第52話 武器という概念
「状況が変わったので再度報告にきました」
場所は再び学園長室。俺達はフィーナ様が軽い封印を施す事を誰がするかの
部分はぼかしたまま伝えた。
「この封印は完全なものではないのである程度以上の実力者には封印をすり
抜ける事ができてしまう事も留意しておいてください」
学園長は解決の目処が立った事を喜んでいる。
「封印が済めばダンジョン授業を普通に再開してもらって構いません。ジャ
ックが戻ってくるまでは先に話した通り、俺達が危険区画の監視を行う予
定です」
「あぁ。よろしく頼むよ。本当に良かった。ありがとう!」
明日、封印を施すためにダンジョンへ潜る事を伝え退室した。
「エリーとクゥに相談したいんだけどいい?」
「いいッスよ」
「それじゃロックの部屋へ行きましょ。ママも連れて行っていい?」
「もちろんだよ。それじゃ行こうか」
少し吹雪いてきたなと考えながら雪の道を寮へと急ぐ。
寮の入り口で寮管さんに3人が入る許可をもらい部屋へと向かった。
部屋に着くともう慣れたもので暖炉に火をつけ薪をくべる。そして人数分の
お茶を用意するんだ。
ノースヘッド学園に来てからは部屋に戻ってからの行動が習慣化している。
全員にお茶を淹れ一息つく。
「相談ってどうしたんッスか?」
珍しくクゥが口火を切る。武器の相談だと勘が働いたのだろうか。
「今回みたいな厄介な敵と対峙した時の武器について相談したかったんだ」
役割分担で倒していたが、毎回役割分担ができるとは限らない。俺にもモン
スターを倒せる秘策がないと詰んでしまう事があるかもしれない。
「うーん。ああいう相手は普通の武器は難しそうッスね」
そうなんだ。軽盾スキルの発動すら間に合わず、間合いの外へ逃げるモンス
ター相手に普通の武器では相手をできない。
「ロック、前にも言ったけど武器という言葉に惑わされ過ぎなのよ。概念を
自分で創り出しなさい。あなたの全身が武器になる可能性を秘めているの
よ!」
エリーの指摘で思い出す。ただの落ちている石ころですら武器の
ていた事を。
「エリーさんが言ってる事で1つ思い浮かんだッス。明日、ダンジョンへ潜
る前に準備しておくッスよ」
「さすがクゥね。ロックももっと思考に柔軟性を持ちなさい!」
「わかったよエリー。俺の武器好きはきっとこのためだったんだ。俺の全て、
俺自身を武器と化すよ」
その後も3人で案を出し合っていくうちに夜は更けていった。
そろそろ解散しようという頃には、グッスリ寝ていたフィーナ様をクゥが抱
きかかえ女子寮まで連れ帰った。
「ロックちゃん、朝よ。起きなさい。起きないと一緒に寝るわよ~!」
エリーに起こされてるのかと思ったがハッと気づき飛び起きる。エリーに似
ているがこれはフィーナ様だ。
エリーはその後ろで腕を組んで見ていた。
「フィーナ様、わざわざすみません」
「いいのよ! わたしも息子を起こす母親をやってみたくてエリーちゃんに
頼んだの!」
光の女神による目覚ましアラームとか豪華過ぎるッ!
