第40話 迷宮魔窟TA


 聖クロエフェスティバル実行委員会兼ギルドから神様発案の迷宮魔窟タイム

アタックが行われるとの発表があった。

 降って湧いたかのようなイベントの開催の話はあっという間にアドバン中に

広まる。


 「おい、聞いたか? まだ未踏破のパーティーが挑戦するんだってよ」

 「それって失敗で終わっちまうんじゃねぇか」


 未踏破のパーティーが簡単に制覇できる程、中級ダンジョンは甘くない。本

来は。


 「でもよ、そのパーティーってのがつい先日、出店売上最高記録を叩き出し

  た神様推薦パーティーらしいぞ」

 「カーッ! まじかよ! そりゃあもしかするともしかするかもな」

 「酒場じゃもう賭けが始まってたぜ」

 「それを先に言えよ! 行くぞ!」




 「思った以上に大事になってる気がするんだけどどう思う?」


 タイムアタックを明日に控え、周囲の話を拾いながらエリーに尋ねる。

 今は武器の最終調整をしてくれているガリアさんの店へと行くところだ。


 「神様が言い出した事となればこれぐらいは当然かもね! お金稼ぎの為に

  制覇しなかっただけだとわからせてあげましょ」


 グレイゴーストもエビルガイストも出現数が多い分稼ぎも多かった。3人に

なってからは更に大量に狩れるようになってしまったから余計に。


 「今回、クロエ様もいる事だし本気で最速狙ってみようよ」

 「当たり前じゃない! わたしトップが好きなの。高い所って最高でしょ?」


 エリーは言うまでもなく最速タイムを出すつもりでいた。毎度の事ながら本

当に頼もしい。


 「後でクゥも交えて作戦会議をしよう」

 「そうね! このアドバンにわたし達の名前を刻み込んであげるわ!」


 気合充分なエリーを連れ、お祭りで大賑わいなアドバンのメインストリート

を歩いていった。



 「言われた物は用意しといたぞ。あんなゴミ屑で良かったのか」


 ガリアさんにそう聞かれる。ガリアさんに用意してもらった物はいらない屑

鉄を尖らせただけの物。


 「タイムアタックだからね。使い捨てになっちゃうし投げナイフは使えない

  んだ」

 「そういう事か。嬢ちゃんのミスリル銀の剣もしっかり調整しといたぞ」


 エリーは受け取ると剣を鞘から引き抜き構える。


 「新品の頃と同じ状態にまで戻ってるわね! さすがガリアさん」

 「クゥもこの域まで達せるはずだ。あいつをよろしく頼む」

 「わたしとロックにまっかせなさーい!」


 ガリアさんなりに一番弟子のクゥの事が心配なのだろう。依頼の件もガリア

さんはむしろ後押ししてくれたらしい。


 「クゥの事はしっかり守るよ。そして成長した姿で帰らせるつもり」

 「初心者ダンジョンでヒーヒー言ってた頃が遠い昔のように感じるな。ロッ

  ク、お前の成長はインフレしすぎだ」

 「これがデスの向こう側ってやつみたいだよ」


 普通の冒険者とは違う道を歩み出しているんだ。

 明日、その成果を証明してみせる。


 「2人とも来てたッスか」

 「明日使う武器の最終調整をしてもらってたとこだよ」

 「クゥも来た事だし明日の作戦会議といきましょ!」


 わいわいとしながら、まるでピクニックに行くかの如く作戦会議をした。

 明日は全力全開でいく。3層、4層は初だが恐れる事はない。やるべき事は

いつもと同じだ。


 この時もう少し作戦をしっかり練っていればあんな事にはならなかったかも

しれない。

 未来とは常に移ろいゆくものなのだ。



 迷宮魔窟タイムアタック当日。

 ダンジョン内の様子はクロエ様の神の力により街の人々に映像と音声で届け

られるらしい。

 実況解説カメラ、クロエ様という豪華なイベントになってしまった。


 「準備はいいかい?」

 「いつでもいけるわ!」

 「同じくオッケーッス」


 閉鎖された迷宮魔窟の前でその時を待つ。管理人さんに声を掛けられる。


 「まさか、兄ちゃん達がチャレンジするとはなぁ。頑張ってこいよ」

 「ありがとうございます。最速で帰ってきますよ」

 「あぁ、楽しみにしてるぜ」



 (3人とも聞こえるかしら~?)

