第39話 Eロック
「ゴホンッ。それじゃわたしから説明させてもらっていいかな?」
微妙におかしな空気を察して都市長が話を切り出す。
「アーヤの通ってる学園の学園長からの依頼でね。学園所有の学生用ダンジ
ョンの調査をしてもらいたい。難易度的に上級を派遣する程ではないと判
断し、中級で信頼できる冒険者パーティーを探していたんだ」
アドバンのギルドマスターのヨバさんは吐き捨てるように言う。
「わたしゃ反対したんだよ。迷宮魔窟すら制覇できないパーティーなんかに
任せるなんてどうかしてるよまったく近頃の若いもんは……。」
ぶつぶつと小言を続けている。
「うんうん! ほんとそうだよね、お婆さん」
なぜかエリーが相槌を打っている。婆さん呼びはするなと言われたにも関わ
らず。
「そういうわけでな、実績を示すためお前らに迷宮魔窟を制覇してきて欲し
い。できるだろ?」
サドニアさんは片眉を上げてこちらを見て、ほとんど断定しながら質問をし
てくる。
「優先的にボスの討伐をさせて貰えるならすぐにでも制覇します。いくつか
問題と条件がありますが」
今の3人構成なら簡単に攻略できると思っている。エリー様とクゥ様のお陰
で。あくまでも俺はサポートに回る。
「その問題と条件っていうのを聞かせてもらえるかな?」
「依頼を受けるとなるとアドバンを離れる事になります。うちのパーティー
の要でもあるクゥはガリアさんの弟子でもあるので、それを師匠のガリア
さんに相談させてあげて欲しいです。それともしそれで了承を得られたな
ら、出発前までの間にクゥに解錠スキルを優先取得させてほしいという事。
これが問題と条件です」
それぐらいならいいんじゃないかとか聞こえてくるから飲んでくれそうかな。
クゥなしとなるとうちのパーティーは大分戦闘力が下がる。
「ガリアんとこの弟子ってのはあんたの事だったのかい」
「はいッス。自分がガリアさんの一番弟子のクゥッス」
「ガリアときたらアドバンに戻ってきおったのに挨拶もなしとは、とんだ薄
情もんさね。こっちから出向いてやるから茶でも用意して待っておけと言
っときな!」
「はいッス! しっかり伝えておきますッス!」
ヨバさんはギルドマスターだけあって、ガリアさんとも知り合いのようだ。
「その問題と条件がクリアできるなら俺はこいつらを推薦する」
「サドニアがそこまで入れ込むなんて珍しいじゃないかい。迷宮魔窟を制覇
できるなら認めてあげるよ! できるもんならね」
都市長が簡単にまとめてくれる。
「それではクゥさんの問題が解決したら迷宮魔窟に挑み、制覇次第依頼の受
諾という事でいいかい?」
「たぶん師匠は行って来いって言う気がするッスけど一応聞いてみるッス」
ぼわわ~ん。周囲に煙が立ち上る。これは……。
「ロックくんせいか~い。神様よ~。良い事を思いついたので出てきちゃい
ました。クゥちゃんが了承を得られたらロックくんのパーティーに迷宮魔
窟のタイムアタックをしてもらいましょう! 聖クロエフェスティバル中
に!」
突然現れたクロエ様とその提案に度肝を抜かれる面々。
「こんな若い3人のパーティーがどのぐらいの速さで制覇できるか楽しみじゃ
な~い? きっとお祭りの良い余興になると思うわよ」
「ふむ、いいんじゃないか? アドバンの都市長よ、どう思う?」
「聖クロエフェスティバルは神様を称え感謝するお祭りだからね。神様から
の提案なんていう珍事があるならそれは即採用だ」
「神様の仰ってたロックとか言うのはこやつの事じゃったか……。」
お婆さん、俺の名前すら知らなかったのね。
聖クロエフェスティバル中となるともう数日しかない!
