第37話 たなぼた!
「「「おつかれさまー! かんぱーい!」」」
常連になりつつあるマスターの店でお疲れ様&売上トップおめでとう打ち上
げ会開いていた。
行列を整理してくれたお陰で、クゥとアーヤのコンビが次々とお客さんをさ
ばく事ができ、エリーをすぐ後ろに配置できた事で素早い提供もできた。
俺はというと……ずっと握手をしていた。
エリーやクゥやアーヤとの握手の方が絶対に需要あると思う。オッサンとか
が俺と握手して喜んでたけれど、心の底から本当に意味がわからない。
そんなこんなで、そのまま順調に売上を伸ばし続けたうちの店がダントツの
トップでフィニッシュ。ガリアさんはめちゃくちゃ悔しがってたなぁ。
打ち上げが始まってからエリーは俺がかなりセーブしながら飲んでいるのに
気づいて言った。
「危なくなったら回復させてあげるからおもいっきり飲んでいいわよ!」
それを聞いたクゥは不思議に思いエリーに聞き返す。
「回復? どういう事ッスか?」
「わたしが初めてロックを見た時、飲まされ過ぎて酒場でデスッてたの!
飲み過ぎでデスる人も初めて見たから衝撃を受けたわ!」
「そんな人聞いた事ないッス。やっぱりロックさんはおかしいッス」
「この不毛の砂漠を大草原に変える男ロック。酒でデスる (この不毛の砂
漠ですら笑いに包む殿方、ロック様。お酒の飲み過ぎでデスる。飲み過ぎ
はよろしくありませんわ)」
そんな事もあったね。それにしても言われ放題である。
「まさか、お前達に負けるどころかうちの店が出した最高売上記録まで破ら
れるとはな」
「あれってうちの店の記録だったんッスか」
「迷宮都市アドバンが世界に
料理が食べられるのはここだけ! っていう売り文句で叩き出したんだ」
俺は嫌だって言ったんだがなとボソボソ続けるガリアさん。
「なんか師匠らしくないやり方ッスね」
「そりゃ考えたのはワシじゃなく嫁だからな」
「え!? ガリアさん結婚してたの?」
少し顔を
「この話は止めだ止めだ。クゥ、お前が勝ったんだ。なんでも言う事を聞い
てやろう」
クゥの中でなんでもの内容は決まっていたらしく即答する。
「それじゃあ、例のスキルをそろそろ教えてくださいッス」
「教えてやってもいいが覚えられるかはお前次第だぞ」
「決まりッス。覚えられなかったらまだ自分の技量が足りなかっただけッス」
例のスキル……。ガリアさんに教わるという事は鍛冶関係のスキルなんだろ
うか。
スキルと言えばクゥにも解錠を覚えておいてもらおう。
「クゥ。ギルドで解錠の予約して受けてきてよ。俺とエリーはもう覚えちゃ
ったからさ」
「わかったッス! お祭りが終わったら早速行ってくるッス」
ギルドの方も今は完全に通常業務ストップして聖クロエフェスティバルの運
営に大忙しだからね。こればかりはお祭りが終わるまではどうしようもない。
「クゥは手先が器用だからすぐ覚えられると思うよ。覚えたらクゥも秘密特
訓に加わってもらうから」
「秘密特訓ってその暑苦しい響きはなんなんッスか」
「特訓場所は家です」
「暑苦しいどころか涼しい場所だったッス!」
わかりやすく解錠の箱と俺達は呼んでいるが、あの箱を貰ってからほぼ毎日
解錠の練習をしている。
種も仕掛けもあると言ってたけれども、本当に不思議な箱で挑戦する度に難
易度も解錠に成功できるポイントも変わる。
時には、二人掛かりでも全くびくともしない事もあるんだ。
「俺はクゥが1番解錠に適してると思うから早めに取得してほしいかな」
「そうッスね。役割的にも自分に任せてほしいッス」
「そぅよ~! クゥ! あんたにはねぇ。期待してるんだからねぇ!」
危なくなったら回復させてくれると言っていたエリーはいつのまにか酔っ払
っていた。
これは危なくなっても回復どころか面白がって口からビンを突っ込みそうだ。
「ガリアさんの店と二足のわらじで大変だと思うけど頼んだよ」
「大丈夫ッスよ。最近はその日の収支計算ぐらいしかやってないッス。後は
お2人の装備作りッスね」
「ありがとう。武器マニアの俺が手放せなくなるような武器を期待してるよ」
この間のウォーハンマーと双剣もなかなか使い心地が良かった。一緒に寝て
みたりもしてみたが、寝心地はエリーのガリアングレイゴーストキラーの方が
数段上だった。
クゥにはいつか師匠のガリアさんを超えてほしい。
「カラーン」
店のドアが開きドアベルが鳴る。お客さんかな? と思い入り口に目をやる
と見知った人が立っていた。
「ここにいると聞いてね。わたしたちも参加させてもらっていいかな」
「パパッ!? (お父様!? どうしてここに?)」
そこには今朝もお会いした都市長とサドニアさんが立っていた。
「と、都市長だけでなく獣人王様までうちの店に来るなんて……2人のサイ
ン貰わないと……。じゃなくて、いらっしゃいませー」
本音ダダ漏れから入るとはさすがマスター。
ガリアさんのサインも飾ってあるしダンディーな見た目とは裏腹に意外と有
名人好きなのかもしれない。
「おお、ガリアもいるな。久方ぶりだ」
「サドニアもこっちに来とったか」
「あれ? お2人って知り合いだったんですか?」
「ロックゥ、あんた知らなかったの!? サドニアの物語に出てきた伝説の
名工っていうのがガリアさんなのよぅ。ウップ……。」
戻すなよ! 絶対にこの場では戻すなよ!
