第3章 迷宮都市アドバン
第24話 いくら鍛えても暑さには敵わない
砂漠に囲まれ、城壁があるにも関わらず都市の中も道も砂埃が舞っている。
少し煙ったように薄くぼやけた表情を見せているのがここ迷宮都市アドバン。
その砂埃から隠れるように下へ下へと都市を広げていった結果、ダンジョン
が見つかったという。
周囲の砂漠地帯にはあの有名な上級ダンジョン、ピラミッドがあり他にも無
数のダンジョンが眠っているとさえ言われている。
「ロックー、わたし暑くて溶けそう。いえ、もう溶けてるわ!」
「大丈夫だよ、溶けてもきっと教会だから。ちょっと休憩して何か飲もっか」
俺達は現在、借りた家の掃除をしている。
買えるだけのお金は持っていたが「何軒も持ってても仕方ないわよ!」と言
われ、それもそうだなと納得してしまった。
ガリアさんとクゥさんの紹介で家を借りる事にしたんだ。
そして、絶賛掃除中。
そのクゥさんというのがガリアさんの愛弟子でアドバンに到着してお店に行
った時はそれはもう大変だった。
ガリアさんが店の中に入った途端、クゥさんはお客さんがいるのも関係なし
にガリアさんに襲い掛かった。
猫という獣人種らしく俊敏な動作で巨漢のガリアさんを抑え込んだ。
「師匠! どこ行ってたんッスか!?」
そう言って泣きながらガリアさんを爪で引っ
しばらくして泣きつかれて眠ってしまったクゥさんを抱えおこしてガリアさ
んは言った。
「トホホ……。」
それは俺が生まれて初めて聞いた「トホホ……。」だった。本当に使う人が
いるなんて!
その後クゥさんが起きるのを待ち、ちゃんと自己紹介した時はばつが悪そう
にしていた。
「お連れの方もいたなんて、恥ずかしいッス」
「行き先も言わずに店放り出していなくなったらそりゃ怒るよな」
「そうね! ジャックもたまにはまともな事言うじゃない」
「ガリアさん、素直に謝った方がいいですよ」
「そうだな。クゥ、長く店を空けてすまなかったな。お前なら任せても平気
だと思ったんだ」
「師匠……。行きつけの飲み屋のおやじさんからアドバン忙し過ぎるから逃
げたって聞いたッス」
「あいつ、バラしやがったな」
この後、また何度も引っ掻かれるガリアさんを見て謝る時はちゃんと真実を
伝えた方が良いと学んだ。
アドバンは日中の間は暑さと
になると涼しくなり砂埃もおさまって過ごしやすくなる。
そうすると市が立ち、あちらこちらに松明で明かりがともされ活気が出てく
る。
迷宮都市が別名、夜の街とも言われてる所以だね。
そういった事もあって外出せずに、この暑さの中借りた家を掃除していた。
長年使っていなかったせいか
俺とエリーは2人して口と鼻の辺りを布で覆い埃を吸い込まないようにしな
がら部屋を綺麗にしていた。
あまりの暑さでエリーが音を上げたので休憩だよ。
そんなエリーに飲み物を用意する。家の地下にしまっておいたジュースを取
り出しコップに注いで渡す。
「ありがとうロック! 溶けた部分が補充されたわ!」
「どういたしまして」
そんな、まさか! とは思いつつも、俺も暑さで参っていたため自分のジュ
ースをゴクゴクと飲み干した。
「この暑さどうにかならないかしら?」
「クゥさんは「日焼けすると暑さに強くなるッス」とか言ってたね」
本当のところはどうだかわからないがここの住人は日焼けしてる人が多い。
俺達がアドバンに到着してから1週間程過ぎていたが、昼間は引きこもって
るので日焼けなんて一切してない。
昼間、外出する時も日光を
イスをされて、顔を布でぐるぐる巻きにしているのであまり焼けていない気が
する。
「それでもロックはここに来てから少し黒くなったわよ!」
「そうかな? エリーは白いままだね」
「わたし、もしかしたら日に焼けないタイプなのかもしれないわ」
前と変わらずエリーは真っ白なままだった。
あまり弱音を吐かないエリーがこうなっているのを見ると焼けていた方が暑
さに強いというのも案外正しいのかもしれない。
「このままだとエリーがダウンしちゃいそうだしクロエ様呼んで聞いてみよ
うか」
「やったわ! これでこの生活ともおさらばよ!」
「だといいね。クロエ様ー! 今大丈夫ですか?」
少しするとクロエ様が現れた。
アドバンに来てから何度か呼び出したクロエ様は、セレンの頃と違い肌を
にしたエキゾチックな装いなので少し緊張してしまう。
「おっ待たせー。ちゃんとバッチリ着替えてきたわよ」
「すごく似合ってますよ。ただちょっと目のやり場に困るというか」
「ふふっ。それなら大成功ね」
「神様、こんにちは。今日もお綺麗です!」
「あらあら、エリーちゃんもありがとう」
何度も会う内に2人ともいつの間にか打ち解けていた。
初めの頃はクロエ様の冗談を真に受けたエリーが土下座するという事も何度
かあったが今では本当の姉妹のように仲が良い。
「それにしても少し埃っぽいわね。キレイにしちゃいましょう」
クロエ様がそう言うと緩やかな風が部屋を流れあっという間にチリひとつな
い空間ができあがった。
「すみません。さっきまで掃除中だったもので」
「いいのよ。ロック君の役に立ててわたしも嬉しいわ」
一回転して着ている服をフワッとさせながら笑いかけてくる。
意を決したようにエリーがクロエ様にお願いする。
「あ、あの! 神様に聞きたい事があって!」
「エリーちゃんどうしたのかなぁ?」
「わたし、アドバンに来てから知ったんですが暑さに弱いみたいで……。」
それを聞いたクロエ様はエリーのおでこに自分のおでこをくっつける。
「か、神様! 一体何を!? あ、デスッちゃいそう」
「心配しないで。エリーちゃんの体を調べさせてもらったわ。少し暑さにや
られちゃってるみたいね。2人ともこっちへいらっしゃい」
おでこを離したクロエ様の側へ行くと、いつものように膝枕をしてくれた。
「エリーちゃんは魔法使えるわよね? 氷魔法と風魔法の初歩を魔力を抑え
て使えばこんな風にできるわよ」
クロエ様が魔法を使うと部屋の中は見る間に涼しくなってきた。
「クロエ様すごいですよ。快適になりました」
「でしょう? できるだけ部屋を密閉した方が効果が高くなるわよ」
「わたし、知りませんでした。魔法にこんな便利な使い方があるなんて」
しょんぼりとするエリー。そんなエリーをクロエ様が励ます。
「以前のエリーちゃんじゃ難しかったかもしれないのよ。今の成長したエリ
ーちゃんなら必ずできるはずよ。ほら、一緒に練習しましょう」
クロエ様に
涼しくなり過ぎたり、逆にあまり涼しくならなかったりを繰り返しながら丁
度良い感覚を
2人が仲睦まじくしてる中、快適になった部屋で俺はまたも眠りに落ちてし
まった。
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