「キノコだよっ!」「キノコじゃないっ!!」議論は白熱している。
僕らは15階から16階のスロープを渡っている。太股はもう、パンパンである。
「ピンクの塔は本体じゃない。地下に菌糸が走ってる。そっちが本体。これはまさにキノコの特徴だろ? いずれ胞子をだして繁殖するんだ」
タケルはその説に自信があるようだ。以前から興味があったらしく、可也詳しい。
「酵母菌もキノコと同じ真菌類で近しいけれど、ピンクタワーは天辺まで空っぽさ。キノコとは違う」
だけどリヴァイも負けてはいない。
「生物は無駄なことは絶対しない。必ず目的がある。大抵それは子孫を残すことだ。いつか熟したら、この塔の
「ないね。空っぽだから。驚くべき強度ではあるけれど。僕が考えるにこれは酵母の排泄の結果なんじゃないだろうか。つまり大枠で言うところのウンコだと思う」
うんこは斬新だな~。僕も参戦したくなった。
「成長スピードと構造だけならバンブー(竹)に非常に似ているよ」
Pおじさんからはそんな風に聞いている。
「バンブーは植物だよ? 120年ごとに花を咲かせては枯れる。光合成する葉緑体を持っていてクロロフィル(葉緑素)があるならここはピンクじゃなくて緑のはず」
く、くわしい。速効で論破された……流石は元グラディエーター候補。リヴァイの小難しさを加速させてしまった……
そもそも何故このような議論になっているのかと言えば、僕が誘導したからなのである。そうでもしないとお礼についての質問攻めに、僕は耐えきれなかっただろう。友達を鬱陶しいと思ったのは初めて……気恥ずかしさとモヤモヤしたどこにも持って行きようのない気持ち。それでなくても周りはピンクだらけでちょっと気が変になりそうなのだ――それにキッスなんて単なる挨拶で――だから僕は秘技、論点ずらしを発動した。これはアルフェスおじさん直伝の戦闘時、マル秘テクニックなのである。
「エネルギーの供給源が深海の太陽なのは間違いないの?」
「それはそうだよ。永久凍土にこんなの作るエネルギー源はないさ。太陽がギラギラしてた大昔なら別だけど。それ以外に仮説さえ立たないから間違いはない。スチームパンクのマッドサイエンティストも錬金術師も風水師も夢見る乙女も皆同じ意見さ。第一、最近になってこんなのがニョキニョキ至るところに生えたのは、マザーAIが光源を調節した結果だからね」
リヴァイがまた髪を掻き上げる。なんだか悔しい。
僕こそ、世界一ピンクタワーに詳しい小学生なのにっ!
「じゃあ、質問。君たちにはこのピンクタワーがどんなピンクに見える?」
「へ? なに言ってんのジュニア」タケルが肩をすくめた。
「世の中には前提をひっくり返すような盲点が存在するんだよ」僕も肩をすくめる。
Pおじさんからこっそり教えて貰った、ピンクタワーとっときの秘密。
「ジュニアは時々、変なこと言うね。う~ん。僕にはクラスの女子のフローレンスの巻き髪にクリソツに見える。タケルはどう?」
「どうもこうも同じ意見さ。そもそも俺にはジュニアの質問の意図がわからないぜ」
フローレンス? 巻き髪? あぁ、あの女子か……
「ジュニアにはどんなピンクに見えてんの? 俺たちと違うの?」
タケルが僕の瞳を覗き込む。
……うん? 確かにあの子の巻き髪の色とそっくりだ。あれれ? 見る人によって色の具合が違うはずじゃ?
「色は物から反射された可視光の組成の差だからね。受容する人間によって感覚質の違いはあるかもしれないけど、フローレンスの巻き髪と同じだと認識されているならフローレンスの巻き髪だよ。彼女はクラスの女子の中で、一番攻撃性が少ない比較的安全な個体だからね、僕たちの一番人気なんだ。常に注目しているから間違いない」
なぬぅ? 一番人気? いつ決まったの? 男子3人中の僕以外……なの?
シャンディーが一番人気じゃないの? 納得いかないぞ。攻撃性…………
確かに……テルルおばさん曰く、女子の心理戦は凄まじいものであるらしい。
リビドーを失った現在においても、太古から続く本能は変わらないようで、性差はなくなっても男子がその手の勝負で勝ちパターンを見いだすことは至難の業である。男子には、より攻撃性の少ない女子を見極める能力が求められる。つまりはそう言うこと……しかし僕をのけ者にして、勝手に人気投票したのには納得がいかないっ!
「ジュニアには納得し難いかもね。君のオンリーワンが、シャンディーなのは僕らも十分に承知している。投票結果は不満かもしれない。でもねそれは良いことなんだ。皆が皆、同じ女子が一番だと世界は滅びる。現に僕とタケルは被っている。これは、戦争の原因にさえなり得るよ。君の道を僕らは尊重する。なにせ意味深な身につけるアクセサリーをプレゼントしてそのお返しにキッス現象を君は発生させたんだから」
ぬっ! 話が循環してキッスの話題に逆戻り。小難しどころの騒ぎじゃない。
なんでそんな気になるの? もうこの世界にリビドーなんて存在しないのに。
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