第22話 家と名誉とお金と神と

 


 街は騒然となっていた。グールレアやデス祭りの比ではない。

 上級ダンジョンへの格上げなんていう前代未聞ぜんだいみもんの出来事に、はじまりの街を

卒業していった中級、上級の冒険者達もこぞって集まってきた。

 それに合わせるかのように商人やらも流入し、街は好景気に沸いていた。


 「なんかすごい事になってるわね!」

 「ホントにね。まさかこんな事になるとは思ってなかったよ」


 ギルドマスターに再度、呼ばれた俺達はギルドへ向かっている。

 明らかに上級だとわかるパーティーがいくつも通り過ぎていく。荷車や馬車

に大量の荷物を積んだ商人も行き交ってるよ。


 俺達が泊まっている宿も全ての部屋が埋まりおばちゃんも嬉しい悲鳴を上げ

ていた。無口なおやっさんは料理の腕を存分に振るいその喜びを体言している。


 「今はギルドマスターも相当忙しそうなのに、わざわざなんだろう?」

 「きっとあれよ! 今回の報酬だわ! お金!」

 「まだ報酬貰ってなかったもんね」


 足を止め溜め息をついて呆れながら言う。


 「あんた気をつけないとダメよ! ちゃんと契約前に報酬の確認しないと!

  今回は相手がサドニアで神様が証人になってくれたから良かったわ」

 「そうだね。初めての極秘依頼と獣人王で舞い上がっちゃってたよ」

 「気持ちはわからないでもないわ! あのサドニアですもの。次からはわた

  しも同席させなさい! いい? わかった?」


 エリーに念を押されて、素直に頷いた。確かに報酬の確認もしないで契約し

ちゃってたんだよね。

 信用のおける相手だから良かった。場合によっては二束三文にそくさんもんの報酬にされる

事もあったかもね。


 「次からはエリーにも同席してもらうよ。あと勝手に依頼受けちゃってごめ

  んね」

 「わかればいいのよ、わかれば!」


 再び歩き出したエリーは上機嫌で鼻歌を歌っている。この切り替えの早さも

エリーらしいなぁと思い、クスリと笑いながらその後を追いかけた。



 「失礼します。ロックさんとエリザベスさんをお連れいたしました」


 ギルドに行くとカレンさんが既に待っていてすぐに3階のギルドマスター室

に通された。

 ギルドマスター室に入ると獣人王ともう1人見知らぬ男性が一緒にいる。

 貴族なのだろうか。エリーの方を見ても誰だかわかってないみたいなのでエ

リーを追い掛けてきたというわけではなさそうだけど果たして……。


 「また呼び出してしまってすまん。お前達2人のお陰で街もギルドも大盛況

  でな」


 獣人王はがっはっはと心底楽しげに笑っている。


 「がっはっは!」

 「エリーは別に真似しなくていいからね」


 それを見ていた男性も静かに笑う。


 「いや、失礼。街の功労者が余りにかわいい2人だったものでついね」

 「あなたは?」

 「これは紹介が遅れたね。僕はチャーレス。国から任命されたこの街のトッ

  プと言えばわかりやすいかな?」


 とんだ大物が現れた。エリーを見ると首を振っているので知り合いの貴族と

いうわけではないだろう。


 「これだけの大事になってしまったからな。2人の情報は伏せたままで報告

  させてもらった。そうしたら会いたいと言い出してなぁ」


 サドニアは頭を抱える。獣人王って感情表現豊かでかわいいと思ってしまっ

た。もしかしたらこういう部分もサドニアの童話や物語を作った人達が心惹

れた部分なのかもしれない。


 「それはそうさ。けれども実際会ってみて、こんな若い2人パーティーとは

  ね。やたらサドニアさんが情報を隠そうとした理由もわかったよ」

 「それもあるんだが……じきにわかる」

 「ふむ、そうかい。それじゃ改めて報酬の話といこうか」


 チャーレスさんは一呼吸置き話を続ける。


 「この街を代表して2人に多大なる感謝と名誉市民の称号を授与する。更に

  霊廟のグール生息エリア以降を自由に探索可能な権利を与える」


 俺とエリーは2人して顔を見合わせる。喜んでいいのか悪いのかよくわから

ない。

 感謝、やったー。名誉市民、やったー。霊廟のグールエリア以降、デスる。


 「金……金……金……」


 エリーはぶつぶつと唱えている。はしたないからやめなさい。


 「はっはっは、最後まで聞いてくれるかい? 名誉市民としてこの街の一等

  地に新築物件を用意した。そして一連の功績を認めギルドと街から金貨3

  000枚を与える」

 「金だあああ!」


 目が点になった。家とお金が手に入っちゃったよ。もうエリーをいさめてる場

合じゃない!


 「家だあああああ!」

 「ちょっとロック、はしたないわよ!」

 「はい……。」


 ボフンという音と煙と共にクロエ様が現れる。契約の時とは違い、今度は全

身だから忙しくなかったのかな。


 「わたしが証人になった契約は無事果たされました。ロック君も満足かな?

