第41話 季節感あるな
「迷宮魔窟のボスは黄昏の魔術師エンシェントキングよ~。遥か昔に滅びた
都市の王様という設定なの。討伐した事がある冒険者の人はわかると思う
けど、取り巻きが多くてボス本体までたどり着くのが大変なのよね~」
「無限に湧いてくる死霊と悪霊相手にしながらボスを倒さないといけないか
らな。すげぇ苦労したわ」
「俺らのパーティーは何度もあの取り巻きに押し潰されちまった」
モンスターが物量でかかってくるという珍しいタイプのボスだけあって、最
大4人のパーティーで処理しなければならないというのが難しい。
「それにしても、あいつらここまでの到達時間も早過ぎじゃねぇか?」
「だよな。聞いた話によると迷宮魔窟行くようになって一月も経ってないら
しい」
「しかも、もう1人いる子ってガリアさんの店のクゥちゃんだろ? 採掘以
外でダンジョンに潜った事ほとんどないって前に言ってたぞ」
「やっぱ3人じゃキングはきついんじゃないか?」
「だから俺は失敗に賭けたぜ」
街中がこのイベントを楽しんでいた。目の前に浮かぶ映像で初めてダンジョ
ン内部を見る事ができた子供が、興奮しながらがんばれーと声援を送っている。
出店の
「地獄の如何なる炎よりも熱く冷たい炎、それは時も現象も全てを焼き尽く
す初めの炎! 炎の神よ! 召喚を赦し給え! 原初の火!」
指先を噛み千切り魔方陣を作り出したエリーの魔法はまだ発動していない。
空中にもう一つの魔方陣が描かれる。
「輪廻の輪から外れ仮初の生に囚われた悲しき者達に慈悲を与えん。我が名
はエリザベス。光の女神よ! 聞き届け給え! エンジェルティアー!」
王の間にはエンシェントキングを守る様に、
さかと100体以上はいるだろう。
その上空に小さな火が灯された。そこから透明の何かが
それに触れた霊は光に覆われ消えていった。
いつしか
は浄化され光の中へ消えていく。
そして最後に小さな火が落ちてくる。ゆっくりゆっくりと。
火が着地すると大爆発を起こした。爆風で吹き飛ばされそうになるが耐える。
「ロックさん! キングがまだ動いてるッス!」
「さっさととどめを刺して外に出るわよ! じきにここも炎に包まれるわ!」
「クゥ! ヤツにとどめをさせる武器を!」
クゥは魔晶石のナイフを一本取り出すとこちらに放り投げた。それをキャッ
チしてそのままの勢いでエンシェントキングへと投擲する。
「これで終わりだっ! いけぇっ!」
聖なる光と炎で焼かれていたエンシェントキングに、破邪の力を加えた魔晶
石のナイフが命中し大部分が吹き飛び崩れ去っていく。ボロボロと体を崩しな
がら光の中に消え去る。
戦闘開始から全開の攻撃に何もできないまま。
「やったわ! 転移門まで急ぐわよ!」
「了解ッス! 燃えそうッスよ!」
俺達は出現した転移門まで全力で走った。迫り来るエリーの炎に焼かれない
ように。
転移門に飛び込み入り口まで戻り2人に声をかける。
「2人とも大丈夫?」
「えぇ、なんとかね」
「最後は危なかったッスね。エリーさんにデスらされるところだったッス」
「お、お帰り。お前らすげぇな。途中から開いた口が塞がらなかったぜ」
「セクハラは許さないわ!」
「ゴールよ~! タイムは28分53秒! ボスの討伐時間は18秒だった
わ~。冒険者のみんなはお祭りが終わったらこのタイム目指して頑張って
みてね。それでは3人に盛大な拍手を~」
最後のボス戦でのインパクトが強過ぎて誰もが考える事を放棄し、シーンと
静まり返っていた街がクロエ様の実況で息を吹き返す。
賭けに負けた人々のチケットが大量に宙を舞い、まるで3人を祝福する花び
らのようになっている。
いたるところから拍手や祝いの言葉、そしてチクショーという嘆きが聞こえ
てきた。
「サドニア、あいつらはあんたんとこの隠し玉なのかい? あんな記録破れ
るわきゃないよ。上級パーティーですら30分切ったパーティーなんてい
ないのに。それになんだい、あの滅茶苦茶なボス戦は」
アドバンのギルドマスターヨバにそう言われ苦笑する。
「実はな、あいつらの戦闘を直接見るのは初めてなのだ。まさかあそこまで
とは思わんかった。神様の隠し玉なんだよ、やつらは。これで少しは認め
る気になっただろ?」
考えをまとめる様に少しの間が空く。やがて苦々しげに口を開く。
