第54話 退学


 フィーナ様による封印の効果は絶大だった。

 誰もデスる事がなくなり、平常時の学園に戻っていった。

 街中を出歩く生徒も増え徐々に都市自体も活気を取り戻している。


 相変わらずダンジョン内では覆面を被った俺達が危険区域との境界付近の見

回りをしており、近くを通った生徒は礼をして去っていく。

 ごく短期間のうちに問題解決した俺達に対し尊敬と畏怖の眼差しが向けられ

ているのがわかった。


 「こういうのはわたしには合わないわね!」


 ノースヘッド学園ではあまりエリー様信者を増やせなかったようだ。

 エリーには畏れ敬われるというよりも、相手を従えてしまうみたいなカリス

マ性の発揮の方が似合っていると思う。


 「エリーさんは見た目もかわいいッスからね。覆面してる状態じゃそれもわ

  からないッス」


 出会った頃、エリーの見た目はこちらが気後れしてしまうぐらいであった。

 今ではだいぶ慣れてきたが急に顔を近付けられたりするとドキッとしてしま

う事もある。


 「クラスメイトとはどうだったの?」


 合間を見ては、エリーとクゥは一応学園にも顔を出していた。これはアーヤ

の存在もあるだろう。

 特にエリーはアーヤととても仲が良くなっていた。


 「あれね、転入してきた事もあるけれどアーヤの友達という域を出てない気

  がするわ!」

 「自分は学園に行くとお菓子くれるから行ってるッス」


 何気にクゥも学園生活を楽しんでいるようだ。貴族のお嬢様方からかわいが

られてるとか。

 ガリアさんに弟子入りする前も学校に通った事がなかったらしいし良い経験

ができたんじゃないかな。

 お菓子に釣られるのはどうかと思うが。



 ジャックは思ったよりも早く戻ってきた。

 だいぶ飛ばしてくれたようで疲れてるのがすぐにわかったので部屋に招き入

れる。


 「いやー、寒い場所と暑い場所の行き来は体にくるねぇ」


 雪を入り口で払い、部屋に入ってきたジャックに温かい飲み物を渡し一息つ

いてもらう。


 「おかえり。こっちは特になんの問題も起きてないよ。あっ、新種の攻略法

  を見つけたぐらいかな」

 「なんだって!? もう弱点見つけたのか。そんじゃ、とりあえずギルドマ

  スター達の判断と今後について話しちまうぞ」


 熱いお茶をフゥーフゥーしながら飲みながら続ける。


 「封印内部の監視をするために一組のパーティーを常駐させる事となった。

  新種を「影の暗殺者アサシン」と命名し発見者パーティーとしてロック

  のパーティーが図鑑に記載される」

 「本当に!?」


 図鑑にうちのパーティーが記載されるなんて思ってもみなかった。エリーや

クゥに話したら喜ぶだろうなぁ。


 「あとは後任を待ってアドバンで報告って感じか。何か聞きたい事あるか?」


 影の暗殺者対策に警戒と盾スキルが重要だと話しクゥが作ったアタッチメン

トの刃を見せる。


 「これだけで勝手に刺さってくれるよ。だから警戒に慣れてるパーティーで

  盾スキル持ちだといいんじゃないかな。後任ってどうだろう」

 「どんなパーティーが来るかわからんが、恐らくそれなりにバランスのとれ

  たパーティーが送られてくるだろう。なので必然的に警戒も盾スキルもあ

  るから引継ぎの際に攻略手順を教えてやればいい。後はアドバンに戻った

  時に報告だな。図鑑に載せる内容が増えるはずだ」


 ギルドとしても新種の出現に加え神が直接結界を張るという事態に、事の重

大さを感じているのがよくわかる。


 「後任を待って一旦アドバンに戻った後、故郷の村に帰省する予定になった

  んだ」

 「村に戻るの初めてじゃないか? なるほど……。」

 「だね。冒険者として成功するまで絶対に帰らない! って思ってたから。

  それを話したらエリーに「もう成功してると言っても過言じゃないでしょ

  !」って言われちゃってさ」


 その時の事を思い出して苦笑すると、ジャックも想像がついたようで笑い出

した。


 「ハハッ、そりゃエリー様が言いそうだ」

 「ジャックの方こそ全然帰ってないんじゃない?」

 

