第9話 お見合い 反省会
「やっぱり、私に結婚は無理だ」
イザベルは、テーブルに突っ伏して、珍しく落ち込んでいた。
「かもね」
テーブルを挟んで、パンにジャムを塗るキャサリンが、突き放すように言った。
キャサリンの屋敷、鮮やかなステンドグラスのはめ込まれた部屋での昼食会。テーブルの上には、いつものように多様な料理が並んでいる。
イザベルは、この昼食会での料理をいつも楽しみにしているが、今日は、キャサリンの慰めを期待していたのだった。
しかし。
「冷たくないか?」
「そう?」
「こういうとき、友人は慰めるものだと思うんだが」
「あんたね、私の用意した縁談を全部蹴っ飛ばしておいて、よく言うわね」
「それは……」
ぐぬぬ、とイザベルは言い
「そうは言うが、キャシーの手配した男共、
「
「限度があるだろ。私を商売に利用しようとする親父とか」
「仕事熱心なのね。感心感心」
「私のことを魔王と思って恐れている若い騎士とか」
「私から見たら魔王みたいなもんよ、あんた。それに、若い子、かわいいでしょ」
「1人は、そもそも冷やかしだったんだぞ」
「あぁ、あんたの同僚だったんでしょ。一晩中追いかけまわしたって。ははは、笑える」
「勘弁してくれ」
テッドに関しては、思い出しただけで、
キャサリンは、ため息をつく。
「もう、文句ばっかり言って。じゃ、どんな男がいいのよ」
「どんなって、もっと普通の」
「そんなこと言って、また文句言うんだから。何かあるでしょ、男の好みが」
「うーん、そうだな。まじめな奴がいいな。できれば同じ年くらいで、背は私よりも高くて、顔は髭のある豪傑な感じ。こう、百獣の王みたいな」
「おう。けっこう注文あるのな」
「それでいて、金とか名誉ではなく、ちゃんと私のことを嫁にもらいたいと思ってほしい」
「あー、わかる。でも、なかなかそんな縁談ないのよね」
「あと、最低でも私よりも強い男がいいな」
「いるか、そんな奴」
最後だけ、吐き捨てるように却下された。
キャサリンは、イザベルの男の好みを聞き終えた後、うーんと唸った。
「まぁ、イザベルの好みはだいたいわかったけれど、いくら私でも、それ全部を満たす男を用意するのは無理よ。自分の好みに100%沿うような男がほしかったら、10歳若返ることね」
「ぬぅ」
その結果が、あのお見合いかと思うと、イザベルは落ち込まざるを得ない。あのお見合いの先に結婚があるとは、どうしても思えなかったからだ。
「やっぱり、私に結婚は無理だ」
「もう、あんたって、意外とうじうじするわよね。仕事のときもそうなの? 団長さん」
「私が? ばかばかしい。私は常に胸を張って生きている」
「そんな姿、私は見たことないんだけど。基本、あんたはうじうじしているわよ。元気なのは、剣を振っているときくらい」
「そんなことは……」
「そうよ。学生の頃からそうだったじゃない。騎士になることで親ともめたって、家出してきて、私の家のトイレに引きこもって、ピーピー泣いてさ」
「い、いつの話だ。そんな昔の話は忘れた」
「都合のいい頭だこと。その調子で、お見合いのことは忘れなさい」
「え?」
きょとんとするイザベルの前で、キャサリンはフォークをひらひらと揺する。
「忘れなさいって言ってんの。お見合いの一つや二つ失敗したくらいで落ち込んでんじゃないわよ。男と女の仲は神のみぞ知るなんだから」
その台詞、どっかでも聞いたな。
イザベルが首を傾げていると、キャサリンが鈴を鳴らし、そして、メイドが封筒を持ってくる。
「それは?」
「じゃじゃーん。新しい縁談よ」
もう30にもなったというのに、子供っぽい物言いをする女だ。
それよりも縁談と言ったが、また、おかしな男を紹介してくるんじゃないだろうな、とイザベルは訝しんだ。
「あ、その顔は信用していないな?」
「まぁ」
「次は大丈夫! 今回の相手は、あんたにはもったいないようないい男だから。何ていっても、あのスウィフト家の一族なんだから。まぁ、養子だけどね」
スウィフト家は、三大貴族の一つだ。その一族となれば、養子といえど、本当に家柄がいい。そんな男が、イザベルとの縁談に応じるだろうか。
「訳ありじゃないのか?」
「訳ありの三十路女が、文句言うんじゃないわよ」
訳ありなんだな。
イザベルは、ため息をついて応える。
「気が乗らないな」
「あんたが結婚したいって言い出したんでしょうが。いい? ちゃんとお見合いするのよ。断ってもいいけど、数をこなさないと」
「……善処する」
ーーー
スウィフト家・・・三大貴族の一つ。主に魔法を生業とする一族。魔法に関するノウハウを有しており、世に出ている魔法武具のほとんどは、スウィフト家およびその従属貴族が作成している。政治に関して口出しすることはほとんどないが、その業績が称えられて三大貴族に数えられている。ただ、表舞台に出て来ないがゆえに、その実態が謎に包まれており、不気味な印象が強い。
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