第25話 深淵はのぞかない


 「それでエリーちゃんはロック君の事どう思ってるの?」

 「ゲホッゲホッ! 突然なんですか? 神様」


 わたしが神様に部屋を快適にする方法を習っている間にロックは寝てしまっ

たわ!

 部屋はさっきまでとは打って変わり、涼しく快適になったので仕方ないわね。

 氷魔法をグラスに使い飲み物を冷やしたり、直接氷を作り出して冷やすなん

て方法も教わったので起きたらビックリさせてあげましょ!


 そんな時、突然神様からそんな質問をされたのできゅうしてしまった。


 「考えた事もなかったのでよくわからないです。もし弟がいたらこんな感じ

  なのかなぁって」

 「なるほどねー。実はね、おかしな事にエリーちゃんの情報がうまく読み込

  めないのよ」


 どうしましょう、困ったわーと言っている。


 「わたし、ダメな子ですか?」


 少し悲しくなってしまった。だって神様にそう思われてしまうのは本当に悲

しい事ですもの。

 この世界の全ての人は神様を尊敬していて大好きなの。わたしもね!


 「あらあら、そんな顔しないで。アイツが関わってる事だと見えなくなるん

  だけどエリーちゃんは違うわ。ダメな子なんかじゃないから心配しないで」


 神様はそう言うと、いつもロックにするように頭を撫でてくれたわ。

 ロックをそこまで特別視する理由はなんなのかしら?

