第58話 はじまりの街2回目!


「坊主の親父さんって冒険者でもやってたのか?」


 マスターの店で飲んだ翌日、早速ガリアさんへ依頼するために親父の片手剣

を持ってガリアさんの店を訪れていた。


「うちは普通の農家だと思うよ。剣術を少し教わったりもしたけど、どちらか

 というと心構えや基礎体力作りが主だったかな」


 基礎体力作りと称して農作業を手伝わされていた思い出。足腰立たなくなる

まで追い込まれたなぁ。


「改めて見せてもらったがこの片手剣はただの農家が持つには過ぎた物だ」


 俺が渡した片手剣を隅々まで観察しながら、所々を指で弾いて出た音に耳を

寄せて聞いている。

 俺にはそこらにあるただの片手剣にしか見えない。

 ガリアさんの店に置いてある片手剣の方がよっぽど業物に見える。


「俺の武器マニアっぷりって親父譲りなんだ。農家なのに家に武器いっぱい飾

 ってあったよ」

「ふむ。そういう事か。これに見合う剣を打つから出立は数日待ってくれ」

「忙しいのにごめんね」


 片手剣を眺め、笑顔を浮かべながらガリアさんは言う。


「ワシも久しぶりに全力で叩いてみるか。どんな剣になるかはまだわからんが

 楽しみだ」


 ガリアさんが本気で叩くとだけあって一番弟子のクゥも手伝っているらしい。


「折角里帰りするのだし数日ぐらいなら待つわよ。それにしても親子揃って武

 器マニアなんて珍しいわね!」

「エリーちゃんとわたしって見た目以外はあまり共通点ないのよねぇ」


 エリーよりもフィーナ様の方が若干大人っぽさが垣間見えるけど、見た目も

中身もそっくりだと思う。

 こういう事は当の本人達は気付きづらいのだろう。


「ところで二人の好きな食べ物は?」

「「肉!」」


 うん。おいしいよね。



 特に何かをするわけでもなく、クロエ様達やエリーとゆっくりとした数日を

過ごし出発の日がやってきた。

 ドアを叩く音がして開けるとゲッソリとした顔のガリアさんがグッスリと眠

ったクゥを担いでやってきた。


「坊主、すごいのができたぞ」


 クゥをソファーに寝かせ、もう片手に持っていた剣と鞘を渡される。


「抜いてみていい?」

「おう、見てみろ」


 鞘から剣を引き抜くと一目で吸い寄せられた。持ち手を変えて色々な角度か

ら刀身を見る。


「ガリアさんずるいよ! これ俺も欲しい!」

「勘弁してくれ……。全身全霊を籠めた最高の出来だ。ワシも早く寝たい」


 クゥをチラッと見ながらフラフラしている。ここまでの出来の物を作ってく

れたんだ。本当に限界まで力を注いでくれたのだ。


「だよね。ガリアさんありがとう。最高のお土産ができたよ」

「おう、それじゃ旅の無事を祈ってるぞ。セレンに寄るならサドニアとダンカ

 ンにもよろしくな」


 それだけ言うと、片手を上げて家から出て行こうとした。


「ちょっと待ってね。この者を回復させたまえ! ヒール!」


 フィーナ様は詠唱をするとガリアさんに光の回復魔法をかける。


「これで少しは楽になったでしょ? それでもしっかり睡眠とりなさい!」

「お陰でだいぶ楽になったわい。嬢ちゃんの母上か。ありがとうな」


 今度はフラフラした足取りも元に戻り、いつものゆったりとした動きで家か

ら出て行った。


「クゥにもかけてもらっていいですか? クゥが起きたら出発しよう」

「わかったわ! 光の女神が命じる! この者を回復させたまえ! ヒール!」


 聞いた事のある詠唱と聞いた事のない詠唱が混ざっていた。クゥの体が光に

包まれるとパチッと目を覚ました。


「あれ、ここどこッスか?」


 まだ寝惚けてるようなのでガリアさんが担いで来た事を説明する。


「そうだったんッスね。限界でいつの間にか寝ちゃってたッス。なんか疲れが

 吹っ飛んでるッス」

「ママの回復魔法かけたからね! 光の女神自身の最強の回復よ!」

「そういう事なのか。クゥ、このまま出発しても大丈夫そう?」


