第20話 ただ黙って話を聞いて貰いたい時もある
「獣人王サドニアって知ってる?」
アルメイダの霊廟に向かいながら話す。霊廟は街の北側の門を出てすぐの場
所だ。
はじまりの街セレンは初心者ダンジョンが街の中にあるし、北門を出たらす
ぐ霊廟があるし、本当に不思議な街だと思う。
「愚問ね! それぐらい知ってるわよ。サドニアの物語は感動したわ!」
エリーは目を輝かせる。ここまで関心を持つとは思わなかった。
「獣人王がはじまりの街のギルドマスターらしくてさっき会ってきたよ」
「なんでわたしも連れて行かなかったのよ!」
それはエリーが昨日の出来事をすっかり忘れて3人に絡んでたからだね。着
々とエリー様と呼ぶ人が増えてきている。主に俺の同郷出身者を中心に。
このまま新しい神様にでもなるつもりなのだろうか。エリーの行く末が思い
やられるよ。
「わたしが全てを捨てて冒険者になろうと思ったのは、幼い頃からサドニア
のお話が大好きだったからよ!」
「エリーもそうだったんだ。極秘依頼を受けたから報告する時は二人で行こ
うよ」
「ほんと!? やったわ! これで勝てる」
彼女は何と戦っているのかな?
「それでその極秘依頼とやらはなんなの?」
「グール生息エリアの詳細マップの作成だってさ」
「それってレアの出品バレてるって事よね」
「ギルドマスターとカレンさんだけしか知らないから大丈夫。契約はクロエ
様が証人になってくれたし」
「ロック……。神様をそんな個人的な事に呼び出すのはあなただけよ」
なぜか呆れられた。ギルドマスターとカレンさんもおかしな反応してたけど
一体なぜだろう。俺と他の人の間に何か決定的な認識の違いを感じる。
深く考えても答えにたどり着けない事もある。今は依頼に集中しよう。
「スケルトン生息エリアはできるだけスルーしていくって事でいい?」
「もちろんいいわよ! もうあいつらは用済みよ!」
エリーが言うと処理されそう。物理的に。
霊廟に着き受付を済ませる。どれぐらいのパーティーが入ってるか聞いてみ
よう。
「今ってどれぐらいのパーティーが入ってるか教えてもらえますか」
「既にデスッてるパーティーもいるだろうが、40近くのパーティーが入っ
てるな」
「結構混んでそうですねー」
「どうやらみんなグールに夢中らしい。わかってると思うが他のパーティー
と同じターゲットを攻撃しないようにな。ダン停になっちまうぞ」
ガッハッハと笑う。ついこの間、集団ダン停があったばかりだからね。
遠距離攻撃する時はちゃんと確認しないと。
霊廟に入り常時警戒を発動。成長のために意味はなくとも隠密も使う。
「ねえ、エリーも隠密使ってる?」
「使ってるわよ! わたしも成長させておかないと、いざという時使えない
んじゃ意味がないもの」
エリーは意外とストイックである。もちろんそのストイックさがあったから
こそ魔法学校を飛び級で首席卒業なんて事ができたのだろう。
俺もクロエ様に強くなる方法を聞くぐらいだから人の事は言えないけれども。
「エリーさんや。実は非常に言い
「なによその話し方! そしてなによ!?」
「実はすぐそこに警戒で見逃したスケルトンがおるんじゃ」
「スケルトンぐらいいいわよ。ぶっとばしましょ!」
「まぁまぁ、待ちなされ。若い者はせっかちでいかん」
「だからその話し方なんなの。ぶっとばすわよ!」
「ごめんごめん。ただ新しい発見があったからさ。そこにいるスケルトンよ
く見てよ」
近寄りながらスケルトンを観察している。そこまで行ってもバレないんだ。
「なんの
スケルトン、わたし達に気づいてないわけ?」
「そういう事。これは予想なんだけど、隠密って成長度合いで効力の強さが
変わるんじゃないかって」
「あーそれはありそうかも! ちょっと隠密でどこまで行けるか試してみま
しょう!」
エリーはこの手の検証や実験も好きだから乗ってきてくれた。頭魔法少女時
代にはそういう実験をやってたのかも。
「武器持ちにも隠密効いてるわね! これもしかしてかなりショートカット
になるんじゃない?」
「そうだね。グールエリアまで一直線で行けるのはかなりの強みになるよ。
依頼も
スケルトンと交戦するいくつかのパーティーやソロの人を尻目に一直線でグ
ール生息エリアを目指す。スケルトン相手に四苦八苦してた頃が懐かしいね。
よくよく考えるとそれから数週間しか経っていない。
クロエ様が教えてくれた通りにしただけですごい勢いで成長しはじめた。俺
がクロエ様にしてあげられる事は何かないかな。今度聞いてみよう。
スケルトン生息エリアは通り過ぎる事ができた。通過した時にいた冒険者も
気づいた人はいなかったんじゃないかな。問題はここからだよ。
隠密がグールにも効力を発揮するなら楽なんだけど……。
「個体によって気づかれたり気づかれなかったりするわね!」
