第38話 今年の夏を先取り!アーヤアドバンスタイル
昨日は途中からの記憶がうっすらとしかない。
クロエ様もいたので安心してしまい飲み過ぎてしまった。
ズキズキ痛む頭と起きる事を拒むように重い体を引きずって地下に保管して
ある水瓶まで行く。
いくらここがオアシスに作られた街とはいえ、砂漠に囲まれたアドバンで水
は貴重だ。
こんなにも水を使えているのはひとえにエリーのお陰である。
エリーに感謝しながら水を頭から被る。
「ありがとうございます!」
がしゃーん! という音が聞こえそちらを見るとエリーが何かを取り落とし
ていた。
「急に叫ばないでよ! 驚いたじゃない!」
「ごめん、全くきづかなかったよ。おはよう」
「おはよう。ところでロック、昨日の記憶ってある?」
冷たい水で少しずつエンジンのかかり出した頭で思い出してみる。
「ハッキリ思い出せるのは、クロエ様がわたしのおごりよって言ってた辺り
までなんだよね。それ以降の記憶が
エリーは溜め息をついて腰と頭に手を当てながら、ロックは本当にダメねと
か言い出しそうな仕草をしながら言った。
「ロックは本当にダメダメね」
惜しい! これはほぼエリーの心を読めたと言っても過言ではない。今まで
の傾向からこの仕草はダメ出しをする時の仕草だとわかっていたけれども。
「何がダメダメだったのか教えてよ」
「わたしは解毒魔法使ってから軽くしか飲んでなかったのよ。ロックはガリ
アさんの飲んでたお酒を飲んだらすぐに寝ちゃったわ! ……神様の膝枕
で」
「それっていつもと同じ様な?」
「周囲に人がいたのを除けばね」
あ~、確かに普段からの事を知らない人からすれば不敬だとか、全くけしか
らんとかとられてもおかしくない。
「神様がすっごい上機嫌で膝枕しててみんなドン引きしてたわ! 神様とイ
チャイチャするのは場所を選びなさい。あとロックだけズルイわ!」
「イチャイチャって……。でもエリーが言う通り気をつけるよ。エリーも昨
日みたいな酔い方には気をつけなよ?」
「昨日みたいなって? わたしは逆に解毒魔法前の記憶がほっとんどないの
よね!」
やっぱりそうだったんだ。これもしっかり共有しておいた方が良いかな。
「エリーはすごい悪酔いしてて何度も戻しそうになってたからトイレに連れ
て行ってあれこれしたんだよ。」
「あれこれって何よ! えっち!」
「オエオエッと戻してる状態で解毒魔法を自分に使わせて
ていうのがあれこれ」
「あ……。それは大変ありがとうございました!」
2人して昨日の記憶には厳重に封印をして何もなかったかのように出かける
準備をした。
聖クロエフェスティバルはまだ続いているが、今日はうちのパーティー3人
でアーヤさんの家にお呼ばれしている。
「2人とも遅いッスよ。もう少し待って来なかったら迎えに行くところだっ
たッス」
ガリアさんの店までクゥを迎えに行くと既に待ちくたびれていた。というよ
りも、外の出店の手伝いをさせられていたが正しいかな。
「坊主達も食って行くか?」
「俺達は急いでるからまた今度にするよ。ほら行くよ」
れて行く。
「エリーさんって辛い物平気でしたッスか?」
「少しなら大丈夫よ!」
「それなら止めといて正解だね」
ガリアさんの作るドワーフ料理はとにかく辛い!
