第4話 婚活パーティ反省会

「そりゃそうよ。いき遅れなんだから」



 友人であるキャサリン・マッキントッシュは、パスタをフォークで巻きながら、身も蓋もないことを言った。


 パーティの後日。イザベルは、キャサリンのもとを訪れていた。パーティの結果を報告すると約束していたのだ。


 ちなみに、イザベラの服の手配や、髪のセットなどは、すべてキャサリンが担った。



「男が女を選ぶときに見るのは、家柄と顔と年齢の3つ。中でも家柄が一番大事で、名家であれば、他はある程度目をつむってもらえるわ。けれど、ベルの場合は、言っちゃ悪いけど権力からは遠い。そうしたら、あとの二つの要素が効いてきて、三十路のあんたが選ばれる可能性はゼロよ、ゼロ」


「ゼロは言い過ぎだろ。美人だとは言わないが、そこそこ見れる顔はしているつもりだ」


「そっちじゃないわよ。年齢だって言っているじゃないの。30過ぎて結婚しても、子供が産めないでしょうが」



 子供を三人以上産むと、いい嫁だと言われる。そう母から聞いたことがある。キャサリンはそのことを言っているのだろう。


 一般的に言えば、30歳を過ぎてからの出産は母体への負担が大きいと敬遠される。そんな女を嫁にする男はいない、とそういうことらしいが。



「私ならば大丈夫だと思うが」


「確かにベルなら産めそうだけど」



 この鍛え抜いた肉体が、出産程度で瓦解するとは思えない。むしろ、身籠みごもったときに、この腹筋に逆らって腹がふくれてくれるかの方が心配だ。



「そういう話じゃないのよ。とにかく30女は、それだけで敬遠されがちなの。そしたら、もっと女としての努力をしないといけないでしょ? だから、パーティのとき、あんなにおめかしさせてあげたのに」



 キャサリンが、じとっとこちらを睨むので、イザベラは真摯に見返した。



「そう考えると、キャシーのコーディネートがわるかったのではないだろうか。私は、をしたぞ」


「あ、そういうことを言うんだ。人がせっかく手伝ってあげたのに」


「いや、その点に関しては感謝しているが」


「そもそも完ぺきな立ち振る舞いって、本当かしら?」


「あぁ、それは間違いない。1人の騎士として恥ずかしくない振る舞いをしてきた」


「ちょっと待って」



 キャサリンが眉をひそめる。



「騎士として?」


「あぁ、騎士として」


「女としての立ち振る舞いをしないさいって私は言ったわよね?」


「何を言っているんだ? 私は女なのだから、どんな立ち振る舞いをしようが女だぞ?」


「わかってない!」



 キャサリンは、机を叩いて立ち上がった。



「あのね、女は。そこは騎士と一緒よ。騎士だって、あなたは騎士ですって言われたら、すぐに騎士になれるわけではないでしょ。騎士として立派に立ち振る舞えて初めて騎士になるのだから」



 それはそうだ。



「女も一緒よ。ドレスの選び方、化粧の仕方、男を魅了する歩き方、表情の作り方、男の気分をよくする話し方、それらの立ち振る舞いを立派にこなせたとき、はじめて女になるのよ」


「そ、そうなのか?」


「そうよ。今のベルは、ぜんぜん女と呼べないわ。女もどき。獣のメスの方がまだ女らしい」


「そんなにひどいか……」



 キャサリンの剣幕に、イザベルは気圧されていた。



「その様子だと、パーティでは、笑顔の一つも作らず、そのわるい目つきで威嚇してたんでしょ」


「目つきがわるいのは、生まれつきだ」


「足は揃えた? どうせまた仁王立ちしていたんじゃないの? 腕なんか組んじゃってさ。今からおまえを殺してやる、みたいな」


「まぁ、ある意味、戦場だからな。気持ちで負けるわけにはいかんと気合は入れた」


「料理をお腹いっぱい食べたりしてないわよね? お肉にかぶりついたり、ワインをがぶ飲みしたり」


「あれは美味だった。パーティでの唯一の戦利品といえるな」


「……だめだ、この子。誰か何とかして」



 キャサリンはがくりと項垂れた。



「まぁ、そうネガティブに考えるな。諦めなければ道は開ける」


「言っておくけど、あんたの話だからね」



 ちなみにキャサリンは、10年も前に結婚している。子供も3人。子守りは、だいたいメイドがやってくれるので、十分役目を果たしたと、彼女自身は、現在、悠々自適な生活を送っている。



「もう、まじめに考えなさいよ。ベルが急に結婚したいとか言い出すから、私も手伝ってあげているんだから」


「私はいつもまじめだ。それに感謝もしている。こんなことを相談できる友人は、キャシーしかいないからな」


「また、調子のいいこと言うんだから」



 キャサリンは、一度、ワインを飲んでから、卓の上の鈴を鳴らした。


 すると、奥の方からメイドが数通の封筒を持ってやってきた。



「何だ、それは?」



 イザベルが尋ねると、キャサリンは、いたずらっぽく笑う。



「ベルがパーティで失敗することなんて、このキャサリン様はお見通しだったの。あれは、まぁ、自分の女子力のなさをわかるための練習みたいなもの? まぁ、なんでもいいけど、ちゃんと次のプランを考えてあるわよってこと」


「おぉ、さすが」



 むふん、とキャサリンは胸を張った。彼女は、社交が本当に得意だ。その点、イザベルなどは足元にも及ばない。


 キャサリンは、封筒を掲げてみせて、そして、大仰おおげさに告げた。



「お見合いよ」



ーーー



三十路の女・・・結婚適齢期を過ぎた女。婚活で二十歳前後の若い女に男をもっていかれることが多く、基本的に若い女を恨む傾向にある。ただ、その多くの場合が逆恨みである。また、精神的に不安定であり、ちょっとしたことでくよくよする。それでもがんばる三十路女をみんなが応援している……はずである。

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