第2話 婚活パーティ その1
イザベルは、グラスを片手に周囲を
三大貴族の一つ、マッキントッシュ家主催の交流パーティ。新たな人脈や、情報交換を目的としており、貴族だけでなく有力商人や一部の騎士も参加する。
以前は、男が嫁を連れていく、という形式であったが、今では、単身者が多く参加するようになり、結婚相手を探すための会合、いわゆる婚活パーティとしての側面をもつようになった。
男も女も、しっかりとした服装をしている。男の方は、服装を見ればだいたいの職業がわかりそうなもので、儀礼服を着た騎士や、女よりも煌びやかな宝石を備えた商人もいた。中でもやはり優雅なのは貴族で、着飾らないわりに気品があり、一目で区別がついた。
女の方も負けず劣らず着込んでいる。
「妖怪のようだな」
まるで口の端を糸で釣ったように笑みを浮かべ続ける女子勢を見て、イザベルはいささか不気味に感じた。
まぁ、イザベルの顔も似たような状況にあるのだが。
赤でまとめた服装。赤い裾の広がったドレスは、背中が大きく空いており、いささか肌寒く、ヒールという靴は歩きづらくて仕方がない。装飾品はイアリングとネックレス。暗めの金髪をかるく結ってまとめ、化粧は薄めだが、基本を押さえた仕上がり。
すべて、友人に頼んだものであり、イザベルは何もしていない。
「誰だ、こいつは?」
鏡を見たとき、イザベルは最初にそう思った。そこには、女の姿をした自分がいた。いや、女なのだけど。
驚きを禁じ得なかったが、なかなか魅力的なのではないかとも思った。
この装備ならば、男もイチコロではないか。
ふふん、婚活。楽勝ではないか。
そう思っていた時期が、イザベルにもあった。会場に着くまでの短い時間であったが。
しかし。
パーティ開始から1時間、イザベルはまだ誰ともまともに話せていなかった。
何故?
テーブルの上の食べ物に夢中になっていたからだろうか。いや、しかし、ローストビーフがあまりにも美味しそうだったのだ。あれは、仕方がない。
ただ、それは本質ではない。
人気のある女の子のところには、男の方から声がかかる。まるで獲物の方から首を差し出してくるかのようだ。
一方で、イザベルに声をかけてくる者はいない。イザベルの方から話しかけても、挨拶程度で、男どもは、すぐに用事を思い出したとどこかへ行く。
自分の顔に忘れ物が書かれているのではないかと、疑ったほどだ。
それがなぜかと考えれば、年齢だろうか。
パーティに集まった女子勢は、明らかに若い。二十歳前後の女子が、尻を振って歩いており、男どもの視線は自然とそちらに集まっている。
イザベルも騎士として鍛えていた手前、肉体的には、というより、筋肉的には若い者に引けを取るとは思えないが、如何せん、顔に関しては年相応に時間を刻んでいる。
「ふふ、私も歳をくったな」
などとイザベルは自嘲しつつ、グラスのワインをごくりと飲む。
いや、いやいや、笑っている場合ではない。
このままでは、訓練を休み、こんなこっぱずかしい恰好をしてまで、わざわざパーティに来た意味がない。
どうしたものか、とイザベルが悩んでいると、突然、声がかかった。
ーーー
マッキントッシュ家・・・三大貴族の一つ。王国を建国する際に、最も多く物資を出資したことで王族から感謝された。政治的な発言力が強く、特に外交の分野を牛耳っている。身内では、マッキントッシュのことをマックと訳すが、外部の者にマックと訳されると怒る。
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