第51話 母娘とのお勉強


 いや、目を閉じちゃダメだ。ここは学園の図書室だった。

 エリーも来た事だし魔法学校首席卒業の実力を見させてもらおう。


 「エリーは500年前の事やそれ以前の歴史って知ってる?」

 「さっぱりわからないわ! 魔法学校で歴史の授業なんてないもの。歴史な

  んてやる暇があるなら一発でも魔法を撃てっていうのが方針の連中よ?」


 だいぶ前から魔法学校に対して胡散臭うさんくさいと感じている。

 エリー以外の魔法使いを見た事がないのでなんとも言えないのだが、話を聞

く限り先天的に魔法の能力を有しているだけなのではないかと。

 所々抜けている部分もあるがエリーがあまりに優秀なので余計そう感じてし

まうというのもある。


 「クゥちゃんも一緒なら良かったけどまぁいいわ! エリーちゃんも聞きな

  さい!500年以上前は戦争ばかりで国が入れ替わり立ち代りしてたのよ!」


 国自体がなくなったり、新しくできたりしてたら文献なんて残るわけないよ

ね。残ってない物を重視するわけもなく歴史は軽視されてきたんだ。今日聞く

事はそんなに遠くはない過去の事なのに知らない事ばかりだった。


 「元々はね、クロエちゃんも最高神だったわけじゃないのよ」

 「え!? そうなんですか!」


 最高神ってこの世界を司っている神様なのに代わったりできるんだ。


 「あまりに戦争を繰り返す世界に嫌気がさした最高神は一人悩み続けたの!

  わたし達の声にも耳を貸さなくなり、最期に堕ちた」


 今現在、戦争はない。むしろ戦争をしていたという話すら聞いた事がない。

 人々は自由に暮らし、毎日をそれぞれの幸せの中生きている。


 「堕ちた最高神は世界を無に帰そうとしたわ! わたし達は人間に生まれた

  勇者の力を借り、神々全ての力を合わせたの。それでも封印する事がやっ

  とだったけれどね!」

 「そんな話聞いた事がないわ!」

 「人間に生まれた勇者って、そんな人がいるならさすがに語り継がれてても

  おかしくないと思うんですが?」

 「本人が広めたくないっていうから隠蔽いんぺいしたのよ! それに最高神が世界を

  消そうとしてたなんて言えないでしょ」

 「あっ……。」


 それはその通りだろう。

 勇者の人は恥かしがり屋だったと納得がいく。

 ただし、最高神が世界を消そうとしてた事実は神々への不信になりかねない

し、戦争ばかりの時代だったなら暴動の一つや二つ起きてもおかしくない。


 「それが500年前にわたし達がした悲しい選択。1番辛い役目をクロエち

  ゃんに任せる事になってしまったわ。その戦いで多くの神々も消えていっ

  てしまったの。あなた達がまだ会った事のない神もいるけどね!」

 「そして世界は創りかえられ新たな世界がスタートしたってわけね!」


 エリーはすんなりと理解できてるようだが、俺にはどういう事かわからず全

然頭の中に入ってこない。


 「わかってないみたいね! 簡単に説明してあげるわ。大真面目な元最高神

  を神々がぶっ飛ばして封印したの! それで新たに最高神になったクロエ

  様が自分ルールで構築したのが今の世界ってわけ」


 とんでもなく簡潔に説明してくれた。エリー言語はわかりやすくていいね。


 「ありがとう。よくわかったよ。1つ聞きたいんだけどいい?」

 「いいわよ! どこかわからないとこがあったかしら?」

 「元最高神って世界を無に帰そうとしてたんだよね? その神様が大真面目

  ってどういう事なの?」


 エリーはいつものように溜め息をつきながらも教えてくれる。


 「人間なんていうちっぽけな存在の事を1人で思い悩む神が大真面目じゃな

  いわけないでしょう! 大馬鹿真面目よ!」


 エリー語は真っ直ぐストレートで本当にわかりやすい。



 「ここまではロックちゃんもエリーもわかったみたいね! 続けていい?」


 俺とエリーはフィーナ様に頷き続きを話してもらう。


 「500年前より以前のこの世界は自由だったわ! 無法がまかり通るやりた

  い放題という名の自由ね。わたし達神々は最高神の意向により完全なる傍

  観者として世界の生物に関わる事はしなかったの」


 今のクロエ様や神様達とは違い過ぎて想像しづらい。それではまるでいない

のと同じじゃないのかな。

 