 俺がはじまりの街へ行ってからジャックが里帰りしたと聞いた事はなかった。

 俺よりも早く村を出たジャックは全然村に帰ってない気がする。


 「あぁ、1度も帰ってないな。丁度良い機会だし俺も久々に村に帰るとする

  か」

 「ジャックの場合もう4、5年ぐらいになるもんね」


 そんな話をしていたら突然部屋の扉が開けられエリーが入ってきた。


 「ジャックが帰ってきたってほんと?」

 「本当だけどよくわかったね」

 「ママに教えてもらったのよ」


 そういえばフィーナ様が一緒ならわかって当然だったか。

 エリーにもジャックから聞いた話を伝えると大喜びだった。


 「図鑑に載る日がくるなんて! また一歩、獣人王を越える道を進んだわね

  !」


 光の女神を母親に持つ彼女が獣人王を越え何になるのか検討もつかない。

 ジャックも里帰りする事になったと話すと怪訝けげんな表情を見せジャックから

俺をかばうように進み出た。


 「やっぱりジャックはロックを狙ってるのよ! 気をつけて!」


 俺とジャックは困惑するが彼女は本気なので訳を話し納得してもらった。

 それでも不審者を見るような目でジャックを見ている。そこで喜ぶから怪し

まれるんだよ……ジャック……。



 数日が経ち後任のパーティーがやってきた。

 初めて会う人達だったがジャック曰く、熟練の冒険者パーティーらしい。

 観察すると一つ一つの動きに全く隙がない。


 「御眼鏡おめがねにかなったかな?」


 不躾に観察していたのも簡単にバレてしまい、パーティーリーダーらしき人

から話し掛けられた。


 「すみません。どういう方達が後任なのか気になったので。俺達のパーティ

  ーより明らかに格上だとわかりました」

 「そんなに卑下する事はないさ。僕達は上級冒険者ではあるけれど君達のパ

  ーティーが出したTA記録は破れなかったよ」


 それはダンジョンとの相性の問題だと思ったが口には出さなかった。

 それ程にこの人達の実力が本物だとわかってしまったからだ。


 「既に聞いてる部分もあると思いますが、詳しく説明します」


 封印したダンジョンの説明をマップを見せながら説明する。攻略の要でもあ

るアタッチメント刃と盾についても。


 「パーティの盾の方が攻略の要になると思います。盾にアタッチメント刃を

  取り付ければ勝手に相手がデスッてくれますよ」


 軽盾にとりつけたアタッチメントを4人はかわるがわる見ながら感心してい

た。


 「うちのパーティーのクゥがアタッチメントの販売をしていますが買います

  か?」

 「クゥさんって確かガリアさんのとこの……」

 「ですね。そこの本人は急ごしらえだと言ってますが品質は保証しますよ」

 「クククッ、君達は商売もうまいね。盾の個数分といくつか予備も貰えるか

  い?」


 ここからはクゥの仕事だろう。


 「お買い上げありがとうございますッス! 盾に合わせてリサイズするので

  盾をお預かりしてもいいッスか?」


 4人中3人が盾持ちという前衛特化型パーティーだ。1人は弓使いなのでそ

の人が絶対に狙われないように3人が壁になるよう伝えた。


 「ボスは未だ生まれてないらしいので観察だけをお願いします」

 「あぁ、任せてくれたまえ。君達の後はしっかり引き継がせてもらう」


 固い握手を交わしていると後ろからコショコショと内緒話が聞こえてくる。


 「あのパーティーの人達、全員がすごい主人公オーラッスね。それに比べ…

  …。」

 「シッ、ダメよ。ロックはあの普通な人風なとこが売りなのよ!」


 内緒話は聞こえないようにして欲しい。

 後任パーティーがイケメン揃いの実力派でつらい。 



 後任パーティーとの引き継ぎも終わり学園を発つ日が近づいてきた。

 既にクラスメイトにはネタばらしをして学生になって潜り込んでいた事が噂

になっている。

 学園長からは多大な感謝と今後の活躍をお祈りされた。


 学園に通うアーヤともここでお別れだ。

 エリーにとってかけがえのない友人となった彼女とエリーは抱き合いながら

大泣きをしていた。

 初めにエリーが言っていたエモいとはここでの感傷的になる別れを予感して

いたのか。

 出発の前日、手を繋いでイチャイチャしながら2人で寝たらしい。

 全部クゥが事細やかに報告してくれた。


 「わたくしはみなさんと過ごした時間を決して忘れませんわ。卒業して迷宮

  都市に戻ったらいつでも会いにきてください。みなさんの冒険のご無事を

  お祈りしておりますわ」

 「アーヤがしゃべった! アーヤがしゃべったわ!」


 元から話していたよ! という無粋なツッコミはせず、俺達はノースヘッド

学園都市を旅立った。


 あれだけ楽しみにしておきながら1日しかまともに登校しなかった。学園生

活とは一体……。

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