「お待たせしました。席作ったんでどうぞこちらに」
近くに席を2つ増やしてもらった。
さっきまで一緒に話してた常連のお客さんも知らん顔で遠ざかっている。
この状況はさすがにね。
「俺達の事は空気だと思ってみんないつも通り好きにやってくれ」
「獣人王様が空気ッスか!? なんて幸せな空間なんッスかぁ」
「違う、そうじゃない」
「我々もお祝いをしたくてね。ロック君、最高売上記録の更新おめでとう」
「わざわざありがとうございます! これもみんなの力のお陰です」
「うちの娘もそれに
都市長はアーヤさんに向かって笑いかけると、アーヤさんは照れながら両手
でダブルピースしていた。
「ロックよ、俺からも祝いの言葉を送ろう。カレンも連れてくる予定だった
のだが、あいつはギルドの手伝いから抜けられなくてな。よろしく伝えて
くれとの事だ」
「サドニアさんもありがとうございます。カレンさんこんな時間まで忙しい
んですね」
「俺も残ってたんだが、俺がいると他の皆が働きづらいらしい」
「がははっ! そりゃサドニアがいたら緊張して働きづらいだろうよ」
「ぐぬぅ。そういうものなのか」
サドニアさんはしょんぼりと
「落ち込んだサドニアしゃまかわいいわ。今よ! ロック! 持って帰りま
す!」
「こらっ、エリーだめでしょ。ちゃんと謝って」
「さどにあさまごめんなさい。お詫びに吐きます!」
「「「ちょっ」」」
みんなが一斉に離れたので、急いでトイレへ連れて行った。エリーが吐いた
りする程酔うのは珍しいかもしれない。
「どうしたのさ、エリー」
「だって、だって……いくつものエールがわたしの前を通り過ぎていったの。
わたしはその子達を冷やして見送る事しかできなかったわ。本当は飲みた
かったのに! オロロロ」
聞いた俺が間違っていた。
今回のお祭りではエリーらしく表でド派手にさせてあげられず、裏方仕事を
全て任せっきりにしてしまっていたのでその事でストレスが溜まっているのか
と思っていたら、やはり飲みたいだけだった。
「その結果、悪酔いしたわけですね」
「悪酔いなんてしてないわよ! わたしはいつも通り普通よ!」
「そうだね、エリーはいつも通りだよ」
酔っ払いはみんなそう言うんだ。酔ってないから! 全然酔ってないから!
と。
「エリー、今から言う事を繰り返し言ってね」
「はーい! エリーちゃん良い子だから言いまーす」
「光の女神よ! この者に浄化の光を! アンチドーテ! 自分に向かって
使うんだよ」
「光の女神よ! この者に浄化の光を! アンチドーテ!」
エリー自身に解毒魔法をかけさせた。
素に戻り辺りを見渡すエリー。
「ねぇロック、わたしはあなたの事を信じてる。でもね、一つ聞きたいの。
なんで今あなたと2人でトイレにいるわけ?」
魔法の詠唱を交えながら信じてるとか言われても。無我夢中で弁解した。
「そうならそうと早く言いなさいよ。上位ぶっ放すところだったわ!」
「もう大丈夫そう?」
「えぇ、平気よ。今度はゆっくり飲み直すわよー!」
そんな事したらこの場に都市長も獣人王もいるから迷宮都市すら出禁になり
そうだよ。
「今度は程々にね」
「わかってるわよ! 今日はお祝いなんだし楽しく飲みましょ!」
戻るとカウンターで飲んでいた1人のお客さんが立ち上がりこちらに向かっ
てきた。
見覚えのない人だけどフラついてるしだいぶ飲んでるみたいだ。
「ロックく~ん。どこ行ってたのよ~」
これはまさか。
「クロエ様ですか?」
「当ったり~。さすがロックくん。わたしの事なんでもわかるのねぇ」
バーンッと効果音でもつきそうな勢いで変装を解くと、迷宮都市アドバンス
タイルのクロエ様だった。
他のお客さん達は都市長と獣人王が来た時以上の反応を示している。
誰もがあまりに驚いて動けない状況でクロエ様はフラフラとしながら歩き、
飲み屋のお客さんみんなに向けて言った。
「は~い聞いてくださ~い。わたしのロックくんが~今日、過去最高の売上
記録を作りました~! はい、拍手ぅ~! それをお祝いして今日はわた
しのおごりだぞ」
少しすると地鳴りの様な音が遠くで聞こえてきた。なんだろうこれ。
よくよく聞いてみると色々な場所から歓声が聞こえて地鳴りの様になってい
るみたいだ。
都市長が立ち上がりクロエ様に向かって申し訳なさそうに言った。
「神様。非常に申し上げ難いのですが……。今のアドバン全体に流れてしま
ってます……。」
店の外では歓声を上げて走り回る人で一杯だ。まだお祭りが続く事もあり、
夜になって少し落ち着きを取り戻した街が一瞬にして目を覚ました。
「あらあら~、わたしったらやっちゃったわ、てへ。神に二言はないわ~。
迷宮都市アドバンの皆さん、今日はお祝いしてあげてね。もちろんわたし
のおごりよ~」
何度も地鳴りの様な歓声が聞こえてくる。
売上最高記録が塗り替えられただけでなく、後にも先にもこの日程の盛り上
がりを見せた聖クロエフェスティバルはなかったという。
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