第53話 失敗した


 未だ辛辣なクゥにチクチクと言葉のナイフを刺されながら新種に立ち向かう。

 初めから口に含みいつ攻撃がきてもいいように盾を構えていたのだが、いざ

目の前に突然現れて攻撃をされるとなかなかうまくいかなかった。

 何度目かの攻撃でようやく新種に当てる事ができるとその一発だけで光の中

へ消え去っていった。


 「やっぱりこいつら防御力はたいした事ないわね!」

 「吹きつけただけで倒せちゃったよ」


 新種を数度倒すと攻撃してくる距離とタイミングが少しずつつかめてきて1

回目の攻撃で倒す事も可能になった。


 「見てて思ったの……。その攻撃ってまるで唾を吐きかけてるみたいだわ!」


 エリーに言われるとその後はそうとしか思えなくなった。


 「戦闘中に唾を吐きかけるとか悪役みたいッスね」

 「使えない事はないから多用しないで最終手段としてとっておこうか」


 武器や攻撃には見た目も重要なのだと思い知らされた。1回でお蔵入りにな

るとは。


 「あのモンスターって勝手に突っ込んでくるみたいだから盾に取り付けられ

  る刃があれば勝手に刺さってくれないかしら?」

 「ママー、さすがにそれはないわよー」


 いくらなんでもそこまでお間抜けなモンスターではないとは思う。思うのだ

が、光の女神様であるフィーナ様が言ってる事だからなぁ。


 「とりあえず封印も無事に終わったし戻って報告しよう」


 新種への対策も大切だけれど、まずは学生や周辺住民を早く安心させるため

にも学園長へ報告してしまおう。

 学生用ダンジョンの入り口へ戻り封印が無事済んだ事を衛兵さんにも伝える。

 彼らもダンジョン内の異変を恐れていたようで心底安心していた。

 預けていた荷物を受け取り、学園長室へ向かう。


 「無事封印は完了しました」

 「おお、よくやってくれた! それじゃもうダンジョンの方は?」

 「えぇ、授業を再開して構いませんよ。学生レベルでは近づけない封印なの

  で解決したという事を学園の内外に流してください」


 学園長は数日で解決した事を喜んでいるが少し気まずそうに顔をしかめた。


 「冒険者が事態に当たってるという噂を流したのだが、冒険者らしきパーテ

  ィーの姿を一切見てない事で上級の冒険者が来ているんじゃ? という噂

  も出てしまっているのだ」

 「俺達の姿じゃどう見ても初級クラスにしか見えないでしょうね」

 「ダンジョン内では冒険者パーティーに遭遇したら言う事を聞くようには言

  ってあるのだがどうしたものか」

 

