第19話 改めてお見合い その2

「遅かったわね」



 マッキントッシュ家の屋敷を訪れて、クリフォードは、メイドにお見合いの会場へと通されていた。


 そこにやってきたキャサリンは、かなり苛々とした声で告げた。あまり刺激しない方がいいだろうと、言葉を選びつつ、クリフォードは事情を説明した。


 キャサリンは、ふぅんと興味なさそうにこたえて、特に理由を告げずに、少し待って、とだけ言って一旦去った。


 それから、ずいぶんと待たされた後、キャサリンと一緒にやってきた女性を見て、クリフォードは驚いた。


 淡いグリーンのドレス、ダークブラウンの髪は後ろ側できれいにまとめられており、同じ色の瞳が力強くこちらを見据えている。


 なるほど、ヘビィコングとはよく言ったものである。


 女であるというのに、その肉体は隆々に鍛え上げられている。いったいどれほどの訓練をすれば、ここまで凄まじい肉体を作れるのだろうか。


 筋肉が飾りでないことを示すように、白い顔、白い腕には、傷があちこちに刻まれており、 百戦錬磨の経験を窺わせる。


 イザベル・オルブライト。30歳。性別はちゃんと女。女性でありながら、王下騎士団団長を務める。


 正直、女が王下騎士団団長という話に関して半信半疑だったのだが、実際にその凄まじさを見てみて、クリフォードは納得した。


 いや、うん。

 それはそうなのだけど、それよりも。



「メイドさん、ですよね?」


「いや、人違いだ」



 イザベルは、さっと目を背けた。



「いえ、でも、さっき」


「人違いだ」



 どうやら、そういうことになったようである。団長がどうしてメイド服を着ていたのか、さっぱりわからないが、何か事情があったのだろう。



「何かあったの?」



 キャサリンが首を傾げるので、クリフォードはそれとなく説明する。



「いえ、大したことではありません。先ほど、騎士の乱闘に巻き込まれてしまいまして、そのときに、彼女によく似たメイドを投げ飛ばしてしまったもので、怪我をしていないかと心配していまして」


「ふん、あの程度で私が怪我をするわけがないだろう」


「あれ? メイドではないんですよね?」


「……あぁ、そうだ。私が言いたかったのは、マッキントッシュ家のメイドならば、投げ飛ばされたくらいで怪我をしないということだ」


「そうですか。私は、マッキントッシュ家のメイドとは言ってませんが」


「……」



 おっと、ちょっと口が過ぎたか。



「失礼しました。今日は、メイドではなく、団長殿とお話をしに来たのでしたね」


「……おう」



 クリフォードがにこりと微笑むと、キャサリンが横から口を挟んだ。



「ちょっと、団長はよしなさいよ、クリフ。今日は、肩書は抜きにして、男と女として会っているんだから」


「そうでしたね」



 だとしたら、キャサリンはいったいどんな立場でここに立ち会っているのだろうか。


 しかし、男と女と言ってもな。初対面の女性と話すことなど、特にないし、気になることもあまりない。


 クリフォードが悩んでいると、イザベルの方から声をあげた。



「二つ確認させてほしい」


「何でしょうか?」


「今まで何をしていた?」


「経歴はキャサリン様から聞いているのでは?」


「キャシ、いや、キャサリン殿のご子息の剣術指南役だとしか。以前、どこかの騎士団に所属していたのでは?」


「魔境騎士団に所属していました。まぁ、あなたと違って下っ端でしたが。任務の最中に負傷して除隊。その後は、今の通りです」



 クリフォードは、剣で斬られたせいで、ほとんど動かなくなってしまった義手をひらひらと見せた。


 すると、イザベルは一度驚き、しかし、納得したように頷いた。



「道理で、あの強さか。得心いった。いや、私も魔境騎士団にいたことがある。貴殿と会ったことはないが、いつの入団だ? 私は384年だが」


「だとしたら、会っていませんね。私は382年に退団しています」


「382年? そんなに若く? いったいいつから」


「聖マリア中央学園を卒業してすぐですよ。たまたまツテがあったんです」


「たまたま、か。まぁ、いい。では、もう一つ」



 そう言って、イザベルは、足元から短剣を取り出し、テーブルに突き立て、にやりと笑った。



「私と貴殿、どっちが強い?」



ーーー



聖マリア中央学園・・・セントラルにある最高峰の学園。男女関係なしに、政治、経済、剣術を学ぶ。特に騎士養成には力を入れており、王下騎士団の団員は、中央マリア学園から輩出される。女子の目的は、主に将来有望そうな男子を値踏みすることであり、恋愛という視点では、かなり殺伐としている。

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