第67話
機械仕掛けの
それを観て女神は微笑む。さりとて、人知を超越した存在であるからそれが慈愛の笑みなのか邪悪なしたり顔なのかは判断尽きかねる。エレウシスの秘儀に祭られる、死と再生を司る女神・ペルセポネー・
オガール大陸東方、そこはジャルビックの大森林。
無機物の庭に女神はいつも独りきり。なぜなら彼女が触れる生きとし生けるものは例外なく、未来の名の下にその命を奪われる。あぁなんと謂う悲しき呪われた定め。
しかし、死と破壊と消滅を乗り越えずして、どうして再生などありえようか?
神々の崇高なる使命。我ら俗人が、その真意を推し量ることなどできようか?
女神が作りたもうた迷宮が如き麗しき庭。そこは世界の始まりと終わりを映す鏡。
赤いムームーを纏った女神は、吹き通るアーカイブの風に亜麻色の髪を靡かせる。
デジタルの庭の
白い指先が摘んだストローに、赤い唇が近づく。
一口目。すっぱさに長いまつげが瞬いた。
二口目。物憂げである。
三口目。草木が水を与えられたように、命が溢れるみたいに、黄金比でも白銀比でもなく数値化の難しい麗らかな美の表情を浮かべ……そしてちらりとあちらを見た。
そちらにはブルーバードが一羽、飛翔しているのであった。
オガール大陸西方。彼は大国の王子であった。恐れ多くも女神に恋をしたために、神々の怒りに触れて、モバイルの魔法によりメカに変えられたのだ。
それでも尚、彼は飛び続けた。女神を不憫だと案じ、長い旅路を飛んできた。
女神は天に向かい声をあげる。
「私が踏んだ草は枯れ、撫でた子鹿は息絶える。どうかこの呪いをといておくれ」
そう。女神の死と再生の輪廻は自らの死によってしか終焉を迎えることはない。
ブルーバーは音速を超え、マッハの速さで真っ直ぐに彼女の心臓をつらぬいた。
あぁ……女神は息絶えた。すべてが終わった。おゃ? 微かに聞き覚えのある……
ドクン。ドクン。ドクン。おぉ、なんたることかっ!
女神は死んだ。確かに死んだ。死で満額の借金が清算された後に、青い鳥は自らを生け贄として女神を蘇らせたのだ。
女神の左胸の奥で、ブルーバードのマシーンな心臓が脈打つ。
呪いは解き放たれ、青い鳥の鼓動で新しい命として復活した。
おぉ~なんたる~祝祭よぉ♪ 再生を司る女神の奇跡よぉ♪
我ら青い鳥の勇気をたたえん♪ 女神の美しさをたたえん♪
「………………なにこの
「いや……これが無意識下ってことらしい」
「はぁ? なんで私の無意識なのにセレンちゃんが主役なのよぅ? ジャルビックの大森林ってなに?」
「よくわからないが、最近見た光景だからじゃないのか」
「無理矢理に映像化したけど、こんなの只のクズデータよ。人肌にこびり付いた思念の残滓……物質なら静電気みたいなもんね」
「いやまぁ、意味はないらしいんだが……これがないと危険らしい」
「混ぜるな危険? ちょっとっぉ~~~! ジュニアちゃんのも見せなさいよ」
「ちょっ! ダメダメ。だから俺には存在しない。それがとても大問題みたいで……スパイ映画でよくあるだろ防犯カメラの映像を繰り返すよな細工を……覗こうとして覗かないと見えないからそれで大丈夫だろうって教授が……」
「ふ~ん。よくわからないけど、適当に拾った人造人間にしてはやるじゃない」
「あぁ、楽園地帯で一番最初に出会ったから声をかけた。だけど……」
「またぁ~俺の行動には意味がある~未来がどうたらこうたらって話? 一度AIの精密検査を受けたら? ジュニアちゃん、時々ぼーとして未来に意識飛ばしちゃって……将来の旦那の脳味噌がそんなじゃ、心配よ」
「だから付き合ってはいるが婚約をした覚えはない。それと教授はなんか良い人だ」
「頑なにそこは譲らないわね」
「人生には常に予想外が起こり得る」
「そうね。まさか好ましい隣人だと思っていた家族が、元はゴリゴリのレジスタンスだったなんてこともあるし……」
「そう、そして引退して静かに暮らしていたら、隣りにグラディエーターが子連れで引っ越してくるなんてこともある」
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