第23話 僕達、私達は今日! 旅立ちます!
「この店でジャックと会うなんて珍しいね」
「ロックがエリー様と仲良くしてる間にガリアさんの店に入り浸ってたって
わけだ」
「エリーとはそんなんじゃないよ。エリーに聞かれたらまた酷い目に合うよ」
「違いない、はっはっは」
「それで2人して暇潰しに来てるって事か」
2人で笑い合っていると、ガリアさんが一段落した仕事の手を休めてこちら
にやってきた。
そう言いながらも邪険にせず、お茶の用意をしてくれる辺りガリアさんも優
しい。
「今日は報告というか、お別れを言いにきたんだよ」
「そりゃ急にどういうことだ?」
「エリーとも話し合って迷宮都市アドバンへ修行に行こうと思ってるんだ」
ジャックとガリアさんはそれを聞いて考え込んでいる。
「坊主、ワシも迷宮都市へついて行く事にする」
「え!? お店はいいの?」
「戸締まりでもしとけばええんじゃ。それにワシの本来の店はアドバンにあ
るからな」
「その店、弟子に任せっきりにして出てきたとか言ってたでしょ」
「最近、セレンも騒がしくてかなわん。丁度良い機会だ」
それを聞いたジャックはブツブツと何かを呟いている。そして吹っ切れたよ
うに叫んだ。
「くっそー! それなら俺も迷宮都市へ行ってやらぁ! 最近、上級冒険者
多過ぎで肩身狭いから」
後半で全部台無しだよ。エリーの言ってた残念イケメンとはこういう事だっ
たのか。
「それじゃ2人とも一緒に行くって事でいい? 俺もエリーも迷宮都市に行
った事ないから心強いよ」
「依頼されていた坊主の武器もあっちでしっかり強化してやる」
「大船に乗ったつもりでいろよ。アドバンには何回か行ってるからな」
なんの伝手もなかったから本当に助かるよ。後でエリーにも報告しないと。
「それじゃ俺は他にも挨拶してくるよ」
「わかった。ワシも店仕舞して封印しておいてもらう」
「そうと決まったら、俺もいろんな連中に挨拶回りしてくるわ」
なんだか楽しくなってきた。俺も必要な準備と挨拶に回っておこう。
まずはギルドで家の管理を依頼しなければ。貰って放置しておくわけにはい
かないからね。適度に掃除や手入れをしてくれる人を雇うつもりだ。
「カレンさん、こんにちは」
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょう」
「しばらく、セレンを離れて迷宮都市で修行をして来ようと思いまして。そ
の間、家の管理をしてくれる方を探してもらいたいんですが」
「あら、随分と急な話ですね。少々お待ちを」
カレンさんは階段を登って行った。ギルドマスターに報告にでも行ったのか
な。会えるならサドニアさんにも挨拶しておきたい。
エリーも連れてくれば良かったかな。
「ロックー! わたし置いてどこ行ってたのよー!」
「エリー!? エリーの事考えてたら現れるなんて凄過ぎるよ」
「でへへぇ。ちょっと酒場の方で飲んでたの!」
「酔っ払ってはない……よね?」
「1杯しか飲んでないから平気よ!」
カレンさんが戻ってくるまでにジャックとガリアさんの事を説明しておこう。
「ガリアさんが一緒なのは心強いわ! ただし、気をつけてジャックは泥舟
よ!」
「さすがにもう少し信じてあげて」
ジャックは昔から男からの信頼は厚かった。なぜか女性からはそうでもなか
ったんだよね。すごい謎だよ。
「お待たせいたしました。ギルドマスターがお会いになりたいとの事です」
「エリーも来たので一緒でも大丈夫ですか?」
「同じパーティーですからね。ご一緒で平気ですよ」
カレンさんに連れられて3階のギルドマスター室へ行く。
「よく来た。話は聞いたが予想通りでもあったな。そこにかけてくれ」
ソファーに座る。前に来た時も思ったけどこのソファーふっかふかだね。サ
ドニアさんの体毛と同じ色で統一してるのかな。
「ソファーが気になるか? これは自慢の逸品なんだ」
「えぇ、すごい座り心地良くて。こんなソファー初めてです」
「そうかそうか、ガッハッハ」
サドニアさんは大層機嫌良く笑い出した。そこまで嬉しい事なのかなと不思
議に思い
「このソファーってそんなに有名な品なんですか?」
「これはな、世界に一つしかない。一部の素材を除きメイドインサドニアだ」
「わたし今、獣人王に包まれてるわー!」
獣人王は本当にふかふかだった。
カレンさんが「コホンッ」と咳払いをし話を戻させる。
「お前達が街を出るだろうと予想はしていた。ここまで早いとは思わんかっ
たがな」
「クロエ様とア……、神様にも相談したら迷宮都市で修行した方が良いと勧
められまして」
「本当に神様と親しいな。俺もお前達が発見した新しいエリアを自分の目で
確認してきた。初め、中級以上の冒険者には許可を与えていたのだがそれ
を上級のパーティーのみに変更した」
「わたしたちも敵を見た瞬間、逃げましたから!」
「その判断は正しい。上級ダンジョンの中でもあそこは
「サドニアさんはデスる事前提で話さないんですね」
「俺はデスる事は最後の手段と考えている。野生の感覚が鈍る気がするのだ」