 すぐに、わたし程度が推し量って良い事じゃないと気づいて頭を振って考え

る事を止めた。


 「エリーちゃんからは人よりもわたし達に近い何かを感じる事があるのよ」

 「それって一体どういう事でしょう? わたし人じゃないんですか!?」

 「大丈夫よ。エリーちゃんはれっきとした人よ。ただ力のり方がわたし達

  寄りなのよね」


 力の在り方ってなんなのかしら。

 冒険者になってから本当に痛感するのよね。学校でいくら成績が良くてもそ

れが全く役に立たないって事を。


 「余計な心配かけさせちゃってごめんなさいね。エリーちゃんは今まで通り

  ロック君の力になってあげて」

 「謝らないでください! わたしがロックを守りますから!」

 「ふふっ頼もしいわね。それじゃわたしはそろそろ帰るわ。ロック君にもよ

  ろしくね」


 神様は最後にロックの頬にキスをすると煙と共に帰っていった。


 「神様からキスしてもらえるなんてズルイ!」


 わたしだってしてもらいたいのに! それだけロックが特別なのかなぁ。冷

たい飲み物でも飲んで頭を冷やしましょ。

 頭を切り替え、神様に教わった方法で冷たい飲み物を作りに行った。



 目を覚ますと側にはエリーだけがいた。


 「あれ、クロエ様は?」

 「もうとっくにお帰りになったわ! 部屋が快適になったとはいえ少し寝過

  ぎよ」


 今は何時だろう。部屋は締め切られていて何時か判断できないよ。


 「はいっ! これでも飲んで目を覚ましなさい」

 「ありがとう。って冷たっ! 何これどうしたの?」

 「ふふーん! ロックが寝ている間に神様に教わったの。すごいでしょ?」


 コップを受け取った途端、冷たさ驚いて取り落としそうになったぐらいビッ

クリした。


 「その顔を見る限り大成功ね! やったわ!」


 恐る恐る飲んでみるとやっぱりジュースもすごく冷えていておいしかった。


 「一発で目がさめたよ。今何時ぐらい?」

 「もう5時ぐらいかしら。日が落ちてきたから部屋を元の温度に戻したの」

 「そんな時間なんだ。掃除の続きは……クロエ様がやってくれたんだった」

 「まだ目が覚めないなら顔でも洗ってきなさい」

 「そうするよ。後でガリアさんのお店行くけどエリーも行く?」

 「もちろん行くわよ! クゥちゃんをモフモフしに行かないと!」


 弟子を取るなら寡黙かもくなドワーフだと考えてたガリアさんがたった一人の弟子

にするぐらい、クゥに光る物を見出したらしい。

 初めは鬱陶うっとうしくて門前払いにしていたが、クゥが鍛えて持ってきた剣を見て

弟子にする事に決めたとか。


 「日も沈んだ事だし行こうか」

 「もっふもふー! もっふもふー!」

 「手加減してあげなよ」


 今日も夕暮れ時からあちこちに火が点され、日中の静けさとは逆に喧騒けんそうを生

み出している。

 店の呼び込みや売り出しも盛んに行われ何度も声を掛けられる中を2人です

り抜けながらガリアさんのお店へと向かう。

 ガリアさんのお店周辺はアドバンでもかなり人気の場所で風通しも良く砂埃

も入ってこないんだって。


 「ガリアさんのお店は昼間も結構快適らしいね」

 「ふっふっふ、安心しなさい! 明日からは昼間も快適に過ごせるわ」

 「武器が完成したら、そろそろダンジョンへ行こうと思ってるんだけど」

 「わたし達冒険者だったわね!」


 エリーは完全に自分の立ち位置を忘れていたみたい。

 アドバンの気候と生活に慣れるのが精一杯でダンジョンへ行く程の余裕がな

かったんだよね。


 迷宮都市の地下にある中級ダンジョン、迷宮魔窟めいきゅうまくつ


 遥か昔に滅びた都市が、時を経て砂漠に埋もれダンジョン化してたらしい。

 このダンジョンは既に攻略済みで、ギルドと情報屋から簡単に情報を得る事

ができた。


 都市型ダンジョンでスキル警戒が役に立つ。死霊や悪霊モンスターが多数出

現するので対策が必須。

 ボスは「黄昏たそがれの魔術師エンシェントキング」

 魔法とは違う体系の魔術を使う古の王の怨念おんねん。大量の死霊を操り生者にデス

抱擁ほうようをもたらす。

 その情報を聞いたエリーは言った。


 「その王ってとんだセクハラ野郎ね! 絶対、配下にもやってるわよ!」


 古の王も浮かばれないね。

 このエンシェントキングを倒す事で上級ダンジョン、ピラミッドの探索許可

が下りる。

 なのでまずは迷宮魔窟の攻略を目指す。



 その準備という事でガリアさんのお店へと到着した。


 「ガリアさん、こんちゃー」

 「「「いらっしゃーせっ!」」」


 毎度の事ながらセレンのお店とのギャップに若干引く。

 お店の中は何人もの冒険者がいて接客担当の人が元気良く接客をしていた。


 「いらっしゃいませッス。師匠なら奥ッスよ」


 クゥが出てきて教えてくれる。


 「キャー! クゥちゃーん!」


 エリーとクゥは同年代ですぐに仲良くなった。仲良くはなったけど……クゥ

はあまりくっつかれるのが好きではないらしい。


 「ロックさん、助けて欲しいッス」


 今も尻尾を自分の足に挟んでブルブルしながら俺の後ろに隠れてたりする。

 そこへ手をわきわきさせながらゆっくりと近づいてくるエリー。


 「ロックどいて! そいつモフれない!」


 俺は身の危険を感じクゥをイケニエに差し出した。


 「ロックさん酷いッスー! あうあうあー」

 「エリー、程々にしといてあげなよ」


 声にならない声を出すクゥと満面の笑みを浮かべるエリーを置いて奥の作業

場へと入っていく。

 そこからは規則正しい音が聞こえる。これはセレンの頃と変わらないなぁと

含み笑いを浮かべた。


 「ガリアさん、お邪魔してますよ」

 「おう坊主か、ちょっと待ってろ」


 少しの間そのまま叩き続けた後、こちらへやってきた。


 「ふぅ、待たせたな。やっぱりここは暑いし忙しい」

 「そうだね。お店もかなり繁盛はんじょうしてるみたいだし」

 「クゥの手腕しゅわんだな。若い者の成長は早くて敵わん」


 温くなって冷めたお茶を飲みながら言う。


 「坊主は迷宮魔窟用の武器だな? 投げナイフと同じ素材でついでに片手剣

  も作っておいたぞ」

 「うわぁ、ありがとう! そろそろ潜りたいと思ってたんだよね」

 「両方とも魔窟産の魔晶石ましょうせきってやつで強化してある。試してくか?」

 「うん! 早くぶん投げたいなぁ」

 「だいぶ、嬢ちゃんの性格が移ってきてないか……。」


 ガリアさんに案内されて中庭に行った。そこには遠隔武器用の的がいくつか

設置されている。


 「投げナイフなんかに魔晶石はもったいないって言ったんッスけどね」


 やっとエリーに解放されたのかクゥもやって来た。


 「見てみりゃわかる。坊主、これ以上硬い的はウチにはないからこれで我慢

  してくれ」

 「その的は破城槌はじょうついでもヒビを入れるのがやっとッスよ。むり

  むりむーりッス」

 「それじゃ全力で投げますね」

 「坊主、頼むから店は壊さないでくれよ?」


 クゥがさっき見捨てた事への逆襲か、無理だ無理だと言うので不可能を可能

にしてみせようと本気で投げた。


 「ドッカーン」


 およそ、投げナイフの着弾音とは違った音が響いた。的は粉々に砕け散り周

囲に配置された的も全て吹き飛んだ。

 我ながら投げナイフの威力ではないなと思いながら振り返ると頭を抱えたガ

リアさんと口を開いたまま呆気に取られているクゥがいた。


 「これ……魔晶石でも消耗しそうッスね」

 「だからあれだけ言っただろ」

 「やっぱり少し手加減して投げないとダメかなぁ」

 「できるだけモンスター相手に投げてくださいッス」



 「すごい音ね! わたしも撃っていいって事かしら。地獄の最下層、その深

  淵を……」


 指の先を噛み千切り魔方陣を展開しながら、聞いた事もないやばそうな詠唱

を始めたので3人でエリーを止めた。

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