第55話 初めは辛かったり痛かったりしても段々良くなる事もある
行きはアーヤと一緒だったが、帰りはフィーナ様と一緒にアドバンまで戻る
事になった。
フィーナ様は元々各地を巡っていたと聞いている。旅にも慣れている様子だ。
「目的地まで降臨したりしないんですか?」
フィーナ様は少し考えた後に言った。
「その方が手っ取り早いわ! でもそれじゃ旅の醍醐味を味わえないでしょ?」
「その通りですね」
エリーをチラッと見ながら、エリーが言いそうな事だなぁと考えながらそれ
を肯定した。
2人があーでもないこうでもないとはしゃいでいるのを見ているとまるで双
子の姉妹のように感じる。
クゥがその2人に冷静なツッコミをしているのが最近のやりとりのパターン
だ。俺とジャックはその姿を眺めていた。
「なんか尊いな。俺ちょっと
「俺も俺も」
ジャックに
馬車に揺られながらそんな時間を数日も過ごすと、次第に暑くなり迷宮都市
が近づいてきたと肌で感じる。
馬車内はエリーの魔法により涼しくなっているが、外に出るとジリジリとし
てノースヘッド学園都市とは正反対の気候になっていた。
アドバンに着いた俺達はまず、ギルドマスターに詳細と依頼完了の報告に向
かった。
真昼間の砂埃が舞う中、閑散としたギルドへ入る。暑さも砂埃も少し懐かし
い。この時間はまだ皆が動き出す前の時間だ。
「ノースヘッド学園での依頼を受けていたパーティーの者ですが、ギルドマス
ターと面会できますか?」
カウンターでギルド職員の人に依頼の報告をしに来た事を話す。
「はい。その件についてはすぐ通すよう言われています。案内するのでついて
きてください」
ジャックの報告を受けギルドでも重要な案件としたらしい。
ギルド職員について階段を降りていく。
アドバンのギルドは灼熱の地上ではなく地下方向に施設が作られている。ギ
ルドマスター室も地下にあるようだ。
案内された部屋へ入ると、相変わらずムスッとした顔のヨバさんがお茶を飲
みながら執務中であった。
「そこに座って待ってな! 見ない顔もいるね。関係者って事でいいんだね?」
「そうよ! お婆ちゃん」
フィーナ様が笑顔で答えるが、ヨバさんよりもフィーナ様の方が……ダメだ
! これ以上は考えるだけできっとまずい。
俺は素知らぬ顔でヨバさんの執務が一段落するのを待った。
「待たせたね。それじゃ報告を聞かせてもらおうか」
お茶をすすりながらこちらを向いた。
「その前にその双子みたいな片割れは誰だい?」
いなかったメンバーがいればそうなるか。俺が説明する前にエリーが簡潔に
答えを述べた。
「驚いてデスらないでね! 何を隠そうこの人はわたしのママよ!」
場がシーンと静まり返る。エリーさんや……その説明なんの説明にもなって
ないよ!
