第46話 思い出の地での攻防戦 そのとき彼女は
「迷った」
ホリーは、誰もいない廊下の中央で腰に手を当てて、はっきりと自覚した。
とりあえず、パパの嫁のせいにしておこう。
最近のホリーのブームなのだが、それは置いておくとして、少なくともきっかけはあの女なのである。
噴水を探していたのだ。
イザベルが、初恋をした場所。本人は否定していたが、あれは間違いないとホリーは確信していた。
だったら、見てみたいじゃないの。
そんな純粋な好奇心に突き動かされて、ホリーは舞踏会の会場を抜け出した。クリフォードの目を盗んで、扉を抜けて、隣の建物への連絡通路を歩いて行った。
最初の内は、ちゃんと帰り道を覚えていた。誰かにみつかって怒られないかとびくびくしていたからだ。
けれども、次第に、知らない建物の中の探検が楽しくなってしまい、今では、どこにいるのかさっぱりわからない。
せめて、噴水の場所を聞いておくべきだった。
そもそも噴水は、普通に考えれば外にあるものじゃないか。なのに、どうして自分は廊下を歩いているのだろうか、とホリーは、今更ながら至極単純なミスに気づいたのだった。
廊下の遠くの方から、おそらく舞踏会のものだろう、音楽が聞こえてくる。とりあえず、会場に戻りたいのだけど、音が反響していてどっちにいけばいいのかわからない。
「パパ、心配しているかしら」
ホリーは、肩を摩った。薄暗い廊下を歩いていたところ、少し不安になってきたのだ。
まぁ、パパがホリーのことを心配しないわけがないのだが。
不安を照らすように窓から月の光がさしこむ。そこから、外を覗けば、噴水があったりしないだろうか、とホリーは窓からひょいと顔を出した。
もちろん、そこに噴水があったなんて、ご都合主義なことはない。空には真ん丸の月。眼下には、よく管理された木々と芝生。
「はぁ」
ホリーのため息が、夜の暗闇の中に消えていく。
聞こえてくるのは、弦楽器の鳴る音と、重なり合った笑い声、それから、風に揺れる木々のざわめき。
ムードのいい夜。もしも、ホリーが大人で男性と一緒にこんなところにいれば、恋に落ちてしまうかもしれない。
ただ、
「うるさいなぁ」
ホリーには、まだこのムードを堪能できるほどの情緒はなく、そして何より、今は、心の余裕がなかった。
弦楽器の音がどこから聞こえてくるのかを探ろうと耳を澄ましていたところ、ふと、ホリーは顔をあげる。
「ん?」
よく知る声が、どこかから聞こえてきたからだ。
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