第44話
はっ! 気づいたらバルーンは地べたの上だった。透明のハッチが薄桃色に染まっている。
「自動運転を切って三方を山に囲まれたこの渓谷に着地する技術は、それなりに僕の見せ場だったんだけどな~」
またもリヴァイが、意味ありげに髪をかき上げる。将来、禿げちゃうぞ?
能力者に時間を削り取られたような気分。要するに、僕は、動揺してたのだ。
「でっかいな~」
タケルが見上げる先にはピンクの壁が聳え、その色がハッチに映り込んでいた。
「とりあえず降りよう」
リヴァイが促す。
「トゥッ!」
「トゥッ!」
タケルはクリケットバット。僕は蜘蛛の糸で作られた
「サァーっ!」
マントを翻しリヴァイも飛び降りた。今日の彼のテンションはいつもと違って変である。
三人揃って、改めてピンクタワーを見上げる。
近くに停めすぎたようで天空率(空の見える割合)が極めて低い。なんだかよくわからないが、壁である。手触りは幼女が花を育てるプランターの素材みたいだった。
「おかしいな。聞いてたよりずっと大きい。ほんの二週間ほど前なのに」
リヴァイが首を傾げる。
「なぁ、とりあえず拝んでおこうぜ。なんかの宗教施設みたいじゃんか。テンプルっての? 宗教は否定してもこういうのはちゃんと拝んどいた方がいい」
「拝んどく?」
「拝んでおこう!」
パンッパンッ。タケルの提案に僕たちは素直に従った。なんとなくだけど、それが正しいことのように思う。僕は祈った。『彼らがさっきの話題を忘れますように』
「理屈では理解してたけど、これが生物だとは実際に現物を見ても信じられないね。それにどうやら、ミニチュアサイズだったのが、短期間でここまで成長したようだ」
リヴァイが槍で壁を突っつく。コンコンッと乾いた音が鳴る。
「どうする。それなりに遊べそうだけど中はただの空洞だろ? クリケットバットは持ってきたけどボールは持ってきてないんだ。こんなに大きいと思わなかったから。さっきのは冗談じゃなくて永久凍土で死体は腐らない。古代生物のフリーズドライがあるかもしれないから周囲を探検しようか」
タケルがぐるんぐるん腕を回す。
そう。真冬以外のピンクタワーに意味なんかない。中はスチームパンクシティーの一般家庭の空っぽの一階部分を重ねたような単純な構造のはず……
「死体を持って帰っても腐っちゃうよ。かと言って、周りは何もない太古から荒れ地だったようだしお宝は期待できない。僕的には予定通り探検してこの槍を……天辺は無理そうだから……とりあえずいい感じの所に突き刺してクエスト完了したいんだ」
そうか。リヴァイにとっては大切な目的があったのだった。
「そうだな。とりあえず中も見たいよな」
タケルが頷く。僕も頷いた。どんなことでも足を使って実体験したり実物を見たりすることが大切なんだと、Pおじさんからいつも教えられている。
グラディエーターと放浪の画家とクリケット選手は改めて見つめ合い頷き合う。
……さて。どこかに大きな穴が一個あるはずなんだけど……
「とりあえず入り口を探そう。こんなに大きいと思わなかったから、ちょっと時間がかかるかもしれないけれど、どこかに一つだけ穴が開いてるはずだ。人類の前に突如現れた謎の塔。役目を終えた兵隊蟻に生きがいを与えるように、グラディエーターの魂を慰めるように今や宝探しの拠点となっている生物の塔。愚かなレジスタンスが、潜んでいるかもしれないから気を引き締めてっ! パーティーメンバーいざゆかん」
やっぱりリヴァイのテンションがおかしい。だけどここは一緒になって楽しもう。
「らしゃぁぁ」
タケルがクリケットバットを頭上で回す。
「さぁっせー」
僕も絵筆を二本取り出して十字に構えた。
いや……中にはなんにもなんだけどね、多分。
雹の降る冬場以外に、ピンクタワーに意味なんかない。
だけどタケルが言うように不思議な御利益はあるのかもしれない。
みんなあの話題のことはすっかり忘れてるっ! ラッキー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます