第67話 庭園の座談会 その2

「えぇ!? とっくに鬼ごっこはきてやめた!?」



 素直すなおに驚くサラに対して、ホリーは、つまらなそうに答えた。



「そう。ずいぶん前にね。初めは、サラを探しにいこうとしていたんだけど、途中でひまそうにしているケビン隊長をみつけて、お話していたの」


「そんな……、私、一生懸命いっしょうけんめい逃げていたのに」



 うん、ほんとごめん。


 ホリーは心の中であやまって、それでこの話は終わりにした。


 肩を落としたサラであったが、ん? とすぐに異変に気づいて顔をあげた。



「って、どうしてここに、おと、じゃなくて、ケビン隊長が!?」


「いや、まぁ」



 サラは異様に驚いているが、その理由がホリーにはわからなかった。


 今日は、三大貴族が一つ、マッキントッシュ家、その次期当主の嫁、キャサリンとその子供達が、ここ、アキリズ聖堂をおとずれている。


 とすれば、護衛ごえいの一人や二人はつく。その一人に矢の騎士団のケビン隊長がいてもおかしくはないはず。



「今日は、三番隊の担当でしょ。零番隊隊長がいる必要はないはずよ!」



 あ、そういうことか。


 サラの問に、ケビン隊長は、厳格げんかくな彼にはめずらしく、ごまかすように顔をそむけた。



「いや、あぁ、ちょうど、ここいらに不審ふしんな奴らがいると報告が入ってな。三番隊の応援にけつけたんだ」


「ふーん。それで、零番隊の他の人達はどこにいるんですか? ケビン隊長だけが来るわけありませんよね?」


「……さぁ、どこに行ったんだろうな」



 あ、これ、嘘だ。


 パパ、クリフォードも嘘をつくのが下手だが、ケビン隊長は、飛びぬけて下手なようであった。


 なぜ、そんな嘘をつくのか、ホリーにはわからなかったが、何か訳ありなのだろう。騎士なのだし、誰かの調査とか護衛とか。ケビンは隊長なのだし、きっと何か大切な仕事をしているに違いない。


 ホリーは、さすがにそう思ったのだけれども、サラはそう考えていないらしい。


 白けたサラの視線に、耐えかねてか、ケビン隊長は、ホリー達の方に話しかけた。



「そうだ、お嬢ちゃん方、アキリズ聖堂には、伝説があるのをご存知だろうか?」


「「「伝説?」」」



 明らかにごまかすためにもの言いであったが、ホリー一同、好奇心旺盛おうせいな子供達は、興味津々きょうみしんしんに食いついた。


 ただ、サラは違った。



「ちょっとごまかさないでよ。どうせ、私の様子を見に来たんでしょ?」


「いや、そんなことは……」


「どうせママに言われたんでしょ。だったら、こんなこそこそしないで、直接会いにくればいいのに!」


「……ママも心配しているんだ」



 何やら、ケビン隊長とサラの関係がわかりそうな会話がなされていたが、ホリーは、もはやその話に興味がなかった。



「ちょっと、サラ、うるさい」


「え、あ、すいません」



 ホリーに制されて、サラは、我に返ったように、口を閉ざして、一歩後ろに下がる。


 代わりに前のめりになったホリーが、ケビンにキラキラと輝いた目を向けた。



「で、ケビン隊長。その伝説って何?」


「ん? あぁ、それはな」



 ケビン隊長は、こほんと咳払いをしてから、その名を告げた。



に関する伝説だ」

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