まだセレンの街にいた頃、ガリアさんのホームパーティーに誘われたんだ。
そこでガリアさん自ら腕をふるった料理の数々をご馳走してくれた。
そのどれもが辛いのなんのって。
ジャックに辛くない食べ物を聞いて、渡されたのはドレッシングのかかって
ない普通のサラダ。それをモシャモシャしながらエールを飲んでいた思い出。
「あれはとんでもない辛さッスから自分はムリッス」
「そこまで言われるとすごい気になるわ! でもわたしもさすがに無理そう
ね!」
「口から始まりお腹も全身の毛穴もデスるよ」
少し口にしただけの俺が数日間苦しんだぐらいの辛さ。それでも辛い物マニ
アにはとんでもない人気があるんだって。
「アーヤさんの家って貴族の邸宅だよね? 俺達こんな格好だけど大丈夫か
な」
「大丈夫よ。あっちもそれはわかってるわ」
「自分なんてさっきまで働かされてたから汗だくッスよ」
聖クロエフェスティバル3日目。うだるような暑さと人出の中、人混みを掻
き分けながら高所に作られた住宅街へ向かう。
この都市で唯一、普段から砂埃に包まれない地区だ。
そのせいもあって昼も夜も働き詰めなのが迷宮都市の貴族。都市長なんて一
目見ただけですごい真面目なのが伝わってくる。
「遅いよー! もっとかまちょだよ (皆さん、こんにちは。思ったよりも
遅かったですわね。忘れられてるかと心配してしまいましたわ)」
迷宮都市の貴族は真面目な人が多いが例外もある。アーヤさんも口調と突飛
な行動以外、根はすごい真面目なんだけれどもね。
「待たせて悪いわね! 街の中すごい混んでたのよ!」
「あーね。みんなもう待ってるから、入って入ってー (お祭り中ですもの
ね。他の方々がお待ちですのでどうぞ中の方へ)」
都市長の邸宅だけあって入るのに少し抵抗があるぐらいの凄さだ。
待ってるみんなとは一体誰なのかなんて思いが吹き飛ぶぐらい萎縮してしま
う。
「止まってないで行くわよ! それとも貴族の家にビビッちゃったの?」
エリーがにやけながら見下ろしてくる。
「くっ! ビビッてなんかないよ。行こう」
「ロックさんが
褒められてるのか褒められてないんだかわからない事を言われながら入って
いく。ブーツに付いた砂とか落としても怒られないよね?
「あっ……。そのまま気にしないでおけまる! (うふふ、ロック様。お気
になさらずそのままお入りください)」
アーヤさんは目線や仕草で察してくれたらしい。こういうところを見ると優
しさや察しの良さを感じさせられる。
今日はいつもみたいなドレス姿ではなくクロエ様のアドバンスタイルみたい
な装いで少しセクシーで大人っぽいから余計そう感じるのかもしれない。
「こーらっ! ロック! アーヤのセクシーな姿で鼻の下伸ばさないの!」
「完全に発情したジャックさんみたいな顔してたッス! ケダモノッス!」
自分で鼻の下を触ってみるが、全くわからなかった。
「神様の衣装がどちゃくそよきだったから、真似て作って貰ったの。キュン
キュンきてどちゃシコだったでしょ? (神様の着てらした衣がこのアド
バンの雰囲気ととても合っていたので、うちの者に作ってもらいましたの。
どうですか? 似合ってますか?)」
「よくわかんないけれど、どちゃシコだったよ」
2人でハイタッチしながらヒュー! イエーイ! とかして盛り上がる。
間髪入れず怒られた。
「人待たせてんでしょ! さっさと行くわよ!」
「「はーい」」
「ロックさんとアーヤさんって意外と相性良いッスよね」
正直、アーヤさんのノリは嫌いではない。良い人過ぎて無下にできないとい
うのもある。
「エリーとクゥとも相性良いと思うよ」
「そうッスね。今まで対等な関係でいられる同年代ってなかなかいなかった
ッスから」
魔法学校飛び級首席のエリートと世界に知れ渡る名工の一番弟子。対等な関
係の同年代を作る事が難しかったんだろうね。
そう考えると自称一般庶民のクゥ以下なのが俺だった。
「クゥ、本当の一般庶民っていうのは俺みたいなやつの事を言うんだよ」
そんな俺を
「何言ってるんッスか。自分が今、この街で1番頭デスッてると思ってるの
はロックさんッスよ」
「握手を求められる一般庶民なんているわけないでしょ!」
「せやな。ロックさんは無自覚過ぎてやばたん (確かにそうですわね。ロッ
ク様はもう少しご自分に自信を持って良いと思いますよ?)」
目的地の応接室に着くまで言われたい放題だった。
アーヤさんが応接室の扉を開き中に招き入れてくれる。そこには見慣れた顔
ではあるがそうそうたる顔ぶれ。
都市長とサドニアさんとカレンさん。1人だけ見た事がない人がいる。
「まさか、こんな人達が待ってるとは思わず遅くなってしまいすみません」
「いいんだよ。アーヤからの誘いだと思ったんだろう? 恐らく初めて会う
だろう人を先に紹介させてもらうよ」
どっこいしょ。と言いながら
「わたしゃねぇ、この迷宮都市アドバンでギルドマスターをさせてもらって
るヨバだわさ。婆さんだとかババアとか呼んだりする連中もおるが、ヒヨ
ッコに呼ばれる筋合いはないからね。よく覚えておき!」
これまたとんでもなくインパクトが強い大物が現れてしまった。
こんな
「わかったわ! よろしくね、お婆さん!」
彼女は基本、人の話を聞かない。
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