第30話
(チュン)ん。(ツーピツーピ)う~ん。(ツィピーツィピーツィピー)ふわぁ。(チュチュパーチュチュパー)夢を見てた。(パチュパチュパチュパチュパチュパ)(ツーピピッ)ん?
何もかも塗りかえたような朝です。よく寝たなぁ。ベッドでひと伸びする。
「おはようございま~~す」一階に降りて朝の挨拶をすると、
「おはよう~ジュニア」
「おはおっはー」
返事が一つ多い。隣の
二人はお
片方は正真正銘の4歳児だけれどセンスがあるらしく、教えて貰っているのは幼女の方で、僕の小言にはすぐにふくれっ面をする癖に素直にふんふんと頷いては花弁の位置を修正している。
「じゅにあちゃん。がっこうわ~?」
「半ドンの次の日はお休み」
「ふ~ん。へんなのぅ~くすくす」
僕も思う。初登校の次の日がお休みなので気が抜ける。だけど今どき本物の学校に通うのなんて生まれてくる子供の何%だ? 今年の一年生は7人。この街全域でまるっきりそれだけ。けれど地下空間よりはまだましで、親のいる子がそもそも少数派。大抵は里親にだされ、養い親 である人造人間に育てられる。
「
「せれんちゃんおっかしー。ぶいあ~るだよ」
そう。世界感をエートスとしても、子供には仮想現実で教育するのが普通なのだ。でもまあ、学校という選択も悪くはない。コーヒーがすぐに冷めるけど、僕は生まれ育ったこのパンクでファンキーな街が大好きだし、生身の現実こそが大切だと思う。
本当のVRがどんなものなのか……地下空間にも行ったことはないけれども……
「そうだ。ジュニア。お使いに行ってきてくれ」
「なになに~なになに~?」
「お酒だ」
「おちゃけ?」
「わかった。Pおじさんに届けてくるんだね」
「そうなのだ」
「わたしものむ~~~」
「
「やだぁくだものだもん。なんでわたちぃのめないの?」
4歳児はひたすら質問を繰り返すので話が進まない。大人すぎるのもそれはそれで困るのだけれども。「オッケー。うんしょっと」僕はかなりの重量を持ち上げた。
「ととと、ちょ」重いのでよろけながら歩き出すと幼女が背中から抱きついてきた。
「なに?」「別れのハグじゃ~」「わたちぃもはぐする~」進めない……前言撤回。
「もう二人とも離れてくれ」「だめじゃ」「むぎゅう」やれやれ。
少しの間、押し合い
「ぬぉ!!! ペーパープレイン・バタフライだ!」「ぺ~ぱぷれん・ぱたふらぁ」
幼女達が走って追いかけていく。ほんとやれやれ。
その隙に庭から通りに出た。背中から「Pちゃんに飲み過ぎるなと注意しとけぇ」
、幼女の声だけが追いかけてくる。
何度かリカーボトルを地面に置いて「ふ~」休憩しながら工場まで辿り着く。
Pおじさんの工場は近所から成金と嫉妬されるほど大成功している。蒸気の勢いはこの街一番。
作っているのはフルカラーシルクの織物。糸を染めなくても遺伝子操作された蚕はこの世のあらゆる色を吐き出す。美しくナチュラルで染料の余分な刺激がないので、VRで過ごす生身の体に触れる生地としても最高だから、近隣の街はおろか地下空間や海底都市などからも注文が来る。
羨ましがってみな真似しようとするが、誰にも真似出来ない。
僕だけがその秘密を知っている。僕だけにおじさんはこっそり教えてくれた。
秘訣は餌にある。おじさんは長年、ある物質の研究を重ねることで発見したのだ。
わくわくするような新しい研究も始まっている。
樹氷グモにその餌を食べさせ、地球上で最も強い素材を作り出す計画だ。
クモの糸は昔から夢の素材で重さあたりの強靭性が鋼鉄の340倍、炭素繊維の15倍といわれている。もちろんコストの高いものなら実験室で少量作れるが、おじさんが目指しているのは質もコストパフォーマンスも段違い。ステレオタイプの古いマッドサイエンティストなんかには思いつかない、実戦タイプ。
僕は親の期待通りの剣術の才能を受け継いでいない。気が弱くて引っ込み思案だ。
でもクエスト攻略なんてレジスタンスがいなくなってからは斜陽産業で、将来的に困ることになるだろう。それでは幼女の面倒をみることは出来ない。勉強は得意なので大人になったらおじさんの工場で働かせて貰うことになっている。男の子は自分の能力を見極め、家族の為に戦わなければならない、とは僕らの共通の意見。
おじさんは(俺と同じ境遇のジュニアには全てを教えてやる)と約束してくれた。
ちょっとおっかないけれど、僕はPおじさんをとても尊敬している。
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