 「「「!?」」」


 突然、頭に響くクロエ様の声に驚く。周囲を見渡すがクロエ様の姿はない。


 (今、直接頭の中に語り掛けてるの。頭の中に思い浮かべればわたしに伝わ

  るわ) 

 (これで聞こえてるんでしょうか?)

 (大丈夫よ、聞こえてるわ。準備の方はそろそろいいかしら?)


 3人で顔を見合わせ頷き合う。クロエ様に準備万端な事を伝える。


 (あなた達ならやれるわよ。いつも通り頑張ってね。良いタイムが出せたら

  ご褒美をあげるわよ~)

 ((がんばります!))

 (そこは即答なんッスね)

 

 街の中も緊張と興奮に包まれていた。

 いまだかつてないイベントの幕開けを今か今かと固唾かたずんで見守っている。



 「みなさ~ん、こんにちは~! 今日の実況解説カメラ役の神様で~す。今

  回は初の試みという事で今後の公平を期すためにボス討伐後に出現する転

  移門で入り口に戻った時間までを計測しま~す。これから神様の特別な力

  でアドバン中の人にパーティーの中継を流します。仕事中の人は切る事も

  できるし大きさの調整も自由にできるので始まるまでいろいろ試してみて

  ね~」


 アドバンに光が降り注ぐと俺たちの目の前に、俺たちの姿が斜め上から映さ

れてるという不思議な状態になった。

 斜め上の方を見上げても空が遠くに見えるだけで何もない。


 (音声も拾うから気をつけてね~。3人とも映像はオフにしておいた方がい

  いわよ)

(これってすごいわね! とりあえずオフにしましょ)

 (街のみんなに見られてると思うと緊張するッス)

 (みんな作戦通りいくよ。落ち着いていこう)

 (それじゃ健闘を祈るわ~。神の祝福を)