獣人王クラスになると強さの真理に自分自身の力でたどりつけるんだね。俺
が誰にも教わらず、その真理にたどり着く頃には冒険者を諦めていたかもしれ
ない。
実際、初心者ダンジョンで何度も
周囲の人達や街の人達。そしてクロエ様とアリスとエリー。みんなに感謝し
ているんだ。
「もっと強くなって戻ってきます」
「わたしも! ロックをしっかり鍛え上げてきます!」
「俺だけ!?」
「ガッハッハ。若い者は良いな! 2人とも、必ず帰ってきて霊廟攻略に力
を貸してくれ」
獣人王サドニアと固い握手をし約束する。
最近呼ばれるようになった、「はじまりにして最後の街セレン」へと帰って
くる事を。
ギルドマスターの部屋を退出し1階へと戻る。再度家の管理の依頼をしよう
とした。
「差し支えなければ、わたしが管理いたしましょうか?」
カレンさんからそう提案された。
「カレンさんなら信用できるしこちらからお願いしたいぐらいだけど、ギル
ド職員をしながらで大変じゃないですか?」
「その事なら大丈夫ですよ。ギルドマスターからもお前がやってやれと言わ
れましたし、勤務時間を短くしてもらいました」
「わたし達のためにありがとう! ほらロックもお礼言っときなさい」
「ありがとうございます! 鍵を渡しておくのでお願いします」
報酬はギルドカードから直接引き落とす形にして契約を結んだ。カレンさん
なら大丈夫だろう。
ギルドでの用事も終わり帰ろうとすると声をかけられた。
「エリー様! それとロック」
そこには俺と同郷の3人組がいた。俺がついでみたいになってるけど気のせ
いだよね、きっと。
「あんた達に悲しいお知らせがあるわ! ついにお別れよ!」
「お別れってどういう事ですか!?」
「俺達ついに人生に終止符を打たれるんですか?」
「もっとおねがいします!」
「わたし達はこの街を出る事にしたわ!」
「「「そんなー」」」
なんだろうこの一体感。俺が入る隙間すらない。
「ほら、ロックもなんとか言いなさい!」
「あ、あぁ。俺達は一足先にこの街を出て迷宮都市で修行してくるよ」
「俺達は初心者ダンジョンで頑張るぜ。けど必ず追いついてみせるからな」
「それまでしっかりエリー様をお守りしてくれ!」
「もっと! もっとだ!」
俺達は肩を叩き合って別れの挨拶をした。昔はこんな仲になれると思っても
みなかったな。
「わたしがいなくてもしっかりやりなさい! エリー様はいつでも見ている
わ」
「「「はい!」」」
ついに自分でエリー様とか言い出しちゃったよ。日に日にエリー様とか呼ぶ
人が増えてきて少し怖い。
3人と感動と思い出を置き去りにするなんだかわからない別れを済ました。
「エリー先に帰ってもらってても良い?」
「いいわよ! それじゃ宿の方に戻ってるわね」
酒場の方へ向かう。いつものようにゴクゴクと酒を飲んでる男に近づく。
ウェイトレスに同じ酒を注文し隣に座る。
「ダンカンさん、飲んでるー?」
「ん? おうロックか。やっぱ仕事上がりの酒は止められねぇ」
すぐに注文した酒が運ばれてきた。
「出るのか? この街を」
「ははっ、ダンカンさんにはお見通しみたいだね」
「霊廟で大暴れしてる2人組がいるって管理部でも噂になってたからな」
「一体誰の事だろうねぇ。わからないなー」
「なるほどな。それで帰ってくるのか?」
「帰ってくるよ。夢や目標っていくつあってもいいでしょ?」
「ガッハッハ。お前らしいなロック! お前の新しい門出に乾杯だ」
「乾杯! ダンカンさんも帰ってくるまで元気でね!」
ジョッキを打ち鳴らしひと時の別れを惜しんだ。
宿へ戻ってからが大変だった。先にエリーから話を聞いていたおばちゃんは
大泣きしてたっけ。それをおやっさんが
「あんた達、しっかり頑張ってくるんだよ。栄養もちゃんと取らないと。セ
レンにはまた戻っておいでね」
泣きながら心配された。エリーはおばちゃんと抱き合って大泣きしだした。
「頑張ってこいよ」
無口なおやっさんのそんな一言にこちらもウルッときてしまった。
だから、言えなかった。家を貰ったからたまに帰ってくるし、修行が終わっ
たら戻ってくる事も。
そんなこんなで迷宮都市行きの馬車を予約した日がやってきた。
見送りは全部断った。必ず戻ってくると誓って。
「やぁ、奇遇だね」
「そんな奇遇ないと思うんですが。チャーレスさん?」
「まぁまぁ、そういう事にしておいてよ。この街を代表して見送りにこない
わけにはいかないさ」
「ロックー! そろそろ出るわよ! 早く乗りなさーい」
「おっと、もうそんな時間か。最後に一つだけ。将来、霊廟を攻略できるの
はおそらく君のパーティーになるだろう。期待しているよ、未来の冒険王」
「その期待に応えられるようになって帰ってきますよ! でわ!」
まさかそんな事はないだろうと思いつつも別れを告げ急いで馬車に乗り込んだ。
「成長し続ける
走り出した馬車へ向けてチャーレスは1人祈るのだった。
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