「グール自体にも強さの幅があるのかも」
「面倒だから気づかれる事前提で遠距離で消していきましょ」
「そうだね。今回はマッピングと「お宝」が狙いだから」
「お宝! 良い響きね。片っ端から
いつも思うがエリーは本当に貴族の娘なのだろうか。ジャックや同郷の3人
を従える姿はまさに独裁者の女王、今のエリーは盗賊の女頭領と言ったところ
か。
ハッキリしたその物言いは好感が持てるしかっこいい。
エリー様と自然と呼ばせてしまうカリスマ性みたいなものを備えている。
霊廟のマップだが、最新のマップですらグール生息エリアの入り口付近まで
しか書かれていない。
「一番外側部分から周っていくよ。宝箱を発見したら交互に解錠の練習しよ」
「わかったわ! お宝おったからー!」
お宝という言葉を相当気に入ったらしい。口ずさみながらグールを消してい
く。最早、片手間で消されていくグール。
俺の場合は投げナイフを投げる。グールはデス。投げナイフを回収するとい
う流れなので、どうしてもテンポ良くというわけにはいかないよ。
「ロックはわたしが倒し切れなかったグールを近寄らせないで!」
「もちろん。エリーは守りは気にせずバンバン
「頼りにしてるわよ? 詠唱が成長してから、今までは全然理解できなかっ
た完全な無詠唱を会得できそうな気がしているの!」
エリーも順調に成長しているみたいだ。俺も負けていられないよ。
警戒を最大限に上げる。成長スキルではないはずの警戒が成長した事で今ま
でとは違った情報も得る事が可能になった。
「エリー、ストップ。そこの左側に宝箱の反応がある」
「周囲にグールの反応は?」
「今、倒したので最後だね。それじゃ初宝箱とご対面しよっか」
「フフフ、なんだかドキドキするわね!」
左側に隠れたような小道を入ると奥に宝箱が置いてあった。
「グールエリアの割に解錠レベルが低くても開けられそうな宝箱だね」
「わたし達には丁度良いじゃない。ロック、先にやってみせてよ」
持ち物の中からツールボックスを取り出す。低ランク宝箱用の道具を選んで
解錠にかかる。
まずは周囲の罠の有無を確認する。稀に一発でデスらせるような罠が仕掛け
られてる場合があるとか。
デスれない俺達にとっては死活問題なので、細心の注意を払い確認する。
「それじゃ解錠するね」
いくつかの道具を鍵穴にゆっくり差し込み回る場所を探す。
低ランクの宝箱なのでアッサリとその場所は見つかり鍵穴が回転していく。
「やったじゃない! それで中身は!?」
中には一束の草が入っていた。
「これだけ……?」
「低ランク宝箱だとこんなものしか入ってないんじゃないかなぁ」
その草を少しだけすり潰し匂いを嗅ぐ。
「この見た目と独特な香りは毒消しだね」
「霊廟で魔法が使えない人達にとっては重要アイテムだけどわたし達にとっ
てはゴミね」
地図に新しい場所を書き入れながら、見つけた宝箱を2人で交互に開けてい
く。毒消し、毒消し、毒薬たくさん、エリクシール! 毒消し。
「毒だらけじゃない!」
「霊廟はやっぱり毒だらけなんだよ。けどエリーはさっき大当たり引けたじゃ
ない?」
「そうね! エリクシールは魔法使いも
エリクシール、全ての状態異常を瞬時に回復し体力と魔力も全回復させる。
どうやって作られたのか、誰が作ったのか全てが謎に包まれた薬らしい。
「そろそろ外周部の大まかなマップは書き終わりそうだね」
「次のエリアへの道は見つからずじまいだったわ」
「外周部はしっかり周ったから内側のどこかにあるのかも。最後に警戒に今
引っ掛かった宝箱開けて帰ろうか」
「最後には良い物が残ってるはずよ!」
次はエリーの番なので張り切っている。壁を少し崩すとその中の空洞に宝箱
が置いてあった。警戒が成長してなかったら見つからなかったよ。
「これ少しランク高めの宝箱だね」
「わたしに任せなさい! 慎重にいくわ!」
エリーは少し複雑な形状のツールを選び取り鍵穴へと差し込んでいく。時間
が止まったかのように少しずつ。
さすが魔法使いなだけあって集中力が俺とは比較にならない。ほんの少し動
かしたり戻したりを繰り返し回る場所を探し当てた。
最後まで気を抜かずにゆっくりと回していく。
「ふぅ、開いたわよ!」
「エリーすごいよ。よっ! 大泥棒!」
「そんなに
「それで中身は?」
そこには一枚の紙切れが入っていて「スカッ」と大きく書かれていた。
これは……。
「燃え盛る火炎よ! 我が眼前の全てを焼き尽くし無に返せ! フレイムバ
ースト! フレイムバースト! フレイムバースト!」
宝箱は何度も大爆発を起こし周囲は消し飛んだ。
「さぁ帰りましょっか!」
「は、はい」
俺達は言葉数少なくそのまま帰途についた。
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