第3話 婚活パーティ その2
「だ、団長!?」
イザベルが声の方に目を向けると、よく知った顔が驚きの表情を浮かべていた。
「ん? ノーマンか?」
そこに立っていたのは、王下騎士団の団員、ノーマン・アンカーソンであった。昨年度配属されたばかりで、まだ若いが筋がいい。
戦闘服や、儀礼服姿を見たことはあるが、今日のノーマンは、シャツにジャケットとラフな格好をしており、いつもよりも幼く見えた。
「貴様、こんなところで何をしている?」
「は! アルバート副団長から招待状をいただきまして、このパーティに参加することとなりました」
なるほど、アルバート副団長はマッキントッシュ家の者である。おそらく、パーティの数合わせのために、ノーマンが呼ばれたということだろう。
「それよりも、団長! あなたこそ何をしているんですか!?」
「私か? 私は見ての通りだ」
「いえ、見てもわからないので聞いているのですが」
どういう意味だ。
「何が悲しくてそんな格好を……」
「そんな格好って」
「悩みがあるのでしたら、俺達に相談してください!」
「いや、悩みなどないんだが」
「そりゃ、俺達は団長に比べれば非力ですが、仲間じゃないですか! できるかぎり力になりますから!」
「待て待て、落ち着け」
イザベルは、はぁ、とため息をついた。
「私は乱心したわけではない。この場に適した正装をしてきたまでだ」
「正装? まさか、新しい魔法武具ですか!?」
そんなわけないだろう。
何言っているんだ、こいつ。
「ただのドレスだ」
「ドレス、ですか?」
「あぁ、そうだ。ここはパーティの場だぞ。女は着飾るものだろ」
「キカザル? 団長が?」
なぜ、そんな、ゾッとしたような顔をする?
ノーマンは、まるでニーズヘッグ級の大蛇に武装なしで対峙したかのように、身体を震わせている。
「そんな顔をするな。私も女なのだから、何もおかしなことはないだろう」
「……はっ! 確かにそうでしたね」
妙な間があったが、気にしないでおこう。
「では、まさか!?」
「まさかも何も、パーティに女が参加するからには、目的は一つ。結婚相手を探すために決まっている」
「……。な、なるほど」
腑に落ちないといった表情が気に食わなかったが、そこは頭を切り替えて、イザベルは、話を続けた。
「まぁ、貴様が驚くのも無理もない。自分でも似合わんことをしているのはわかっている」
「そ、そんなことは」
「こういう場も不得手でな、男に話しかけても逃げられてしまう」
「はぁ」
「この格好に何か不備があるのではないかと考えているのだが、貴様はどう思う?」
「俺ですか?」
「あぁ、かまわん。率直な感想を言え」
「率直、ですか」
ノーマンは、イザベラのドレス姿に目を向けて、ぶわっと額に汗を浮かべた。
「その、あの、う、美しいと思います。ただ、筋に……、いえ、あの、目が怖……、いえ、あぁ、傷が、そう!
「傷痕?」
確かに騎士ゆえに生傷が絶えない。いくつかは、身体に刻まれてしまっているが、これは騎士の勲章のようなものだろう。
「団長のその傷痕は、もちろん立派であり、貫禄すら感じますが、ゆえに、恐れ多いと思い、男としては敬遠してしまうのかもしれません」
「そういうものなのか」
男が言うのであれば、そうなのであろう。かくいう、イザベルも騎士団という男社会で長いこと生きてきたので、ある程度は理解できるが、いわゆるプライドというものか。
「あと、筋肉がどうとか言ったか?」
「いえ、言ってません!」
「目が怖いとか聞こえたが」
「言ってません!」
絶対言ったと思うけどな。
「まぁ、いい。貴様も結婚相手を探しに来たのだろう。どうだ? 私と少し話していかないか?」
「団長とですか!?」
再び、ノーマンはだらだらと汗をかいていた。そんなに暑いのならば、ジャケットを脱げばいいものを。
「も、ももも、申し訳ございません! 実は、今日、体調がすこぶる悪く、もう帰ろうかと思っていたところなのです!」
「何だ、だらしがないな」
「申し訳ございません! おそらく昨日食べたトリカブトとマンドラゴンのスープに当たったのだと思います!」
それはただの毒だが、なぜ食べた?
「決して、決して! 団長の結婚相手候補にされるのが嫌なわけではありませんが、体調がわるいので帰らせていただきます!」
「そ、そうか。わかった」
ノーマンは、一礼してから踵を返し、まるで逃げるようにして会場を出て行った。
「よっぽど体調がわるかったんだな」
その後も、目立った戦果はなく、イザベルは、慣れないドレスを着て、ただ、うまい肉とワインを食べて帰ることとなった。
ーーー
王下騎士団・・・王族直轄の騎士団。王国の危機に対応する。敵国やモンスターとの戦闘を担う。所属したことがあるというだけで、生涯食うに困らないといわれる。その実力は偽りなく、団長と隊長にいたっては、次元が違うと言われている。その隊長達からも、イザベル団長は次元が違うと恐れられている。
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