「あんなもん見せられたら認めざるを得ないね。だが、やつらに足りないも
のがあるのもわかっておるだろう?」
「そのための、今回の依頼でもある」
「それがわかってるなら言う事はないさね。約束通り解錠は優先的に取れる
ようにしとくよ!」
早速ギルドへと向かうようだ。仕事が早い。サドニアはその後ろ姿を見なが
ら豪快に笑う。
「相も変わらず素直じゃない婆さんだ」
黙って2人のやり取りを聞いていた都市長が聞く。
「わたしは冒険者についてそこまで詳しくないから聞きたい。彼らは無事に
依頼を達成できると思うかい?」
「あやつらはまだ若く経験も足りていない。今回はサポート役としてベテラ
ンを1人つけるつもりだ。これで確実だろう」
「サポート役をつける事を彼らが認めるかな」
「その事なら心配するな。入ってこい」
音もなくその場に現れる人影。驚いて身構える都市長に気軽に話し掛ける。
「都市長さんどもー。俺ですよ」
その姿を見て取ると安心して身構えていた体から力を抜いた。
「あまりにいきなりだったもので驚いてしまったよ。君は確か」
「しっかりと自己紹介した事はなかったですね。ロックの同郷出身で上級冒
険者のジャックです。俺は自然と合流しますがサポートにつく事は黙って
いようと思います」
「それはなんでだ?」
「エリー様に吹き飛ばされたくないからです……。」
3人は顔を見合わせた。
今も神様の力によりボス部屋が片隅に映されている。そこでは消える気配の
ない激しい炎が燃え盛っていた。
こうはなりたくないそう心の底から思う。
「ついに俺、賭け事に手を出しちゃったんだ……」
「あんた賭け事だけは止めておきなさいってあれだけ言ったでしょ」
「ロックさん、いくら負けたッスか?」
「始まる前にジャックに頼んで賭けておいてもらったんだ。金貨1000枚」
金貨1000枚と聞きエリーは崩れ落ちる。
「う、嘘ッスよね? さすがに金貨1000枚は洒落にならないッス。」
「ロック! あんたそれ高額レアドロップ並みの金額じゃない!」
「これがそのチケットなんだけど……」
2人に賭けチケットを見せる。
「あぁ……。こんな物に金貨1000枚が消えていく、ん? これ」
「30分以内の成功に賭けてるって事はッス……」
「当たってるんだよねこれ。当てるつもりで急いだけど」
失敗ばかりに賭ける人が集中しまくって賭けが成立しなくなりそうだと聞い
て金貨1000枚突っ込んだんだ。
「それだけ失敗すると思われてたのね! 心外だわ!」
「仕方ないと思うッスよ。ちなみにいくらぐらい配当貰えるッスか?」
「金貨20万枚以上になるらしいよ」
「ロックの所持金だけがインフレするわね! 少しは使いなさい!」
「もっと自分に
「はいはい、わかったよ。これジャックに頼んで換金してもらうよ。なんか
自分で自分に賭けてるって……ね?」
1度家に戻るとギルドからの使いでカレンさんが来ていた。
「おめでとうございます。これで名実共に中級冒険者ですね。ピラミッドの
挑戦権の獲得とクゥさんの解錠講習の登録があるのでギルドまで一緒に来
てもらえますか?」
「はい、わかりました。それじゃ先にギルド行こうか」
ギルドに着くと歓声と
俺達の失敗に全賭けした人もいるのだろう。
カウンターで手続きを済ませるとギルドマスターがやってくる。
「少しはやるようじゃないか。でもそれぐらいで調子に乗るんじゃないよ!
しっかり依頼をやってきな!」
それだけを言い残し去って行った。
「あのお婆ちゃんきっとツンデレね!」
「ツンデレッスね」
クゥはすぐに解錠を覚える事ができ、俺達は聖クロエフェスティバルを最後
まで楽しむ事もできずに依頼の地ノースヘッド学園へ旅立つ事となった。
砂漠を越え馬車に乗り継ぎ北へ北へと。
「ヘックショッ!」
「ちょっとロック! こっちにかかったわよ!」
「ウチもぶっかけ初体験 (わたくし、殿方にこんな事されるの初めてですわ)」
「自分にはかけないでくださいッスよー」
いつの間にやら、雪で覆われた銀世界。目印のある決まった道を進まないと
簡単に遭難したり、道だと思った場所が雪で崩れたり、デスの側にある場所。
着いたら教会に直行しよう。
温度差でデスりそう……。ガクッ。
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