ガリアさんへの許可を貰うだけじゃなく、武器のチェックもしてもらった方
がいいかもしれない。
特にエリーの使うガリアングレイゴーストキラーはクゥですら最低限の手入
れしかできないらしく、ガリアさんに直接見てもらわないと。
「今日中にガリアさんと話して準備をします」
「そうね! セクハラキングを吹っ飛ばしてやるわ!」
「「「セクハラキング?」」」
俺とエリー以外の全員が頭を
魔法使いにも素振りは必要なのだろう。頼もしい限りだ。
「3人とも頑張ってね。応援してるわよ~。それじゃわたしは街をさまよっ
てくるわね~ららる~」
クゥをモフり、エリーにハグをし、俺の頬にキスをしてクロエ様は出てきた
時と同じようにボワンという煙を残し消えていった。
クロエ様が突然現れるというハプニングはあったが話はまとまった。タイム
アタックなんてやるからには街の人が驚いて盛り上がるタイムを出してみせよ
う。
「それにしてもお前達、神様と仲良過ぎるだろ……。」
「これがわたし達の普通ですよ! いつもならロックにもっと凄い事してる
のに今日はわたし達にもしてくれたわ! ひゃっほー!」
「改めて君達なら任せたいと思ったよ」
エリーが奇声をあげているが天才には必要なのだろう。俺は凡才に過ぎない
のでクロエ様にキスされた頬を触っていた。
「ロックさんってかなりムッツリッスよね」
「な、ん、だ、っ、て……ッ!」
それを見ていたクゥから衝撃の一撃が。そっかー、俺ってムッツリだと思わ
れてたのかぁ。ショック過ぎる事実。
「ムッツリと思われるのは心外なので、これからはもっとエロさを全面に押
し出していくよ!」
「この面子を前にして
(この方達を前になんの躊躇もせずにそんな事を宣言できるなんて……。
さすがですわ!)」
「やっぱり頭デスッてるッス」
「お、男の子だし少しぐらいは仕方ないわね! 少しだけだからね! やり
過ぎたら上位で吹っ飛ばすから覚悟しなさい!」
この後すぐに上位で吹っ飛ばされそうになったので、エロさを全面に押し出
すのは難しい事なんだと知った。
今度、ジャックにでもエロ極意を聞いてみよう。
「いいぞ、行って来い」
ガリアさんは二つ返事でアドバンを離れる事を了承した。
「随分あっさりしてるッスね」
営業中の出店を弟子に任せ、他には誰もいない店の中で話している。
ガリアさんは頭に巻いたタオルを外し、顔や頭を流れる汗を拭いて水を飲み
ながら答えた。
「前にも言ったかもしれんが、お前に足りてないのは実際の戦闘がどのよう
に行われているかという経験だ。この街を出る前に例のスキルを教えるが
間違いなく失敗するだろう。実戦を間近で見て経験させてもらえ。坊主と
嬢ちゃんは必ずお前を守ってくれるだろうよ」
店先で待っていた俺とエリーにもガリアさんの声が聞こえてきた。
こちらを振り向くクゥに任せておけとばかりに俺とエリーは親指を立てて笑
顔で応えた。
「けどあの2人頭デスッてるッス」
「ガハハッ! 違いねぇ!」
「クゥ! 頭デスッてるって何よ! 頭魔法使いと言いなさい! モフるわ
よ!? モフモフ」
「モフりながら言わないでくださいッスー!」
エリーはクゥにジャンプしながら抱きついた。じゃれ合う2人をよそにガリ
アさんに言う。
「クゥをしばらく借りていくね。あとお願いがあるんだ」
迷宮魔窟タイムアタックについて話す。休み中で出店を出してる中、そのた
めの武器の整備を頼む。
「お願いできないかな?」
「そりゃまた急だが面白いな。持ち込む武器を持ってこい。大急ぎで最高の
状態にしてやろう」
「頼んでおいてなんだけど、出店は大丈夫?」
「ジャックにでも手伝わせりゃ何とかなる。あいつどうせ暇してんだろ」
酷い言われようだがジャックなら快く引き受けてくれると思う。こういう時
いつでも頼りになるのが彼だ。
「今から武器を取ってくるよ。エリー、行くよー」
「ふぅふぅ。クゥちゃんまた後でね」
「もう勘弁してくださいッス」
武器を取りに戻りガリアさんに渡した後、大混乱極めるギルドで迷宮魔窟の
ボスまでの地図を購入した。
既に話は通ってたらしくすぐに購入できた。こんなにも早く話が通ってると
は思わなかったので拍子抜けしてしまった。
ああは言っていたものの、それはヨバさんの優しさだったのかもしれない。
こういった依頼には責任が冒険者自身にもつきまとうものだからね。
もう一つやっておかなければならない事があり、その夜クゥを家に招いた。
