第21話 新生アルメイダの霊廟爆誕
武器マニアの俺にはわかっていた。グール生息エリアに数日通っただけで武
器がかなり消耗していた事を。
毎晩、武器を眺めたり手入れをしていたからね。
「今日は霊廟で残りのマッピングと次のエリアへの道を探すよ。その前にガ
リアさんのとこに行ってもいい?」
「いいわよ! わたしも杖の微調整を頼みたかったところだし」
そのまま霊廟に行くので必要な準備を済ませガリアさんの工房へ向かう。
店先には誰もいない。いつものように奥から規則的な音が響いてくる。
バイトや店番を雇わないのかなぁとは思うけど1人の方が気楽でいいのかも
しれない。
エリーが言う通りガリアさんが有名な人なら弟子になりたい人とか多そうだ
けれど、それらしき人を見た事がないから。
「ガーリーアーさんー!」
音が止んだので気づいてもらえたようだ。
以前、集中して仕事に打ち込んでいたのかいくら呼んでも気づいてもらえず
奥の鍛冶場まで入って呼びに行った事があった。
その時の事を思い返してみれば、確かにあの姿は普通の鍛冶師とは一線を画
していたかもしれない。
「坊主と嬢ちゃんか。今日はどうした?」
「少し武器の消耗が気になったのと、」
エリーに譲り続きを話してもらう。
「杖の微調整をお願いしたかったんです」
「どれどれ、2人とも出してみろ」
俺達は武器と杖を取り出す。
「坊主の方は……こりゃ後にするか。まず嬢ちゃんの調整からやるか。どの
辺が気になった?」
「ええと、」
俺の武器を
たので店内の武器を見ていよう。
「やっぱり、かっこいいなぁ」
キラキラと不思議な光を放つその細みの片手剣は売り手がつかないのか使え
る人が現れないのかいつも飾ってある。
「あら、キレイな剣ね!」
微調整はもう済んだらしくエリーが側にやってきた。ガリアさんも一緒に来
て剣の説明をしてくれる。
「それは純度を極限まで高めたミスリル銀で作ったんだが、買い手がつかな
くてな。お嬢ちゃんなら使いこなせるんじゃないか」
「けどお高いんでしょう?」
「今なら特別価格金貨100枚で保証書もつける」
「買ったわ!」
「こいつは魔法使いが使ってこそ真価を発揮する。魔力がないやつにとって
は鈍らでしかない」
「まさにわたしにうってつけね!」
ガリアさんの店でその剣を見る事を楽しみにしてたんだ。剣は売られていっ
てしまった。
ガッカリする俺を見てエリーは言ってくれた。
「わたしといつも一緒にいるんだから触らせてあげるわよ!」
「本当に!? やったー! エリー様ありがとう!」
アレに触れるなんて……。俺は喜びの余り嬉しくて飛び跳ねながら「エリー
様ありがとう!」と何度も繰り返していた。
「次にエリー様って言ったら触らせないわ」
エリーにそう言われたので大人しくした。
「坊主のこれは酷いな。どんな使い方をしたら短期間でこうなるのか見当も
つかん」
「岩を破壊したりグールをの頭を吹き飛ばしてたらこうなっちゃった」
「俺が売ったのは投げナイフだったはずなんだがな」
「重くなってもいいから頑丈な
「坊主用に一から作ってやる。普通の投げナイフ程度じゃ耐え切れん」
「ありがとう! ガリアさん!」
「今日は応急処置で軽く研いでおく。人の成長はここまで早かっただろうか」
刃の部分が潰れかけた元投げナイフを軽く尖らせてもらい、新武器の依頼を
して店を後にする。
霊廟に着くと昼近くになっていた。
もう時間的にほとんどのパーティーがデスッてるだろうよと管理人さんに聞
く。あまり他のパーティーと鉢合わせたくない俺達にとっては朗報だ。
常時警戒を発動し隠密を使いながらスケさんエリアを通り過ぎていく。
「エリーって剣使えたんだ」
「少しだけね! 昔、護身として少し習っただけよ!」
ミスリル銀の剣を取り出し軽くピュンッピュンッと振るう。
「だいぶ、様になってるよ」
「ありがとう! わたしだから当然ね!」
「魔力で使う剣って言ってたよね?」
「剣自体の切れ味はほとんどないから、絶対に魔力を流して使ってくれって
言ってたわ」
隠密中なので今は魔力を使ってもらえないが後で見せてもらおう。いいなぁ
羨ましい。そしてハッと思いつく。
「そこまでの
「そうね! 名工ガリアの杖と剣……何がいいかしら?」
「そろそろ、グールエリアだし帰ったら考えよっか」
「えぇわかったわ! 今日も吹き飛ばすわよー!」
目的はマッピングだという事を忘れないでください。
「ロック、下方向にも警戒を伸ばしておきなさい」
「下方向? なんでだい?」
「次のエリアがあるとしたら確実に下だからよ」
さすがエリー様。目的どころかその先も