 「そして新たなルールを作る上でクロエちゃんは積極的に関わっていく道を

  選んだの。争いは一切なくなったわ! その分、わたし達神々は影ながら

  大忙しだったわね!」

 「だからママは昔からほとんど家にいなかったのね」

 「そういう事よ~! エリーちゃんには寂しい思いをさせて悪いと思ってる

  わ」


 エリーの頭を愛おしそうに撫でながら話すフィーナ様は完全に母親の顔をし

ている。


 「500年間は何もなかったの。だけど、ここで起きてしまった。学生用ダ

  ンジョンに無理矢理恐ろしい区画を繋げて干渉してきたのは間違いなくそ

  の封印した元最高神よ。目的はわからないわ」

 

 俺達はあの区画に入ったからわかる。あそこは今まで潜ったダンジョンとは

別物だ。

 強い悪意、恨み、そういった負の感情が押し込まれたようなそんな場所なの

だ。

 新しいダンジョンでドキドキしたりワクワクしたり、そんなものは必要ない

とばかりに押し潰してこようとする。それがあの場所だ。


 「一時的にわたしの力で軽い封印を施そうと思っているわ! 学生は近づけ

  ないようにして、ある程度以上の力のある者だけが入れるように」

 「俺達が受けた依頼なのにすみません」

 「いいのよ! これは神々の負の遺産みたいなものだしね!」


 そう言いながら溜め息をついてる姿はやはりエリーそっくりだった。

 封印されてまでフィーナ様に溜め息をつかせるなんて元最高神も厄介な存在

だね。


 「今回はママに頼るしかないようね! そういえばロックも全然実家に帰っ

  てないんでしょ?」


 エリーに振られて考えてみるまでもなく実家には帰ってなかった。家を出て

から1度も。


 「冒険者として成功するまで帰るつもりがなかったんだよ」

 「もう成功してると言っても過言じゃないでしょ! この依頼が終わったら

  ロックが育った場所へ行くわよ!」

 「わかったよ。なんか恥ずかしいなぁ」

 「そんな事今更だわ! わたしちょっと楽しみ。後でクゥにも聞いてみまし

  ょ!」


 なかば強引に決まってしまったけれど、きっとこういう事でもなければずっと

帰らないままだったかもしれない。

 いつもキッカケを作ってくれるエリーに感謝だ。


 「エリーちゃんったら。そのままお父様に挨拶なんて……強引ね!」

 「もう何言ってるのよ! ママー」


 少し顔を赤らめながらポカポカしている。

 エリーとフィーナ様の絡みはどう見ても双子の姉妹だ。


 「ジャックは報告したら戻ってくるって言ってたよ。どうしよっか?」

 「ママに封印してもらったら、ジャックが戻ってくるまでわたし達で監視し

  ておきましょう」

 「ここに来る途中で彼に会ったわよ! 軽い封印を施すからそれを前提にし

  て報告するように言っておいたわ!」


 フィーナ様も神様だけあってジャックの事を把握していた。

 後はギルドマスター達に対処を考えてもらおう。

 封印してしまえば俺達以上に強い人達しか入れないし問題ないはずだ。

 元最高神が、なぜこんな強引な方法で干渉してきたのかは謎のままだがそれ

は今考えても仕方のない事だろう。


 今回の依頼は俺達パーティーだけの力では解決できなかった。

 新種のモンスターとの戦闘でも、まだまだ力不足である事も感じてしまった。

 モンスターの攻撃を防ぎながら攻撃できる手段を考えた方が良いかもしれな

い。

 エリーもクゥも優秀だ。2人に相談してみよう。



 「そういえばエリーって普段はママって呼んでたんだ。前に話してた時は母

  って呼んでたからさ。ププッ、エリーって意外と甘えん坊さんだよね」

 「そうよ! なんか文句あるのー!?」


 夢の中のフィーナ様に続き娘のエリーにもこめかみをグリグリされた。


 「エリーちゃん、男の子にそんな事しちゃダメじゃない」

 「……。」


 自分でやった事を翌日にはすっかり忘れている。

 やっぱりこの方、正真正銘エリーのお母様。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る