第63話 一般的な農家


「こんなところで立ち話もなんだ、うちに参ろうか」


 聞きたい事が出会いの一瞬で山程できてしまったが、とりあえず俺の育った

家へと向かう事となった。


「クゥ、わたしわかっちゃったわ。ロックと一緒よ! 心を無にして全てを受

 け流すの!」

「そうみたいッスね。わかったッス、自分も無心でいくッス」


 なんだか失礼な事を言われまくっている気もするが気のせいだろう。

 久しぶりの我が家へあぜ道を馬車で進んでいく。


「仲間もできて、こんな馬車まで手に入れられるまでに成長したか」


 馬の横を大量の薪を抱えたまま歩く父が話し掛けてくる。


「うちのパーティーメンバーは家に着いたら紹介するよ。馬車は買ったばかり

 でまだおっかなびっくりさ」

「そうであるか」


 俺の答えを聞いて頷きながら少し微笑む。

 父は昔からあまり動揺したりしない。いつでも冷静沈着であった。

 周囲の村の人を見て、子供ながらに父というよりはお爺ちゃんに近いのかも

しれないと感じていたなぁ。



「こんな大人数で押しかけちゃって大丈夫かしら?」

「確かにこの村の規模じゃ宿屋は期待できそうにないッスね」


 それを聞いたジャックが答えてくれた。


「エリー様その心配なら無用ですよ。あちらを御覧ください」


 小さな丘を越えると村の端にある実家が見えてきた。森に近いせいか村の皆

はあの周辺に住みたがらないんだよね。

 その分、家を大きくする許可を村長に貰ったとか父さんに昔聞いた。


「だ、だ、大丈夫よ! まだ、この位じゃわた、わたしの鋼の精神は揺るがな

 いわ!」

「生まれたての動物並に足ガクガクさせて揺らいでるッスよ」


 村に泊まれる場所があるか心配していたようだが元々実家で泊まる予定だっ

たので何も問題はない。部屋も沢山余っている。


「この家……わたしが育ったあのクソ忌々しい貴族の家と遜色ないわ」


 まさか、いくら大きくても貴族の邸宅と変わらないわけがないだろう。


「ハッハッハ。何を仰る娘さん。ウチはこんな片田舎のしがないただの農家。

 そんなはずはありますまい」


 ほらね。父さんも同じ考えだ。

 貴族の邸宅と比べたらうちなんて馬小屋みたいなものだよ。


「この人まさしくロック様のお父様ッスね」

「ふふふ、相変わらずな様ね」



 家に着くと父さんが門扉を開いてくれた。

 敷地内に馬小屋もあるので、馬車を中まで乗り入れ馬を外す。


「着いたよー。馬を馬小屋に連れて行っちゃうからちょっと待ってて」


 馬車から馬を外すと馬小屋まで連れて行きここまで頑張ったご褒美にたっぷ

りと飼葉を与えた。

 この2頭は比較的大人しいがそれでも専門のスキルや慣れていない人の言う

事はほとんど聞かない。

 なぜか俺の言う事はすんなり聞き入れてくれるので助かっている。

 獣人種は動物の感情を多少読み取る事ができるらしくクゥ曰く、


「2頭ともロックさんには心を許してますね。逆にエリーさんの事を凄く警戒

 してるッス」

「なんでよ!」

「正確には怯えてるという方が正しいッスね」


 それはきっと買った初日にモフりまくったせいだろう。

 素人の俺でもあっ、馬って嫌そうな時こんな顔するんだとわかるぐらい顔を

そむけていた。

 そんな経緯があり、エリーも少し自重を覚え2頭の世話は俺がしている。

 馬の飼育スキルが上がっても嬉しくないなぁと考えながら。



「お待たせ。中に行こうか」


 馬車内の荷物を全部持ち全員に言う。


「驚いたな。数年でかなり力をつけたではないか」

「父さんにいつまでも負けていられないからね」


 実はスキルで荷物を武器として装備し持っている。力なんて使ってないし反

則みたいなものだが誰もわからないはずだ。

 父さんは大量の薪を積み上げて持ち、俺は大量の荷物を積み上げて持つ。そ

れでお互い苦もなく平然と話している姿にエリーとクゥは言葉を失っていた。


「中に入ってお茶にでもするか。何分なにぶん、一人暮らしなものであまり掃除が行き

 届いてないがそこは我慢してほしい。ロック案内してくれるか?」

「わかったよ。また後でね」


 父さんは薪を置いてくるようだ。

 俺は育った家を案内し、どの部屋に泊まるか決めてもらう事にした。


「案内するから着いてきて」


 子供の頃から大きいと思っていた扉を開き皆を家の中に招き入れる。


「あれ? 掃除が行き届いてないと言ってた割に綺麗じゃない? 武器が多い

 わね……」


