第86話 ホリーの冒険 その2 ~聖堂裏~

 ホリーの宣言せんげんに対して、サラにいたっては仕方なしといった様子であったが、トーマスはわりと乗り気であった。彼も冒険などは好きな方だ。


 ただ、調べるといっても、オーディン像はそこまで大きくもないので、周りをぐるりとまわれば、たいてい調べ終わってしまう。


 そして調べ始めてから、しばらくしてホリーは、ある重大なことに気づいた。


 そもそもって何?


 トーマス達を巻き込んだ手前、今さら何を探しているのかも知らないなんて言えるわけもなく、ホリーは、まぁ、何かみつかるだろと考えるのをやめた。



「探す場所はわるくねぇんだけどなぁ」



 ホリーが、オーディン像によじ登ろうとしたとき、小バカにしたような声がかかった。



「あら、テッド。まだ生きていたの?」


「ははは、お言葉だな」



 ふぬけた笑みを浮かべるテッドに向けて、ホリーは、冷めた視線を送った。



「まだ死ぬ予定はないんだがね」


「パパのお嫁さんが、次に会ったら殺すって言ってたわよ」


「マジで?」



 青い顔を見せたテッドであったが、そんなことにホリーは興味がなく、初めの言葉について問い直した。



「ねぇ、探す場所はわるくないってどういうこと? 私が何を探しているか知っているの?」


「いや、それよりベルがどのくらい怒っているのか教えてほしいんだが」


「そんなのどうでもいいから」


「どうでもいいって……」



 テッドはため息をついてから、こしに手をついて、ホリーの問に答えた。



「さっき話しているのが聞こえたんだよ。トールの心臓を探しているんだろ。俺も昔探したなぁ」


「え? テッドも?」


「あぁ、昔からある伝説だからな。少し頭をひねればこのオーディン像にまでは辿たどり着く」


、ってことはこの先を知っているのね」


「まぁな」


「教えて」


「ふふふ、どうしようかな」


「パパのお嫁さんに言いつけるわよ」


「……おまえ、クリフォードに似てきたな。陰険いんけんなところだけ」


「パパに似てスマートなだけよ」



 テッドは、頭をかいてから、オーディン像に目を向けた。



「おい、トーマス。オーディンの左腕にぶら下がれ」


「え?」


「いいから言うことを聞け。それから、嬢ちゃん、そうだ、レイチェル、おまえだ。おまえは、オーディンの足に踏まれている龍の頭の上に乗れ。ん? あぁ、大丈夫だ、誰も見てねぇよ。そんで、メイド、私もですか? って、そうに決まってんだろ。おまえは、龍の左手に置いてある球を持ち上げろ。重い? そりゃそうだ、石なんだからな。それを持ち上げろって言ってんだよ」



 トーマス達は不満そうであったが、ホリーの目もあり、渋々でもテッドの指示に従った。


 それぞれが配置についたところで、テッドは、最後にホリーへと目を向けた。



「よし、ホリー。最後にこの石碑のO、D、I、Nを手で塞げ。いや、そのDじゃない。DefeatのDだ。Iもそっちじゃない」


「ちょっと、そんなの手が届かないわ」


「しょうがねぇな。手伝ってやろうか?」


「むっ、それには及ばないわ」



 少々むきになったホリーは、最後のIの文字に、ぐっと足を延ばした。態勢を直しつつ、足をじりじりと寄せていくホリーに対して、トーマスが絞るような声を出した。



「ホ、ホリー? まだ、かな? もう腕が限界なんだけど?」


「もう少しよ。我慢して」



 トーマスよりも、石の玉を持ち上げているサラの方がきつそうだ。腕をぷるぷるさせているし、顔も真っ赤にしている。彼女のためを思えば、早く準備を済ませてやりたいが、小柄なホリーの足はそこまで長くないのだ。


 やっとの思いで、足を届かせたところで、ホリーは声をあげた。



「押さえたわよ。この後、どうすれば――」



 ガコン!



 ホリーが、尋ねようとしたところで、その答えは、現象として現れた。


 かすかな魔力臭まりょくしゅうと、何かがはずれる音。それからオーディン像がゆっくりと回転し、反転した後に土台どだい事体が横にスライドした。



「「「おー」」」



 そこに現れたのは、地下へと続く階段。いったいいつ造られたのかわからない程ふるびた階段は、深く深く地のそこへと続いていた。



「でかしたわ、テッド!」


「だろ? そこで相談なんだが、ベルになんとか俺のことを許してくれるようにとりなして――


「さぁ、みんな!」



 テッドの戯言ざれごとを無視して、ホリーは、腰に手を当てて、にやりと笑みを浮かべた。



「冒険の始まりよ!」

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