 起き上がり軽くジャンプを何回かして体の調子を確かめている。


「全然平気ッス。寝ちゃう前はボロボロだったのに今は体が軽いぐらいッス」

「それじゃ行こうか。無理しないようにね」


 それでもやはり睡眠は足りていなかったらしく、砂漠を抜けて馬車に乗る頃

にはまたグッスリ眠っていた。

 ガリアさんもだがそこまで本気で打ってくれたのだ。戻ったら何かお礼をし

よう。

 馬車の中で俺とジャックでエリーとフィーナ様に故郷の村の紹介をしながら

クゥを起こさないように静かにしていた。

 セレンの街周辺は魔物もほとんど居らず野生動物も草食系ばかりが目立つ。

 はじめてアドバンへ行った時も道中は何もする事もなく馬車に揺られている

だけであった。


「暇過ぎるわね! 魔物でも出ないかしら」


 エリーがそんなぼやきをこぼすぐらいに平和そのもの。


「エリー様。お言葉ですが、そのような事を仰ると実際にその通りの出来事が

 起きるというのが常であります」


 ジャックが前以上にかしこまった話し方をしている。

 ノースヘッド学園都市で俺達と合流した事が依頼だったとバレてエリーに対

しビクビクしてるのがわかる。


「そんなまさかー」


 俺はそんな都合良くエリーの暇潰しの相手が現れるとも思えず否定した。


「そうでもないわよ! わたしさっきから魔法で凍らせてるもの」

「ん? どういうこと?」

「遠くの方に魔物の群れがいくつか見えたから気づかれる前に冷凍してるの!」


 さすがジャック。なんでも知ってるなぁ。

 それよりエリーもそんな事してるなら早く言ってよ。


「俺もちょっと投げたかったのに……。」

「仕方ないわねー! ほらあそこに凍らせた一団が見えるでしょ! 投げちゃ

 いなさい」

「ほんと!? やったー!」


 遠くで凍ってる魔物に向かい馬車の後ろから石をおもいっきり投げた。


「ドゴーーーーンッ!」


 馬車は走り続けているので着弾地点は遠くになり確認はできないが確実に手

応えはあった。


「ふぅ、スッキリした」

「ロックちゃん、ナイスショット」


 フィーナ様が褒めてくれたので親指を立ててクールに対応した。


「投擲の威力が魔法と遜色ないのは気のせいかしら?」

「中位ぐらいの威力はありますね。上位となると範囲のレベルが違いますから」

「迷宮魔窟のボスに止めを刺したのもロックだしね!。一点突破という意味で

 は充分にオンリーワンよ」


 2人に褒められたのがあまりに嬉しかったのでエリーとジャックに小躍りし

ながらダブルピースしてその嬉しさを体現した。


「いえーい!」


 魔物に邪魔される事もなく馬車は進んでいくのであった。


「俺を見て無言にならないで! 何か言ってよ!」



 はじまりの街に着く前には充分に睡眠をとれたクゥも起き出してきた。


「皆さんおはようッス。ここどこッスか?」

「もう少しではじまりの街セレンよ。水出してあげるから顔洗っときなさい」


 若干まだ寝ぼけ気味のクゥにエリーが魔法で水を出してあげている。

 馬車の後方で濡れた顔の水を振るい落としている。


「クゥちゃんこっちにいらっしゃい! わたしが拭いてあげるわ」


 フィーナ様に濡れた顔と髪を拭いてもらっている。羨ましい。

 警戒心の強いクゥにその視線に気づかれてしまう。


「ロ、ロックさんの目が獲物を狙う野獣みたいでこわいッス」


 指を刺して指摘されてしまったので、明後日の方向を向いて吹けない口笛を

吹いて誤魔化した。

 こんな時のために口笛も練習しておこうと心に決める。


「フスーッフスーッ」



 そうこうするうちにはじまりの街セレンへ到着した。

 数年を過ごした見慣れた街並みに懐かしさがこみ上げてくる。

 少し離れていただけなのになぁ。

 今回のセレンの滞在は短いものだけれど久しぶりに会う人達に思いを馳せた。

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