  わたしは不満です。ちゃんと今夜、呼び出すように! ばいばーい」


 俺に投げキッスをしながら現れた時と同様に煙と一緒に帰っていった。

 部屋に静寂せいじゃくが訪れる。その静寂を破るかのようにチャーレスさ

んが言った。


 「なぜサドニアさんが情報を隠そうとしたのか本当の意味でわかったよ」

 「そういう事だ。俺もどこまで話して良いものかわからなかったのだ」


 俺は2人が話すのを尻目にエリーに怒られていた。


 「ロック、わたしの勘だと神様少し怒ってらしたわよ!」

 「え!? ホントに?」

 「今夜、わたしも一緒に謝ってあげるからちゃんと呼んであげなさい」

 「うん。ありがとう。さすがエリーは頼りになるなー」

 「当たり前じゃない! わたしの方がお姉さんなんだからね!」


 ふふんと鼻を鳴らし得意になる。エリー様は本当に頼りになるなー。


 その後カレンさんに色々と手続きをしてもらった。報酬をギルドカードで受

け取り、物件の所有者登録もしてくれた。

 そして現在、一等地にある真新しい家の中にいる。

 家には家具も一式備え付けてありいつでも生活できるようになっていた。


 「家、手に入っちゃったよ」

 「そうね! 宿も引き払わないと!」

 「その事は少し考えたいかなぁって」

 「何かあるの?」

 「うん、まずはクロエ様呼ぼっか。クロエさまー」


 するとすぐにぼわんっといういつもの煙と共に現れたクロエ様。腕を組んで

いる。


 「ほら、あれは絶対に怒ってるサインよ!」


 隣でエリーがささやいてくる。


 「エリーちゃんの問題で神頼みしたりエリーちゃんとイチャイチャしながら

  わたしを呼ぶなんて酷いわ、やっぱり消すしか……。」


 後半はかすれていてよく聞こえない。


 「わたしのせいだったー!」


 エリーはそう叫ぶとクロエ様に土下座で懺悔ざんげしはじめた。


 「いやいや、クロエ様がそんな事で腹を立てるわけないじゃない。クロエ様

  程優しい人なんてなかなかいないよ。神様だけど」

 「ロック君、それは嬉しいけどわたしだって怒る時は怒るんですよ」


 腰に手を当て怒りを表現してるがいつも通りかわいいだけだった。

 それでも怒ってるし素直に謝ろう。


 「ごめんなさい。ここ数日慌しかったのもあって。クロエ様に会えて嬉しい

  です」

 「もぅ、しかたないなぁ。ちゃんと構ってくれないとダメだぞー。わたしも

  ロック君に会えて嬉しいわ」


 すぐに機嫌を直していつものクロエ様に戻ってくれた。


 「もういっかなー?」


 光と一緒に今度はアリスも現れる。


 「2人ともまた一気に成長したからよ、えらいえらい」


 クロエ様は俺とエリーを撫でてくれた。さっきまで土下座していたエリーも

クロエ様の膝枕で撫でられると落ち着いてきたようだ。


 「アリスもするー」

 「その前に祝福してあげなきゃダメよ」

 「はーい、それじゃいっくよー」


 何度見ても幻想的だよ。アリスから俺とエリーに光が吸い込まれていく。

 温かくて気持ち良い。祝福って一体なんだろうね。


 「おーわりー! それじゃなでなでタイムすたーと!」


 クロエ様とアリスに撫でられてると疲れや痛みが消えていくようだった。2

人に聞きたかった事を聞いてしまおう。


 「クロエ様とアリスに助言を貰いたいんですよ」

 「なにかな? ロック君の言う事ならなんでも聞いてあげるわよ?」

 「アリスも、アリスもー!」

 「霊廟の奥って俺とエリーじゃ無理ですよね?」

 「むーり! もっとがんばりましょー」

 「そうね、まだ難しいわ。あそこは上級でも難易度高めなのよ。わたしとし

  ては迷宮都市で実力をつける事を勧めるわ」

 「あぁ、やっぱりそうですよね」


 なんとなく気づいてはいた。一目見て勝てないと思う相手が無数にいる場所

で戦うにはまだ早過ぎると。


 「ヴァンパイアは通常の魔法が決定打にならないのよ! 上位回復魔法でし

  か倒せないから囲まれたら終わりね!」

 「俺がもっと防御に長けていたら良かったのに」

 「そんなに悲観する事ないわよー。2人ともまだ伸び盛りなんだから」

 「うんうん。もっと強くなって、もっとアリスにかまって!」


 俺達にはまだ経験も力も足りてない。いきなり上級ダンジョンに挑み続ける

ような無茶をしても意味がないからね。

 クロエ様とアリスもこう言ってる事だし行こう。


 「家は手に入ったけど、当初の目標通り迷宮都市アドバンを目指す。エリー

  もそれでいいかい?」

 「えぇ、もちろん! 行きましょうアバドンへ!」


 俺もエリーもクロエ様とアリスに優しく撫でられながらいつの間にか寝かし

つけられてしまった。

 エリーはいつも堂々としていてかっこいい。


 もちろん、街の名前を言い間違える時も。

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