第43話 舞踏会 その3
「よくお似合いだな、団長」
「言葉通りに受け取っておくよ、マイルズ」
マイルズ・キングストン。キングストン家の三男坊で、王下騎士団の三番隊隊長だ。 髭面で短髪の彼は、熊のように身体が大きく、力だけで言えば、イザベルといい勝負である。ただ、図体のわりに小心者で、ついでにひねくれており、その点で周囲の評価が低い。
大柄なマイルズは、イザベルを見下ろすようにして言った。
「そのまま騎士を辞めたらどうだ? ドレスに剣は似合わないだろ」
「冗談だろ? ドレスか剣かと聞かれたら、迷わず私は剣を取るね」
「相も変わらず剣術バカだな」
ハッと嫌そうに笑って、マイルズは顔を背けた。この男は、小賢しいことをするわりに、感情がすぐに態度に現れる。
その点、イザベルとしては、接しやすいタイプだ。腹の内で何か思われているよりも、発露してもらった方がいい。それが、好感か、悪感かは別として。
「警備の方はいいのか? 今日は1番隊と3番隊で警備に当たっていると聞いたが」
「俺の部下は優秀だからな。俺のやることなんてないさ」
だからって、サボっていいわけではない。そもそも、この警備は、彼の方から名乗りをあげたのだ。ヒュドラ討伐で活躍できなかったから、たまには仕事をくれと。
まぁ、彼なりに仕事の仕方があるのだろう。何か起こったときに、対処できれば、それでいいか。
「そうか。ところで、カール殿は来ていないのか?」
「親父ももう歳だからな。パーティにはほとんど出ない」
「そうか、結婚のことを伝えようと思っていたんだが」
「横着な奴だ。そういうのは、直接出向くべきだろ」
「む、それもそうだな。今度、イザベルが尋ねると、父君に伝えてくれ」
「誰に向かって! 俺を使いパシリにする気か!」
「ただ友人に頼んでいるだけだが」
「貴様を友人と思ったことはない!」
そうかい。
しかし、これでキングストン家への義理は果たしただろう。一度、クリフォードのところに戻って、それからパーティが終わるまで、外で涼んでいよう。
そう思って、イザベルは踵を返した。
「おい、待て」
だが、マイルズによって制される。振り返ると、マイルズが他の騎士に言づけられていた。見たことがある気がする。三番隊の騎士で、マイルズの側近だ。
「ちょっと来てもらおうか」
「わるいが、旦那を待たせている。話は次の機会にしてもらえるか」
「娘もいるのだろ」
マイルズの言葉に、イザベルは眉をひそめる。
「あぁ、旦那の連れ子だが」
「ずいぶんとかわいい子らしいじゃないか。そんな子を、こんな人の多い場所に連れてきてはだめだろ。誘拐でもされたら困る」
「貴様、まさか!」
イザベルが、睨みつけると、マイルズはゲスな笑みを浮かべた。
「おっと、声を出すなよ。女の子なんだ、顔に傷でもついたら困るだろ」
「ゲスが!」
イザベルは、思わず声を荒げそうになって、必死に胸の内に抑え込む。
「1人で裏庭に出ろ。噴水があるから、その前で待て」
「ホリーに何かしたら、殺すぞ」
「ふふ、おまえがおとなしくしていれば、無事にお家に帰れるさ」
イザベルは考えた。
ここはパーティ会場だ。大きな声を出して、周りの者に伝えれば、マイルズも動きづらくなるのではないだろうか。
しかし、やけになって、ホリーに危害を加えたら?
これは明らかに、イザベルへの
そのいざこざにホリーを巻き込んで、怪我なんかさせたら、クリフォードに申し訳が立たない。
悔しいが、マイルズに従うしかないか。
マイルズが勝ち誇ったように笑うのを、イザベルはただ睨みつけることしかできなかった。
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