「エリーさんが起こすよりすぐに起きたッスね」
「クゥ、余計な事は言わない方が身のためよ! 今日だけは特別だからね。
起きたなら準備しちゃいなさい」
「おーこわいこわいッス」
きっとクゥの尻尾は丸く巻きついてる事だろう。
以前聞かせてもらったが、クゥの尻尾は自由に動かす事もできるが感情に直
結して自然に動く事もあるらしい。
準備をする間にクゥは軽盾の持ち手側に何かを取り付けていた。
「とりあえずの試作品ッス。使い方は後で教えるッスよー」
「ありがとう。なんなのかわからないけど後で試させてもらうよ」
今日はフィーナ様による封印が主な目的だ。
封印が終わったらついでに試させてもらおう。
「準備できたなら行くわよ! 今日も吹雪いてるからダンジョンの外ですぐ
脱げるようにコート羽織っておきなさい」
ノースヘッド学園周辺の天候は凍りつきそうなぐらいの寒さが続いている。
ただし、ダンジョン内だけは別だ。
外界と切り離されたかのように一定の温度を保っている。
俺達はダンジョンの前で身軽な装備になりコート等の防寒具を置かせておい
てもらう。
「奥の区画を封印してくるので荷物をお願いします」
衛兵の人に荷物をお願いし、フィーナ様を連れダンジョンの中へ入った。
「警戒、罠感知、隠密発動ッス」
いつも通りクゥに先行してもらい危険区画まで進む。
全員が隠密を発動してるため学生用ダンジョンのモンスターはこちらに一切
気づく事もなく素通りであの区画までやってこれた。
「それじゃここからは俺の出番だね」
盾を構えクゥの前に出る。モンスターを引きつける準備は万端だ。いざ危険
区画へと入っていこうとしたその時だった。
「ロックちゃーん、こっちから封印するから行かなくて平気よー!」
フィーナ様にそう言われる。
やる気全開だった俺は盾を構えて危険区画を警戒しながらすごすごとフィー
ナ様の後ろに戻った。
「ププッ。完全にやる気まんまんだった……プッ、のに残念だったッスね。
プッ」
クゥが笑いを堪えながら指を刺してきた。俺はこの
しっかり覚えておけよー。
「ほらっ、あんた達ママの封印が始まるわよ! 滅多に見られないんだから
見ておきなさいよ!」
エリーに言われてフィーナ様の方を向くと、既に何かが始まっていた。
封印というものが魔法なのか、それとも神の
どちらかといえば後者なのかと思う。目の前の光景を見る限りでは。
「フィーナ様、光り輝いてるッス」
「エリーも光り輝くようになれるの?」
「馬鹿ね。神様としての力よきっと! わたしには無理だわ」
フィーナ様から発せられたこの光はやがて回転しながら大きく大きく広がっ
ていく。それはもう人知を越えた神の威光としか感じられなかった。
広がった光は危険区域の方にまで及んでいく。
まるで暗闇に朝日が差し込むかのような光景を俺達は息をするのも忘れて見
ていた。
少しずつ光が収まってくると、今までこちらからは警戒を使っても何も感じ
られなかった危険区画を感じられるようになってきた。
「さぁ! これで封印は完了よ!」
「ママー! 凄かったわ!」
これはエリーが言う通りすごいの一言に尽きた。警戒の反応について聞いて
みよう。
「警戒でこちら側からも危険区画を感じ取れるようになったんですが」
エリーとクゥも警戒を使っているのですぐに気づいた。
「本当ッスね。これ学生の子達大丈夫ッスか?」
近くまで戻ってきたフィーナ様が答えてくれる。
「大丈夫よ。この結界は一定の力があれば素通りできる事は話したわよね?」
俺達3人はフィーナさまの問いに頷く。
「ここから警戒であっち側の反応を感じられるって事はそれだけの力がある
って証拠よ! 学生の子達は近づく事もできないから大丈夫よ」
「それなら安心ッスね。ロックさん、さっき使い損なった新武器試してみる
スか?」
クゥがニヤニヤしながら言ってくる。絶対に忘れないからなぁ!
それでも新武器の誘惑に勝てるはずもなく……。
「使う使うー!」
「どんなものかわたしは見させてもらうわ!」
クゥに使い方を教えてもらった。
軽盾の裏にセットされていたのは小袋。中には罠発動用投擲武器を小さくし
た物が入っていた。
「それを1つ口にくわえて敵に向かって吹き出すだけッス」
「ちょ、それはさすがに無理があるんじゃ?」
「一回あそこの壁に向かってやってみなさいよ! たぶんわたしもいけると
思うわよ」
エリーに後押しをされ、試しに壁に吹き出してみた。
「バーンッ!」
投擲程ではないがそれなりの威力が出ている事が音で伝わってくる。
「どうッスか? これならいけるんじゃないッスか?」
「全然いけるよ。あの新種なら一発で倒せるかもしれない」
「最初は吹き矢にしようとしたんッスけどあれって戦闘中に前衛が使うには
向いてないッスからね。焦って口の中切るロックさんが想像できたッス」
「……。」
確かに無駄に切れ味鋭くしたところで自分にダメージがきそうだ。
「今日やたらクゥが辛辣な気がするんだ」
「それはたぶんママがわたしとロックを膝枕した話をしたからね!」
ケモノを見る目でクゥは言った。
「ロックさんがいくら神好きでも、さすがにエリーさんのお母様にまで手を
出すのはどうかと思うッス。この
神誑しとは一体……。
俺は悪くない、絶対悪くないよ!
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