 家の入り口から様々な武器が飾られている。やっぱりこれだね。


「ロックさんのお父様の言ってる事を真に受けちゃダメッスよ。あの人はロッ

 クさんのお父様だけあって感覚が一般人とかけ離れてるッス」


 あれ? 気のせいだと思っていたがなぜか親子揃って激しくディスられてい

る。

 父さんも田舎の一般的な農家だし俺も義理ではあるがその息子でしかないは

ずなんだけどな。


「2階がほとんど空き部屋だから好きな部屋使っていいよ。ジャックは村長の

 家泊まるの?」

「後で一回家に戻るけど今日は久々にロックの家に泊めてもらうか」

「ダメよ! あんたは実家に帰りなさい!」


 エリーが即答で拒絶した。

 だいぶ長い付き合いになってきたしそろそろジャックを受け入れてあげても

いいと思う。


「あんた絶対にロックを狙っているでしょ! わたしにはわかるんだからね」

「エリー様……。それは誤解だと何度も」

「ま、まぁまぁ2人とも。久しぶりの実家なんだし、今日ぐらいはジャックを

 泊めてあげても、ね?」


 エリーは少し考えた後、渋々了承した。


「しかたないわね。その代わりロックとジャックの泊まる部屋は絶対に離しな

 さい!」


 了承しながらも妥協案を提示されたので俺とジャックもそれを受け入れた。


「この3人、なんなんッスかね」

「エリーちゃんもそこはわたしがロックちゃんの部屋に泊まって守るわ!ぐら

 言わないと」

「……。」


 何を言っても負けな気がしたのでさっさと全員に部屋を決めてもらう事にし

た。


「これだけ部屋があるとどこにしようか迷うわね!」

「わたしはもちろんエリーちゃんと同じ部屋よ。そうだ! どうせならクゥち

 ゃんも同じ部屋にしましょうねぇ」

「結局そうなるんッスね」


 クゥは苦笑いしながら質問してくる。


「3人泊まれるような部屋ってあるッスか?」


 記憶を掘り返しながら思い出す。

 記憶が確かならば複数人が泊まれる大部屋があったはずだ。


「あったと思うよ。行って確認してみようか」


 角を曲がり奥まった場所にある部屋へと案内する。

 あの長い鎖が付いた鎌と槍の様で刃が前後垂直に付いた不思議な武器が展示

されている場所だ。


「ツボとか絵画じゃなく武器ばかりッスね。しかも、鍛冶職人の自分が見た事

 ない武器だらけなんッスけど」

「それってロックの新しい武器の案として使えるんじゃない?」

「そうッスね! しっかり見とくッス!」


 家に飾られていた武器の大半は武器マニアの俺でもほとんどが知らない武器

ばかりだった。

 専門家のクゥをもってしてもわからないとなると、父さんはどうやってこの

武器を手に入れたのやら。


「っと、ここだね」


 考え事をしながら歩いていたせいか目当ての部屋の前に来ていた。

 部屋のドアを開けると記憶にあった通り5人位は泊まれる大きな部屋だった。


「3人共この部屋でいいかな?」

「あら、スッキリしててコンゴウさんらしいわね」


 最低限の家具と人数分のベッドがあるだけで華美な装飾などは一切ない。


「自分はいいッスよ」

「わたしもここでいいわ! 使いやすそうじゃない。但しロックの部屋はここ

 の隣にしなさい」

「俺は昔自分が使ってた部屋を使おうかと……」

「隣にしなさい」

「はい……」


 俺に決定権などなかった。


「ちなみエリー様。俺の部屋は?」

「決まってるじゃない。反対側の奥付近ならどこでもいいわよ」


 ジャックにも決定権はなかった。



 俺が持っていた荷物を各々の部屋へ置き1階へ戻る。

 食堂へおもむくと父さんがお茶の用意をして待っていた。


「さぁ、席につくがいい。久方振りの来客とロックが帰ってきて心が踊るよう

 だ」


 父さんは帰郷を喜んでくれている。

 だが、俺には聞かなければならない事がある。ずっと引っ掛かっていた。


「父さんに1つ聞きたいんだ」


 一呼吸起き尋ねる。


「なんでフィーナ様と面識があるの?」


 一方的に知っているだけではない。お互いにお互いを認識しているのが道中

の会話でわかった。

 もちろん俺はこの家に住んでる間にそんな事は1度も聞いた事がない。


「それはお前。拙者とフィーナ様は深い関係であるからな」

「「「えっ!?」」」


 俺とエリーとクゥ、三者三様の声が重なる。

 驚く俺とエリー。

 対してクゥは、またかよみたいな真顔で席を離していた。

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