第61話 ブリテン某所にて

「本当にやるのか?」



 同志の気弱な発言に、オズワルド・ベントリーは、苛々としながら、応じた。



「当たり前だろ。こんなチャンスは二度とないんだぞ」


「それはそうだが」



 歯切れのわるい同志に対して、オズワルドは、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


 晴れの日だというのに、彼らは深くフードを被っている。顔を隠そうとしているのだが、むしろ目立っていることをオズワルドは気づいていた。


 しかし、顔を露わにした状態で、うろつくのは心理的に難しかった。


 

「おい、ちゃんと調べろよ。わなを見落としていたら、作戦に支障ししょうをきたすんだぞ」


「わ、わかっているよ。だけど、こんなところに罠なんてあるのか? 皆が使う場所だろ?」


「バカめ。ここはもともと城塞だったんだ。マッキントッシュ家が、ブリテン王にくだったときに聖堂に改修された。だから、この聖堂には魔法は効かないし、まだ解除されていない仕掛けがいくつかあるという噂だ」


「そんなおっかないところを、よく聖堂にしたもんだな」


「マックのくそ共の考えなんて、俺が知るかよ。とにかく、作戦の妨げになる要素は排除するんだ」


「あぁ、わかっているさ。だけど、今の話を聞けばなおさら、もっと時間をかけて計画を練りたいな」


「仕方ないだろ。決行日が1週間後なんだから」


「だから、それをずらすとか」


「無理を言うな。結婚式の日取りは決まっているんだから」



 オズワルドは、半ば叱るように言った。実のところ、彼の言い分もわかる。外的な要因がいくつか重なり、急に、目的を遂行する目途がついた。いや、ついてしまった。その結果、オズワルド達は、準備に追われている。


 彼が苛々しているのは、その忙しさも原因の一つであった。


 まぁ、同志たちのやる気のなさが、彼の苛々に拍車をかけているのだが。


 まだ、文句を垂れている同志に、もう一言くらいかつを入れてやろうかとオズワルドが振り返ったとき、どんと背中に何かが当たった。



「あ、ごめんなさい」



 走ってきた子供がぶつかったようだ。



「気をつけろ!」



 驚きと動揺でついオズワルドは大声をだしてしまった。ハッと我に返り、周りを見まわす。人は多くない。それでも、注目を集めるのは困る。


 オズワルドは、舌打ちをして、早足で歩を進めた。



「おい、オズワルド、待ってくれよ」


「バカ! 名前で呼ぶんじゃない!」



 まったく! とオズワルドは、うまくいかない現状に、さらに苛立ちを募らせた。


 しかし、やるしかない。


 いささか胡散臭くはあるが、目的を達成するための戦力と、機会を得たのだ。この機会を逃せば、もう次はないかもしれない。


 オズワルド・ベントリー、ブリテン独立強硬派の代表は、異教徒共の国家フラーとの国交断絶をなすために、全力を尽くすと誓った。




―――


ブリテン王・・・ブリテン王国を建国した初代王。誰よりも強く、誰よりも賢く、誰よりも勇敢だったと語り継がれている男で、実際に、数多の国々との戦争に勝利し、その剛腕により、次々と国を併合していった。国民であれば、皆が目指す傑物なのだが、誰よりも強くの部分だけは、ある女騎士の登場により、疑問視されている。

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