第59話 特殊固有スキル獣王


 まずは教会でお祈りを済ませた。

 デスッてた時は散々お世話になったが死に戻りをしなくなってから足を運ぶ

事もあまりなくなった場所だ。


「俺はちょっと顔見知りのとこに顔出してくるから後で合流するぞ」


 ジャックも久しぶりのセレンで用事があるみたいだ。


「わかったよ。俺はサドニアさんのとこへ顔を出そうと思ってるよ。エリー達

 もそれでいい?」

「わたしはいいわよ!」

「エリーちゃんについていくわ!」


 クゥは無言のまま首が取れるんじゃないかという勢いで首を縦に振っていた。


「そ、それじゃ行こうか。ジャック、また後でね」


 ジャックと別行動でギルドへ向かう。

 俺達がセレンを出た時は上級ダンジョン格上げ騒動があってもっとガヤガヤ

と騒がしい感じだったが、今は少し落ち着いてきている感があった。

 それでも上級パーティーらしき人達とすれ違うので今でも攻略は続いている

のだろう。


「はじまりの街という感じではなくなったわね!」

「思ったよりもセレンに上級冒険者が流れてたんッスねー」


 エリーとクゥも同じ感想を抱いたようだ。

 

「その辺の詳しい状況はカレンさんかサドニアさんにでも聞いてみよう」


 今の攻略状況がどうなっているかは2人が知っているはず。

 ギルドへ続く大通りを懐かしみながら歩いていった。



「おい! 待てよ!」


 ギルドに入った途端、投げ掛けられる声。

 酒場の方を見るとその声の主。正確には主達。


「エリー様帰ってらしたんですね! ロックも!」


 そう、俺と同郷の3人が今日の探索も終え酒場で一杯やっていたのだろう。

 エリーのついでにされてる気がしないでもないけどきっと気のせいだ。こう

いう事は気にしたら負けなんだ。

 3人が近づいてきてある事に気がつく。


「まてよ……。エリー様がお2人になってらっしゃる!?」


 今はエリーとフィーナ様が一緒にいるからね。そう思っても仕方ない。


「あんた達、誰だか知らないけど失礼ね! こっちにいるのはわたしのママよ」

「……。」


 失礼なのはどっちなのだろう。この空気どうしてくれるのさ。


「この3人はエリーを崇拝していた俺の同郷の3人だよ」


 俺もどの説明が合っていて間違っているのかわからない。たぶんこんな感じ

なのだろう。


「エリーちゃんダメじゃない! 下僕は大切にしないと。初めましてエリーち

 ゃんの母でフィーナよ。 フィーナ様と呼びなさい」


 忘れられていた事にショックを受け唖然としてた3人だが、フィーナ様が話

し掛けると息を吹き返した。


「エリー様フィーナ様バンザーイ!」

「「「バンザーイ!」」」

「あー! 思い出したわあんた達ね! 毎日しっかりわたしのいる方向に拝ん

 で修行積んでたんでしょうね?」


 この母娘ツッコミどころが満載過ぎる。いつもはツッコミ役のクゥまでなぜ

か黙りこんでいるし。


「クゥもなんとか言ってあげてよ」


 クゥを見て言うがそれは無駄であった。クゥはまた獣人王に会える喜びか、

恍惚とした笑みを浮かべてボーッとしている。


「ダメだ。全員なんとかしないと……。」


 そう考えた俺は全員を一旦放置してギルド職員の下へ向かった。


「すみません。ロックという者ですが、カレンさんいらっしゃいますか?」

「いますよ。今、カレンはギルドマスター室にいるのでお呼びします」

「あー、すみません。ついでにギルドマスターとも面会したいので確認しても

 らっていいですか? ロックが来たと言えばわかると思うので」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 ギルド職員はそう言って階段を登り確認に行った。