気まずい空気が流れるのにも気づかずドヤ顔でふんぞり返るエリーに変わっ
て説明した。
「この方はフィーナ様と仰り、今回ノースヘッド学園都市のダンジョン新区画
に結界を張ってくれた方です」
改めてフィーナ様を紹介しフィーナ様自身にもお話ししていただこう。
「わたしがフィーナよ、お婆ちゃん。あそこはちょっとした手違いで作り出さ
れた場所だから弱めの結界を張らせてもらったわ!」
ヨバさんはお茶をすすりながら俺の方を見ている。何か言いたげだ。
「要するにお前のパーティーメンバーの母親がまだ知られておらぬ神の1柱で
結界を張っていただいたって事でいいのかい」
「さすがお婆ちゃん。伊達に長く生きてないですね」
これだけの情報でそこまで的確に言い当てるなんてさすがこの年までギルド
マスターをしてるだけあるなぁ。
「神様から助っ人を向かわせたとこっちでも聞いていたんだよ。まさかあんた
のパーティーメンバーの母親だとは思わなんだ」
エリーの紹介で余計な情報まで与えちゃってたよ。知られて困る事でもない
しヨバさんが言いふらす事もないだろうから構わないけれど。
その後、影の
について報告を済ませた。
「この短期間でよくもまぁこれだけ調べたね。褒めてやるわい。でもねぇ……
あんたら、人の事婆さん呼ばわりしすぎだよ! 伊達に長く生きてないとか
どういうつもりだい!」
褒められるどころかめちゃくちゃ怒られた。
「ツンドラね!」「ツンデレッスよ」「ツンドラ3ね」
人は年をとる事でツンデレになるのかもしれない。
追い立てられるように部屋から退室し、そのままカウンターで依頼完了の手
続きをしてもらった。
家に帰る前についでなのでそのままガリアさんの店へ向かう。ジャックは行
くところがあるというのでここで別れた。
あちらでは設備がなく
に見てもらう事にする。
「師匠ー! 大切な一番弟子の自分が帰ったッスよー」
クゥが我が家のように開店前の店に入っていく。そういえばガリアさんがア
ドバンから逃げている間に本店の一切を取り仕切っていたのが彼女だったか。
店の奥から金床で槌を叩く規則的な音が聞こえてくる。何もかも懐かしい。
クゥに続いて店の中へ入っていくとガリアさんを呼ぶ声に漸く気づいたらし
く、金属音が止まった。
「おー。おまえら帰ってきたのか。無事で何よりだ」
「自分がいない間、ちゃんとお店の運営できたッスか?」
そんな軽口を叩き合う2人を見ながら師匠と弟子というのもいいなぁと考え
ていた。
俺にとって師匠といえばやはり父親になのかな。
ジャックを頼ってはじまりの街へ出たけれど、初歩的な剣術や体さばきは父
親に教わった。
子供の頃から俺が村から出て行く事を前提にしていた気もする。
家を継ぐ予定の子供は農作業や家業をやらされているのをよく見かけた。村
で剣術なんてやらされていたのは俺ぐらいだった。
弱虫だった俺が自分に自信を持てるキッカケの一つになった記憶がある。
「坊主、ボーッと突っ立ってどうした?」
考え事をしている間に師匠と弟子による感動の再会は終わっていた。
「2人共仲良さそうだなって思ってさ。依頼中に使った装備の手入れを頼んで
いいかな」
「わたしの方はたぶん大丈夫だと思うけど一応見てください!」
エリーは今回ほとんど武器を使わなかったからね。俺の方は盾をかなり使っ
たから補修してもらおう。
「そっちの嬢ちゃんにそっくりな子は嬢ちゃんの身内か?」
「わたしはフィーナよ! エリーちゃんの母親なの。よろしくね!」
さすがに母親とまでは思わなかったらしく少し目を見開いていてエリーと見
比べていた。
「人の成長は早いな」
「ちなみにわたし、人じゃないから成長しなかったわ!」
今度は口まであんぐりと開いている。突然言われたら驚くよね。娘のエリー
は普通に人だし。
「嬢ちゃんは他の人とは違うと思っていたがそんな事もあるのだな」
それでも稀代の名工は見抜いていたみたいだ。
俺はエリーを見ても少し頭魔法使いな事しかわからなかったよ。これが名工
と凡人との差なのか。
「俺のパーティーは俺だけが普通の凡人なんだ」
全員が俺を見て言った。
「「「それはない」」」
納得がいかないが数の暴力には敵わなかった。
装備の補修も終わり久々の家へと帰る。
そういえばセレンの我が家はどうなっているだろう。カレンさんに任せてあ
るから大丈夫だと思うが。
完全に任せっ放しにしてしまっているので実家のある村に帰る前に1度立ち
寄ろうかと思う。
今日はクゥも一緒に家に連れてきた。
これからクロエ様とアリスを呼んで事の次第と成長度合いを見てもらうから
だ。
クゥは初めての時にあんな事やらこんな事やら、めちゃくちゃにされたので
少し嫌そうな顔をしているがすぐにその顔も喜びに染まるようになるだろう。
エリーもそうだった。
成長の喜びを知ればわかるようになるはずだ。
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