 若い冒険者パーティーの弊害がここでも出てきた。エリーが気にした様子も

なく案を出す。


 「それじゃわたし達の顔を隠すわ! クゥ、おどろおどろしい覆面とか作れ

  る?」

 「大丈夫ッスよ。明日までに用意しておくッス」

 「わざわざすまない。見た目で実力を見抜くなんて事は上級者にしかできな

  い事なのでな」

 「構いませんよ。それじゃ明日からダンジョン授業の際は危険区画周辺の見

  回りを行います。その後の事についてはジャックが戻り次第という事で」

 「あぁ。わかった。君達が来てくれて本当に助かった。こちらからもギルド

  の方に助けになった事を報告させてもらうよ」


 俺達は礼をして部屋を退室し、その日はそのまま解散する事となった。



 次の日、盾に着脱式刃のアタッチメントを取り付けた軽盾をクゥが持ってき

た。


 「フィーナ様が仰った事だし一応作ってみたッスよ」

 「仕事早過ぎない!?」


 昨日解散した後に作ったにしては完成度が高過ぎだった。


 「ここじゃまともな火床がないッスから、持ってきていた物を改造しただけ

  のやっつけ仕事ッスよ」

 「今日からダンジョン授業再開らしいから見回りがてら試してみようよ」

 「覆面もバッチリ用意したッスよ!」

 「先に見せてもらったわ! あれなら学生になめられる事もないわよ!」


 エリーがそこまで言うなら大丈夫だろう。


 「フィーナ様は今日どうしたの?」

 「ママは結界張るのに疲れたらしいわ! 今日は1日寝て力を取り戻すみた

  い!」


 神様も力の行使で消耗するようだ。それもあれだけの大規模な結界となるな

らば、なおのことだろう。


 「午前中からダンジョン授業あるみたいだから早く行きましょ!」


 学園に着く前から渡された覆面を被る。鏡もないので自分がどんな姿なのか

はわからないが、視界もさえぎらる事もなく聴覚も良好だ。

 そのままダンジョン前に行き衛兵さんに荷物を預けようとした。


 「そこで止まれ! お前達何者だ!」


 言われるままに止まる。覆面の効果がここまであるとは。


 「俺達ですよ。学生に顔を見られないように覆面をしたんです」


 そう言って覆面を半分だけ上にあげ顔を見せる。


 「そうだったのか。てっきり怪しい連中なのかと思ってしまったよ。それな

  ら学生の子達にも効果覿面こうかてきめんだろう」

 「そうですか。用意した甲斐がありますね」


 荷物を預けダンジョンの中に入りエリーとクゥに声をかける。


 「それじゃ危険区域の側で見張るこ……うわああああ!」

 「ロック! どうしたの!?」


 エリーとクゥはまるでこれから悪魔の儀式でも行うかのような邪悪な教団の

一味と化していた。


 「ほとんど見ずに被ったけど、もしかして俺の覆面もこれなの?」

 「そうッスよ。どうですか? これなら威圧感たっぷりッスよね」


 これは怖い。こんなのにダンジョンで出くわしたら戦うか逃げるか迷うぐら

いには怖い。

 これなら学生も言う事を素直に聞いてくれるだろう。


 とは言っても封印のお陰で学生は危険区域には近づけないとは思う。

 危険区域側でクゥが作ってくれたフィーナ様考案のアタッチメント付き軽盾

を試してみる。


 「……。」


 攻撃と同時に攻撃してきた新種のモンスターは勝手に刺さって、勝手にデス

ッていった。

 俺は盾を構えているだけである。


 「カーン! ブスッ!」「ガンッ! ドスッ!」


 初回の攻撃から一撃でどんどんデスっていく。


 「さすが神様ッスね……」

 「ある程度実力があって危険区域に入れる警戒所持者なら余裕かも」

 「ねぇ! わたしがやる事なさ過ぎてぶっ放したくなるんだけど!」


 エリーはウズウズしている。これはまずい。

 ぶっ放されると大惨事になりかねないので、アタッチメントの刃を外ししエ

リーに串刺しにさせてあげた。


 軽盾のアタッチメントは試作品とはいえこれだけの効果があるならば俺達が

ノースヘッド学園を離れても後続の冒険者が使えるはずだ。


 「このアタッチメントを量産できるようにしておいた方がいいかもね」

 「そうッスね。ギルドも危険区域を封印したとはいえ完全に放置するとは思

  えないッス」


 その辺の話についてもジャックが戻り次第話し合おう。

 危険区域から通常の学生用ダンジョンへと戻る。

 だいぶ学生用ダンジョン寄りの場所まで戻ると学生が探索しているのが警戒

によりわかった。


 「この辺まではこれるみたいだね」

 「これならもう安心そうね!」


 見張りをしていると何組かの学生に遭遇した。悲鳴をあげて逃げられた。

 1人だけ勇敢な学生は叫び声をあげながら襲い掛かってきたので無傷で押さ

え込み冒険者だと説明した。


 「す、すみません。モンスターかと思ってしまって……」

 「いや、こちらも紛らわしくてごめんね」


 この覆面は完全に失敗だ!

 ただ、作り直してもらうのもクゥに悪いのでこのまま使った。

 数日もすると学生達の間で冒険者だと知れ渡ったのか、挨拶して通り過ぎて

いく。


 「ダンジョンで3人のクセがスゴい(ダンジョン内で3人の覆面があまりに

  恐ろしくて皆様怖がっていましたわ)」


 すっかり学園生活に戻っていたアーヤにそう言われて少し反省したが、ダン

ジョン内ではそのまま威圧感を与えビビらせ続けた。

 言う事をよく聞く素直な学生達でよかった。

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