 いよいよスタートの合図を待つだけだ。既に封鎖されていたダンジョンの入

り口は封鎖を解かれ口を開けている。


 「それじゃスタートのカウントダウンいっくわよ~。」

 「さーん」

 「にー」

 「いーち」

 「ゼーロッ! スタート!」


 俺たちはその合図でダンジョンの中へ駆け込んだ。


 「警戒、罠感知常時発動ッス!」

 「光の女神よ! この者達に光の加護を! エンチャントホーリーライト!」

 「「「隠密」」」



 「今、スタートしました~。猫獣人のクゥちゃんが警戒と罠感知を使ってモ

  ンスターの場所や罠の場所を把握してるんですよ~。そして魔法使いのエ

  リーちゃんが対死霊、悪霊用に破邪付与魔法を使いました。これで聖水い

  らずってわけですね。最後に全員が隠密を使う事で低階層を走り抜けるつ

  もりのようです」



 クロエ様の言う通り作戦は単純明快。1、2層は隠密を使いできるだけモン

スターをスルーする。

 気づかれた場合だけ瞬デスさせられるように、俺が投擲武器を準備しエリー

が魔導書で魔法を溜めている。


 「今のところ気づかれる様子はないッス。走り抜けましょうッス」


 クゥの言葉を聞き、駆け抜け続けた。

 問題なく走り抜け初めて来た3層。崩れかけた都市や墓を抜けるとそこには

これまた朽ちかけた城が立っている。


 「ここからが本番だよ。クゥ頼んだ!」

 「了解ッス! 見える範囲だとあの城の大きな扉前に罠があるので作動させ

  ちゃってくださいッス」


 俺は投擲武器をその扉前の地面に強めに投げた。

 ドゴーンという音の後にプシューという何かが放出される音が聞こえ、その

後地面から棘のようなものが飛び出てきた。


 「なによあれ! ひっどい罠ね」


 1度発動させた罠は消える。発動さえさせてしまえば素通りできるってわけ

さ。


 「ここからは戦闘もあるよ。たぶん隠密を見破られてる」

 「左右からグレイゴーストとエビルガイストがくるッス!」

 「そんな雑魚構ってる暇ないわ! 走って!」


 俺達は罠を発動させた扉に向かい走り出す。クゥの言った通りまだ遠いがこ

ちらに気づいている死霊悪霊が浮遊してきていた。


 「ロック! 扉は開く?」

 「やってみる! クゥも手伝って!」

 「了解ッス」


 時間短縮のために力のあるクゥの手も借りるが、なかなか扉が開かない。少

しずつ近づいてくるモンスターを無視して、全力で力を込めると扉が少しだけ

開く。

 エリーを先に行かせ、俺とクゥもその中へ駆け込んだ。


 「あいつらってすり抜けてくるんじゃないかしら?」

 「大丈夫。この城の中にはすり抜けてこれないんだってさ」

 「でも、この中も死霊と悪霊と罠だらけッスよ!」


 俺とエリーには感知できてないものをクゥは感知できてるらしい。


 「4層までの最短を進むからモンスターと罠の場所を言って」

 「えっとー、こことここ。あとこっちもッス」



 「というわけで3層の城の中までたどり着いてます。拍手~! 神様も手汗

  握る展開にドキドキで実況を忘れてました~。扉早くっ早くっ開いて~っ

  て。3層から進めない冒険者の人達も参考にしてくださいね~。ただ冒険

  者の人達にはショッキングな映像が続くかもしれないのであまり参考にな

  らないかも~」



 クゥに教えてもらった場所を遠距離から急襲する。


 「光の女神よ! 慈悲を与えたまえ、ホーリーシャワー!」


 ホーリーアローの連発であるホーリーシャワーで打ち漏らした霊達を投擲で

光の中に消しながら罠を作動させる簡単なお仕事です。


 「この先ちょっとモンスターがバラけてるから先行して集めるよ」


 軽盾をバンバンと叩いて大きな音を出しながら走る。それに気づいた死霊や

悪霊が集まってきた。


 「それじゃ後はよろしく」

 「いっくわよー! 光の女神よ! 不浄なる者に天の裁きを! シャイニン

  グ!」


 集められたモンスター達の上空から光の柱が下りてくる。音もない、ただ光

が満ちあふれた空間でモンスター達は静かに光の中へ消えていった。


 「全部デスらせてやったわ! あーっはっは!」

 「神聖な雰囲気ぶち壊しッスね」


 本当にその通りだよ。

 それにしても、この城は罠が多過ぎる。クゥに教えてもらった場所を地図と

照らし合わせて作動させてるが、罠の効果時間も長くなかなか進めない。

 クゥが言うにはさっきので最短経路上のモンスターは消せたみたいだ。


 「あれだね。4層、王の間。エリー全開で準備頼むよ!」


 進路上の罠をやっと全て発動させ終わり走り出す。




 「は~い、これで3層もクリアですね~。3層攻略中の冒険者のみんな参考

  になったかな~? あんな事できるわけないと思ってるそこの君。確かに

  規格外なところもあったけれど基本のスキルを伸ばす事が3層攻略には重

  要なのよ~。警戒と罠感知、しっかり伸ばしましょうね~。良い子のみん

  なはわかったかな~?」

 「「「は~い」」」


 アドバン中から良い子の声があがった。わけがわからないままに手を挙げて

返事をするかわいらしい子供もいた。

 しかし、大部分は大きな良い子の姿であった。

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