うちに入り浸っているが普段クゥとは別々に住んでいる。何度かうちに住め
ば? とも勧めたけれども断られた。身の危険を感じるとかなんとか。
「今日、来てもらったのはクゥに大事な話があるからなんだ」
「たぶんわたしとロックしか知らない事よ! しっかり秘密にする事」
「わかったッス。なんか怖いッスけど」
「大丈夫よ! すぐに済むから! 目を
えていてもいいわよ。そのうち慣れるわ!」
「余計怖くなったッスよー。自分変な事されないッスよね!?」
思わせぶりに怖がらせるエリーを止めて、真実を話す。
「今から神様を呼ぶよ。その方の名前はアリス。成長を司る神」
「えっ……それって誰にも知られてない神様なんじゃ……」
「公式的にはね。たぶん大幅な成長を経験した事のある人はお会いした事が
あるんじゃないかなぁ」
「アリス様にクゥの成長の祝福をしてもらうのよ! たぶんもうかなり成長
してるはずよ!」
デスらずにあの狩り方でパーティーを組んでいるんだ。特に警戒と罠感知に
関しては俺とエリーよりも確実に適性があると思っている。
「それじゃ呼んでみよっか。アリスー今来れるかなー?」
すぐに部屋中に
「キャーッス! 目が開けられないけど膝の上に何かいるッス!」
「何かとはひどいなー。クゥちゃんもふもふ~」
「キャー! 目が開けられない状態で何かされてるッス!」
アリスはクゥの膝の上でクゥに抱きつきモフッていた。
「やぁ、アリス。なかなか呼べなくてごめんね」
「聖クロエフェスティバルだからしょうがないけど、もっと呼んでよー。3
人ともすっごい成長しちゃってるよ」
よいしょっと立ち上がり腰に手を当てビシッと指差してくる。かわいい。
ではなく、やはり成長してたらしい。デス封印してからもうだいぶ経つけれ
ども、自分の実力が加速度的に伸びていってる実感がある。
クゥはデスってこそこなかったが、ダンジョンへ潜る事でかなりの成長をす
る事ができてると思うんだ。
「そだねー。特にクゥちゃんは一気に成長しちゃったから祝福で実感が持て
ると思うよー」
「ずっと街で暮らしててデスッてこなかったのにあまり成長できてると思え
ないッス」
「それはダンジョンに通いダンジョンでデスらない事が大切だからだっよ」
ん? それは初耳だ。確かにデスらない事前提なら街で暮らす人が最強にな
ってしまう。
「ここから先はまだダーメ! もっと3人が成長したら教えてあげられる日
がくるかもね。それじゃ祝福の舞スタート!」
アリスの体から俺達の体に光が流れ込んでくる。
「何ッスか! 何ッスかこれ! 自分ついにデス!?」
「大丈夫だから! すぐ終わるから! ほらあの天井のシミ見なさい。よく
見てると……ただのシミね。今度、掃除で落としておくわ」
「クゥよ、この光に体を
俺に言われた通り、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。適当に言った事を信
じ込んでしまったがこれでいいかな。
「はい、おーしまい! どう? クゥちゃんは初めてだから体ふわふわして
るかもー!」
「軽いというかふわふわというか不思議な感じッス! でも嫌な感じではな
いッスよ」
「ろっくおにーちゃんとえりーおねーちゃんと冒険するなら何度も体験する
からきっとすぐに慣れるよー。それじゃ祝福も終わった事だし、ちゃんと
アリスの事はおねーちゃんと呼びましょうねー、ぐふふ」
「わかったよ、アリスおねーちゃん」
「アリスおねーちゃん良い香りする!」
「はいはい、2人とも良い子ですよーん」
高度なお姉ちゃんプレイを見せつけられクゥは固まっていた。
「一体何をやってるッスか……。」
「クゥちゃんもそんなとこに立ってないでこっちにくるのー」
固まったクゥを不思議な力で呼び寄せ抱っこしてモフるアリス。クゥはまる
で姉妹のペットのようにモフられていた。
お姉ちゃんプレイとクゥを堪能したアリスは嬉しそうに帰っていく。
「自分、今日大人への階段を一つ登った気がするッス」
「成長する度に大人への階段を登る事になるわね!」
「成長するって何かを失う事なんッスね……。あと先日2人が抱きついてた
幼女ってアリス様だったんッスね」
俺はアリスに膝枕をされながらアリスに甘えるエリーと、アリスとエリー2
人からモフられるクゥを見ているだけで最高の気分だった。
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