第72話 魔境より その2

「「「ったどぉぉぉお!」」」



 倒れすワイバーンを囲んで、騎士達の怒号とかちどきがあがった。


 

「なんとかなりましたね、テッド隊長」


「あぁ、そうだな。さすが俺の部隊だ」


「えぇ、みんな、よくやってくれました。テッド隊長もお疲れ様です」


「ははは、まぁ、確かに俺の功績は大きいな」


「はい。まぁ、実際は、最初の一撃だけで、あとはほとんど役立たずでしたが」


「あれが、でかかったんだよ。攻撃のきっかけになっただろ」


「その通りなので特に反論はしませんが、途中できたから鉱石探しにいってもいい? と聞かれたときには、その首ねてやろうかと思いましたよ」


「チャーリーもいっぱしの殺気を放つようになったなと感心したぜ。ワイバーンも一歩退しりぞいていたしな」


「おかげさまで!」



 なぜか怒っているチャーリーから視線をらして、テッドは、騎士達を見た。


 よろいはぼろぼろ、疲労も困憊こんぱい、剣が折れている者もおり、喜び跳ねていなければ、敗残兵はいざんへいのようにしか見えない。


 

「まったく、こんなにぼろぼろになりやがって」


「仕方ありませんよ。相手はワイバーンだったんですから」


「まだ、道半みちなかばだってのに」


「そうですね。確かに、ワイバーンの死骸しがいをこれから持って帰らなくてはなりませんから、態勢たいせいを立て直す必要があります」


「いや、そうではなく」



 テッドの話に、チャーリーは首をかしげた。



「どういう意味ですか?」


「ん? だって、ワイバーンって、じゃん」


「へ?」


「仲間がやられたら、すぐにやってくるぞ。わりと怒ったかんじで」


「いや、でも、戦っている最中、周りにいなかったですし、このワイバーンは群れからはぐれたのでは?」


「そうかもしれないが、最後に仲間呼んでたしな。ほら、めっちゃ叫んでたじゃん」


「……叫んでましたねぇ」



 のほほんと言いつつ、チャーリーは、だらだらと汗を流し始めた。



「どうした?」


「何でもっと早く言わないんですか!?」


「いや、知っていると思って」


「知りませんよ! 僕達、第三深域に来るの初めてなんですから!」


「へへん、俺はもう4回目だぜ」


「知らねぇよ! 今、自慢するタイミングじゃねぇだろうが!」



 チャーリーが突っ込みを入れている最中、遠くの空から、不吉な鳴き声が聞こえてきた。その声は、隊員達にも聞こえたようで、ざわざわと騒ぎ立てている。



「おいおい、どうやら耳をやっちまったようだ。ワイバーンのうなり声みたいなものが聞こえてくるんだ」


「ははは、奇遇きぐうだな。俺もだよ。だが、きっと気のせいだ。あぁ、気のせいだ」


「そうだよな。じゃ、あの遠くの空で、うごめいているのは、ワイバーンなんかじゃねぇよな。今、倒したもん。倒したもんな、あははははははは!」



 うん、現実逃避かな。



「全員、落ち着いて、現実を見なさい! あれはワイバーンです! 今すぐ迎撃態勢げいげきたいせいをとりなさい!」


「「「いやだぁぁぁぁぁぁあ!」」」



―――



4回目・・・テッドが第三深域に到達した回数。この回数は至上最も多い。これは、テッドが、最も長く魔境騎士団に在籍していることに起因する。歴代最強の騎士といわれるイザベルでも2回であり、4回というのは賞賛されるべき数値である。しかし、彼の素行の悪さゆえ、周りからさほど褒められることはない。

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