第27話 誰も知らない


 「アリス様にも言われてしまったしスキルの確認しましょう」


 翌日、エリーから言われスキルの確認をする事にした。

 スキル確認中って無防備になるし、引っ越しとかでバタバタしてたせいもあ

って全然確認できていなかった。

 丁度良い機会なので2人で確認して改めて戦術を練り直す。


 「それじゃ順番に確認して教え合おうか」

 「わかったわ! 先に確認するわね!」


 エリーは目をつぶってスキルを見ているようだ。目を開けると浮かない表情を

している。


 「どうしたの? あまり成長してなかった?」

 「一杯成長してる、してるんだけど……。」


 エリーが言うには警戒、隠密、鉄壁の盾、即死回避がLevel5に解錠がLevel

3に大魔導が大魔導+に詠唱+が詠唱++になったらしい。


 「めちゃくちゃ成長してるよ。何か不満だったの?」

 「魔法系のスキルの成長……少し安易過ぎない!?」


 「+」がついていくスタイルがお気にさなかったみたい。


 「成長したんだし喜ぼうよ。こんなに早く成長するなんてすごいんだよ?」

 「そうかしら? そうよね! さすがわたし凄いわ!」


 エリーが元気を取り戻してくれたので俺もスキル確認をする。


 「エリーと一緒に覚えたスキルは全部同じだね。軽盾がLevel3になってて

  新しく「霊耐性」ってスキル覚えてたよ。武芸は上がってなかった……。」


 アリスがあの覚え方をして欲しくないって言ってたのが「霊耐性」って事だ

よね。


 「グレイゴーストが盾と腕を1回通り抜けたとか言ってたじゃない? それ

  よきっと!」

 「へー、あんなのでスキル覚えたりするんだね」

 「ロックも浮かない顔してるわね」

 「うん。武芸が成長してなかったからさぁ」


 武芸は武芸十般のまま全く成長してなかった事が少しショックだった。


 「そりゃそうでしょ! 以前アリス様に一杯武器を使うように言われたのに

  最近同じ武器しか使ってなかったじゃない」


 確かに最近は片手剣と軽盾と投擲武器しか使ってなかったよ。反省しないと

いけないかな。


 「ただ、その話ってアリスと2人の時にしたんだよね」

 「あ」

 「盗み聞きのエリーさん、さすがです!」

 「う、うるさいわね! これにりたらちゃんと覚えておきなさいよ!」

 「はーい」


 スキルも確認して戦略を立て直す。うちのパーティーに小難しい戦略なんて

ないよ。

 力が全て。デスらされる前にデスらせろ。


 新しい武器をいくつかガリアさんに注文し、グレイゴーストを一掃するお仕

事を1週間程続けた。



 ある日、ガヤガヤとした夜の街を歩いていると肩を叩かれた。


 「よう、調子はどうだ?」

 「ジャック! 久しぶりだね。家借りたから場所教えようと思ってたのに、

  なかなか会えなかったからさ」

 「ガリアさんの店に行ったらロックが探してたぞって言われてこっちも探し

  てたんだぞ」

 「あはは、そうだったんだ。ここのところ迷宮魔窟に入り浸ってたからね。

  家の場所教えるからついでにうちで飲もうよ」


 ギルドやガリアさんの店がある一番人気の所謂いわゆるメインストリートのある層か

ら少し下りた、裏通りにある家へと案内した。


 「なかなか良い場所見つけたじゃないか」

 「ガリアさんとクゥが紹介してくれたんだよ」

 「あら、ジャックまだ生きてたのね! いらっしゃい」

 「くーっ! 出会い頭にこの挨拶! さすがエリー様だ」


 ジャックも本当にブレないね。



 「久しぶりの再開に乾杯!」


 エリーに冷やしてもらったエールを3人で飲む。


 「なんだこのエール!? 冷たくてめちゃくちゃうまいぞ」

 「でしょ? アドバンは暑いしこれがもう手放せないよ」

 「わたしにもっと感謝しなさいよね!」

 「それになんだか部屋の中も外よりだいぶ涼しくないか?」

 「わたしにもっと感謝しなさいよね!」

 「ん? まさかこれエリー様がやってるのか?」

 「わたしにもっと感謝しなさいよね!」

 「エリーはもう酔ってるね。飲み物も部屋もエリーがやってくれてるんだよ」

 「相変わらずエリー様はぶっ飛んでるんだな」


 酔っ払って椅子と会話してるエリーは置いておき2人でいろいろと話した。


 「そういやお前ら、迷宮魔窟に潜ってるんだろ?」

 「そうだね。毎日通ってるよ」

 「ギルドで聞いた話なんだがな、なんでも最近1層のグレイゴーストが群れ

  や集団で襲いかかってくるようになったらしい」

 「ふーん、それって珍しいの?」

 「そりゃ珍しいぞ。統率者がいれば別だが、あいつらは基本群れないんだ。

  中級の連中でも1層で死に戻るやつが出てきて判明したんだ」

 「そっかー。たいへんだねー」

 「なぁロック。お前何か知らな」

 「知らない」


 間髪かんぱつ入れず真顔で答えた。


 「エリーちゃんは……酔っ払って答えられな」

 「知らないわ」


 エリーも酔いなど感じさせず真顔で答えた後、また椅子との会話に戻った。


 「俺達みたいな弱小冒険者パーティーがそんな事知ってるわけないじゃない?