 戻ってくるまであのカオスな空間は放置しよう。そうしよう。

 そんな思いが通じたのか否か、ギルド職員の人はカレンさんを連れすぐに戻

ってきた。


「ロックさん、お帰りなさい。こちらまで戻ってらしたんですね」

「えぇ。1度里帰りしようかと思ってセレンに寄ったんですよ。あと、依頼の

 件で報告もあるのでサドニアさんに面会できます?」

「ギルドマスターも会いたがっていたので大丈夫ですよ。皆さん方は……?」


 後ろでカオスな空間を作り出しているエリーフィーナ様母娘に目をやりなが

ら聞いてくる。


「全員回収してギルドマスター室へ行きます」


 カオスな空間を断ち切り、エリーとフィーナ様とクゥを抱え階段を駆け上っ

た。

 後からゆっくりと上ってきたカレンさんは少し驚いていた。


「ロックさん、随分力強くなりましたね。どうぞこちらへ」


 部屋のドアを開け招き入れてくれる。


「下では賑やかにしていたようだな。歓声が聞こえてきたぞ」


 いつも通り低いダンディーな声が聞こえてくる。


「すみません。うるさくしてしまって。ノースヘッドから戻ってきたのと報告

 も兼ねてうかがいました」


 俺は抱えていた3人をサドニア産特製ソファーに座らせて、自分もそのフカ

フカのソファーに座った。


「依頼達成という報告は受けたが、経過観察が必要だとも聞いてな。本人達か

 ら話を聞きたかったのだ。カレン、茶を頼む」

「はい、今すぐに」


 カレンさんがお茶を用意してくれている間に依頼についていくつかの質問を

され答えていく。

 どんなダンジョンだったか、新種について、学生への影響、経過観察の理由。

 恐らくサドニアさんが受けた報告は簡易的なものだったのだろう。

 お茶が用意される頃には重要な部分以外の報告はほぼ全て終わった。


「本題に入るが、お前のパーティーメンバーに瓜二つのお方が神様の仰ってい

 た助っ人でいいんだな?」

「そうです! わたしのママが助っ人に来てくれたんです」


 エリーにとっても憧れのサドニアさんだ。目を輝かせながら話している。


「母親と娘がこんなそっくりなのか」

「わたしとエリーちゃんだから当然ね!」


 フィーナ様それはよくわからないです。こんな時、頼りのクゥは。


「サドニア様に……包まれて……グー……」


 ソファーに横になって寝ていた。自由獣人過ぎる。

 まだ疲れが残っていたのかもしれないし仕方ないと言えば仕方ない。

 エリーとフィーナ様に任せておけないのでこの辺でフィーナ様の紹介をして

依頼達成に至った経緯を詳しく説明した。


「光の女神様だったとは。俺も昔、何度もその力で救われた。ありがとう」


 獣人王サドニア様が頭を下げる。


「いいのよ~! それがわたしの役目だからね!」


 それに手をひらひらさせながら答える光の女神フィーナ様。


「サドニア様を助けるなんてさすがママね!」


 腕を組んで自分の事の様に自慢げな光の女神の娘エリー。


「ZZZ……。」


 グッスリ眠る名工ガリアの一番弟子クゥ。

 この部屋の大御所率がインフレしている。俺は一筋の光カレンさんを見たが

カレンさんはお茶を持ってきた後すぐに退室していた。

 この部屋の一般人、俺だけだ。



「ロックよ、お前の体つきで3人を抱えて階段を上がってきて平然としてるの

 はなんでだ?」


 サドニアさんは俺の体を上から下まで見ながら話を振ってきた。


「なんででしょうね。無我夢中だったので自分でもよくわからないですが」

「ちょっとロック! 今からわたしとママをもう1度両手で抱えてみなさい」

「わかったよ。やってみる」


 右腕でエリーを抱え左腕でフィーナ様を抱える。不思議な事に重さをあまり

感じない。


「それじゃちょっと暴れてみるわよ?」


 エリーがジタバタするのを見てフィーナ様もジタバタしはじめた。重さを感

じないし落とすこともない。


「見てる分には人攫いみたいだぞ。それにしてもさすがにおかしい。俺の事は

 持ち上げられるか?」


 サドニアさんを持ち上げるなんて両手でも無理だろうと思いながら試してみ

ると、サドニアさんも片手で持ち上げる事ができてしまった。


「うーん。これはちょっとわたしにもわからないわね~」


 片腕で持ち上げられる経験なんてなかったであろうサドニアさんも持ち上げ

られた体勢のまま腕を組んで考えている。

 ソファーだけじゃなく本体のサドニアさんもフカフカだった。


「1つだけわかった事があるわ! ロック、あなた絶対おかしいわ!」

「エリーちゃんの言う通りね! ロックちゃんどうなってるの?」

「光の女神様すらわからないか。俺もこんな経験は初めてだ」


 片手で持ち上げられたまま器用に足を組んだサドニアさんも困惑している。

 その体勢で自由に動けているサドニアさんにも俺は困惑するよ。


「力自体は多少強くなったと思うんだけれどこれはないよね」



「答えはスキルよ!」


 いつのまにかサドニアさんの執務用の机に頬杖をつきながら座っているクロ

エ様が答えた。


「「神様!?」」


 サドニアさんとエリーは少し驚いている。フィーナ様は降臨の片鱗を感じて

いたのか突然現れたクロエ様にも驚く事もなく質問してきた。


「ロックちゃんに力関係のスキルあったかしら?」


 自分のスキルを思い出してみても力に関するスキルは一切なかったと思う。


「そんなスキルなかったはずですよ」

「チッチッチ。甘いわね」


 立てた人差し指を横に振りながらクロエ様は続ける。


「力で持ち上げているなら重さを感じるはずなのよ。ロック君はそれをほとん

 ど感じてないんじゃない?」

「確かにほとんど重さを感じないですね。振り回せると思いますよ」


 俺とサドニアさんは頭にハテナマークが浮かんだままだ。

 しかし、エリーとフィーナ様はそれだけで気がついているように見える。さ

すがというかなんというか。


「武器の概念の話を前にしたわよね? わたしの認識が甘かったわ!」

「ロックちゃんはどうやら人や神すらも装備できるみたいよ! すごいわね!」

「どうやらわかったみたいね。それじゃわたしはもう帰るわ。ロック君またね」


 俺の頬にキスをして手を振ると白い煙の中へ消えていった。


「話をまとめると俺はなんらかのスキルの効果でロックの武器になっているの

 か」

「どうやらそうみたいですね。確認する方法がないのでなんとも言えないです

 が……。」

「確認する方法ならあるぞ。俺に力を籠めて獣王と唱えてみろ」


 なんだかわからないまま言われた通りサドニアさんを抱えた腕に力を籠めて

呟く。


「獣王」


 ドンッという音と共にサドニアさんが光り輝く。衝撃で周囲の書類が宙を舞

っている。


「な、なんですかこれ!?」

「これでわかったな。解除と唱えてみろ」

「解除!」


 書類が散らばり、まるで嵐の後の様になった部屋で呆然としていた。


「俺の持っている特殊なスキルをロック、お前が発動させたんだ。これは俺が

 ロックの武器になっているという事になるだろう」


 サドニアさんが実演に協力してくれたってわけだね。

 部屋をノックする音が聞こえる。


「失礼します。すごい音がしたので来てみたのですが……。サドニア様一体こ

 れはどういう事でしょうか?」

「あっ」


 カレンさんに一通り言い訳をした後、部屋の掃除と書類をまとめさせられた。

 エリーとフィーナ様も。

 散らばった書類の底からは気持ち良さそうに眠るイビキが聞こえてくる。

 クゥの選択肢が正解だった。

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