昨日、外周部を外側方向に向けて警戒を使っていたが宝箱以外に通路や階段
がある形跡は一切なかった。
ダンジョンの壁や床は基本的には破壊する事ができない。もしそれができる
ならば、そこには隠された何かがあるのだ。
昨日の場合なら宝箱とかね。
次のエリアへの道が歴戦の冒険者達をもってしても今まで見つかっていない
という事は隠された場所にあるという事だろう。
なぜ次のエリアがある事が確定してるかというと、ダンジョンには必ずボス
を配置しているとクロエ様が明言されてるからだね。
だが、霊廟のボスに到達した記録は一切残っていない。
「グールエリアは今回も俺が守りに回るよ。警戒で察知できたやつから
ちゃって」
「任せておきなさい! しっかり守ってよね!」
グールの処理をエリーに任し、警戒を限界まで薄く伸ばしマッピングを行う。
エリーが撃ち漏らしたグールに元投げナイフさんを投げて仕留める。
マッピング中にいくつか発見した怪しい箇所に印をつけておいた。
「ロック! 見ておきなさい! これがこの剣の持つ真の力よ!」
エリーが剣を構え魔力を注ぎ込んでいく。元々、淡い光を放っていた剣が更
に光輝き刀身を包み込んでいく。
グールとの間合いはまだ数十メートルはある。そんな事は関係ないとばかり
にエリーは剣を振り切った。
剣から光の
次の瞬間にはグールは真っ二つになり光の中へと消えていった。
「どうだった? わたしかっこよかった?」
剣を肩に乗せて、ニシシと笑いながらこちらを振り返った。
言いたい事はたくさんあった。とんでもない威力と攻撃範囲。派手な音と光。
最後のセリフでその全てが台無しだったと。
「エリー様かっこいー!」
「当たり前でしょ! ふふーん」
頭を空っぽにした方がうまくいく場合もある。
「グール生息エリアのマッピングはこれで一応終わりかな」
「次エリアへの道がありそうな場所はあった?」
「怪しそうな場所にチェックをしといたよ」
エリーにもマップを見せて確認してもらう。エリーはそのマップに無数の何
かを書き込んでいく。
「わたしならこの場所に次エリアの道を配置するわ!」
「何を書き込んでいたんだい?」
「昨日と今日で倒したグールの場所よ!」
「全部覚えて……たの……?」
「当たり前じゃない! このグールの配置的に守ってるのはこの場所ね」
エリーが指差すそこはチェックはしたもののここはないだろうと思っていた、
柱の立っている場所だった。
今、目の前にあるここ。
「そうとわかったらさっさと行くわよ! フレイムバースト!」
詠唱破棄で魔法を使う。すると目の前の柱が少し壊れ、細い階段と小さな転
移門が現れた。
「う、嘘でしょ」
「ほら、言った通りだったじゃない!」
そこには数多の冒険者ですらたどり着けなかった次エリアへの階段が。
「エリー、次エリアの調査もしてみるけど隠密を最大にして危ないと思った
らすぐに逃げよう」
「そうね! ここから先は
危険だと感じる敵に遭遇した場合、すぐにここへ戻り転移門を使いダンジョ
ンの入り口まで避難すると決めた。
常時警戒を発動し、隠密を最大利用する。
ここからは全ての気配を消すつもりで。
階段を下りて行く。何度か踊り場で折り返し下りて行く。
そうして次のエリアが見えてきた。
次のエリアは今までのエリアと全く違っていた。今までのエリアは古い遺跡
みたいだったけれど、そこからまるでどこかの屋敷にでも迷い込んだかのよう
な錯覚に
舞踏会でも開いていそうだ。
そんな場所にヤツがいた。あっちはまだ気づいていない。エリーを見ると既
に逃げる体勢に入っている。あのエリーがだ。
今降りてきた階段をゆっくりと戻っていく。踊り場まで来てからは2人とも
がむしゃらに走って階段を駆け上がった。
そして我先にと転移門へ駆け込む。
「はあはあ、助かったー。あれはヤバイよ。見ただけで震えがきちゃった」
「あー、あんた知らないのね! あれはヴァンパイアよ! わたしも書物で
しか見た事ないけど」
「ヴァ、ヴァンパイアって上級のダンジョンの奥でしか確認されてないって
いう、アノ?」
「そのヴァンパイアよ! 一気に難易度上がり過ぎよ!」
俺達はグールエリアを詳しくマッピングした地図と情報を得て、ギルドマス
ターの下へと急いで報告に向かった。
報告後すぐに他の街から上級冒険者パーティーが派遣され調査が行われた。
その上級冒険者パーティーは全員がデスッた。
公的な発表はこうだ。
アルメイダの霊廟を上級ダンジョンに格上げ。ただしグール生息エリアまで
は自由に探索する事を許可する。
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