  ジャックも冗談きついよ」


 薄ら寒いものを感じジャックはこの話題を止める事にした。

 背中を流れ始めた変な汗に、さっきまでおいしく感じた冷えたエールがやけ

にこたえる。


 そんなジャックも冷えたお酒の誘惑にはあらがえず数時間後にはベロベロになっ

て全てを忘れていた。

 1人で帰れると言うジャックを玄関まで送った後、エリーと話す。


 「り過ぎたかな?」

 「かもしれないわね! 毎日繰り返す事でやつら学習したのかも」

 「そろそろ良い頃合だし2層へ狩場移そうか」

 「そうね! あとクゥにガリアさんからの伝言を預かったわ! 何か頼みた

  い事があるみたい」

 「そのガリアさんの頼み事を聞いてどうするか決めよっか」


 今回、限度が大切だと学んだ。次からはバレないようにしっかりコントロー

ルしよう。



 ガリアさんの頼み事を聞くためにお店へと行く。

 ギルドに依頼すれば良いんじゃないかなぁと不思議に思いながら。

 俺達としてはそんな指名依頼なんて受けられる程の冒険者じゃないので嬉し

いんだけどね。


 「「「らっしゃーせーっ!」」」


 日に日に元気な挨拶になっていってるなぁと苦笑いしながらお店へ入る。

 クゥに襲い掛かるエリーは放置し店員にガリアさんの場所を聞くといつもの

鍛冶場ではなく事務所にいるとの事なので案内してもらった。


 「どもー、ガリアさん頼みたい事ってどうしたの?」

 「坊主か。わざわざ呼び出してすまんな」


 書類を片付け応接用の椅子に座る。対面に座ると店員がお茶を持ってきてく

れた。


 「おい、クゥのやつも呼んできてくれ」

 「ハイッ! かしこまりましたッ!」


 元気にそう答え部屋から退室して行く。


 「ガリアさんのお店の店員って元気あり過ぎじゃない?」

 「困った事にな。あれは全部クゥの教育だ」

 「なるほどね。言われてみればそんな感じがするよ」


 迷宮都市アドバンに戻ってからガリアさんは頭を抱える姿をよく見掛ける。

 ヒゲもじゃもじゃでハゲたドワーフにならないか心配だ。


 しばらくするとクゥがエリーを引っ付けたままやってきた。獣人種で鍛冶屋

こころざすだけあって力あるなぁ。


 「師匠、どうしたんッスか」

 「やっと来たか。魔晶石の事だ」

 「今、1層ヤバイって聞いたんッスけど大丈夫ッスか」

 「こいつらのヤバさはお前も見ただろ」

 「ガリアさん、全く話が見えないよ」

 「あぁ、すまん。坊主に頼まれた武器を作るのに魔晶石が足りなくてな。特

  別な方法で採掘するから冒険者の護衛をつけて直接採掘に行ってるんだ」

 「なるほどね。場所は迷宮魔窟の1層でいいの?」

 「1層の奥の方の2層手前の所に椅子とか机置いてある場所見た事ないか?」

 「あー、あれって採掘場所だったんだね」

 「わたしたちモフ任せモフなさい!モフモフ」


 モフるか話すかのどちらかにしなよ。


 「本当に大丈夫ッスか? デスるのコワイッス!」

 「大丈夫だよ! 俺はともかくエリーソロでも大丈夫なぐらいだよ」

 「ガリアングレイゴーストキラーで撃沈してやるわ!」

 「俺じゃなく採掘に行くのはクゥだからな。しっかり守ってやってくれ。そ

  れが頼み事なんだが、受けてくれるなら指名依頼としてギルドに話をつけ

  るぞ」

 「受けさせてもらうよ。エリーいいかい?」

 「モフモフ!」

 「どうやらいいみたいなんでギルドに話通しておいてね」

 「わかった。人は成長するとあんな受け答えでもわかるのか」


 こうして採掘護衛依頼を引き受ける事となった。

 この依頼がクゥの将来を決定付ける出来事になるのだが、この時はまだ知る

よしもなかった。


 「デスるのコワイッスよー!」

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