第28話 見かけに騙されるな! そいつらはぐわーっ!
師匠が冒険者と一緒に帰ってきてから数週間が過ぎたッス。冒険者をあまり
好きじゃない師匠が仲良く話してる姿を見てすごい違和感を感じたのを覚えて
るッス。
師匠にこの店で雇ってもらって初めに覚えさせられたのは接客だったッス。
「ワシは冒険者の相手したくないからまずは接客から覚えろ」
「鍛冶師になりに弟子入りしたのにそんなのあんまりッスよー」
「お前の好きなように店を変えていいからまずはやってみろ」
「本当にいいんッスね?」
それからこの店の改造を始めたッス。
接客には接客担当の従業員を
案の仕方、周囲の従業員との
その甲斐もあって鍛冶場に入れさせてもらえるようになったわけッス。
「師匠、本当にあの2人に指名依頼出すんッスか?」
「まだ言ってんのか。お前もまだまだだなぁ。いいからあの2人を直接見て
こい。見た目だけに惑わされるな」
「確かにこの間の投げナイフには驚かされたッス。だけど今の1層ヤバイら
しいじゃないッスか」
「アイツらその1層で狩り続けてんだぞ」
「そんなまさかーッス」
「ワシはお前に才能があると思ってる。だがな、今のままだと確実に成長が
止まる。その壁をぶち壊してくれるのがヤツらだと思っている」
確かに最近少し自分の作品に限界を感じているッス。もっと良い物を、もっ
と良い物を、と気ばかりが焦りミスも増えてる気がするッス。
2人の事はすごく良い人だと思うし久しぶりにできた友達として大好きッス。
無理矢理モフモフされる事を除けばッス……。
冒険者の人はデスる事に慣れてるらしいッス。自分達みたいな
デスる機会がほとんどなくて本当にコワイッス。
これは返り討ちになる事も覚悟で行くしかないッスね!
指名依頼の当日待ち合わせ場所へ行くと2人は既に待っていたッス。
「すみません、おまたせしましたッス」
「クゥちゃんいいのよ! その代わり終わったらモフらせてね」
「依頼主様も来た事だし行こっか」
2人はいつもの調子でまるで緊張した様子もないッス。
「あ、あの準備とかはないッスか?」
「準備ならもう万端だよ」
「いつでも吹っ飛ばせるわ!」
「今日は護衛依頼なんだし程々にしときなよ」
2人も異変の話は聞いてるはずなのになんでここまで平然としてるッスか。
「クゥー! 早く来なさいよー!」
「今、行くッスー!」
こうなったら後は野となれ山となれッス。2人に任せて丸まっているッスよ!
「おう、お前らか。ん? その子は確かガリアさんの店の。」
「今日は護衛依頼で採掘場まで行ってきますよ」
「そうか。お前らなら1層の異変とか関係ないよな」
「えぇ! さっさと行ってさっさと帰ってくるわ!」
「ははは、エリザベスちゃんは今日も元気だな。それじゃ気をつけてな」
自分が聞いた異変の内容は中級冒険者ですらデスらされたというものッス。
師匠といい、この管理人といい、自分とあまり年の変わらないロックさんと
エリーさんが中級冒険者以上の実力を持ってるなんてさすがにあるわけないッ
ス。
そう思っていた時期が自分にもあったッス。
なんッスかアレ。
冒険者じゃない自分には何がどうなってるのかわからないッス。ただ一つ言
えるのはアレは普通の冒険者の
「警戒で位置を把握。エリー集めるよ」
「その前に! エンチャントホーリーライト! いいわよ、行ってきなさい」
「ありがとう、それじゃ行ってくるね」
ロックさんはグレイゴーストの位置を把握してるらしく次々と集めて、そし
て壁際で盾を構えたまま横に飛び
そこにエリーさんの剣が光を帯びて急に伸び、グレイゴーストをほとんど全
部切り捨てたッス。
残ったグレイゴーストもロックさんが剣で倒し周囲からモンスターの反応が
なくなったらしいッス。
もうわけがわからないッス! 丸まるどころかスタスタ歩いてるだけッス!
そんな狩り方が何度か続いた後、ポツリとロックさんが呟いたッス。
「そろそろ打ち止めかなぁ」
「いつも通りならそうね!」
「何がッスか?」
「あーうん。いつも通りだともう狩り尽くしたかなって」
え、この2人まさか1層を毎日狩り尽くしてたんッスか。そうしたら1層で
グレイゴーストが群れてる原因って……。
「クゥちゃーん。何も見なかったわよね?」
エリーさんが猫の獣人種の自分に
いつも通りにこやかだけど、全然目が笑ってないッスよ!
逆らってはいけないッスねこれ。
「自分は何も見てないッス! 見てないッス!」
「うんうん! ご褒美に後でモフッてあげるわ!」
「ご褒美になってないッスよー」
採掘場の周辺にはもうグレイゴーストが残っていないらしく安全に採掘する
事ができたッス。
お2人は
警戒を広範囲に使ってるから心配ないとの事ッス。
まさかここまでの熟練っぷりとは……。
師匠があそこまで言ってた理由がわかった気がしたッス。
この2人を同年代の冒険者と同じステージで考えてはいけなかった、そして
普段の温厚さや親しみやすさは彼らの一面でしかなかったという事を。
今日、この2人を護衛に選んで貰えて良かったッス。
既存の戦闘方法やテンプレにばかり
た鍛冶師にしかなれなかったと思うッス。
「そろそろ、集まったッスよ」
「かなり量あるんだね。持とうか?」
「これぐらい大丈夫ッス!」
「クゥって意外と力持ちよね! わたしにはそんなの持てないもの」
魔晶石で一杯になった袋を持ち、手がふさがった自分の頭をエリーさんが撫
でてきたッス。
力がなくともその手で数十匹のグレイゴーストを瞬殺できるじゃないッスか。
「それじゃ転移門まで行きましょうッス」
「「え?」」
「何かおかしい事言いましたッスか?」
「おかしくはないんだ……。転移門なんてあるの?」
「わたし達いつも歩いて戻ってたわ!」
「あー知らなかったんッスね。2層に入った所に転移門があるんッスよ」
「1層の地図しか買わなかったから知らなかったよ……。」
「今まではとんだ無駄足だったのね! ムキーッ!」
あんな規格外の強さを持っていても、こんな抜けた所もあったりする。そん
な2人を大好きだと再確認できたッス。
「着いて来るッスよ。転移門まで案内するッス!」
転移門まで案内しようと歩き出した途端2人が急に前に出てきたッス。
「クゥ後ろにいなさい! ロック!」
「警戒に1匹反応あり。方角的に2層の敵かな」
2層の敵ッスか!?
これはデスる覚悟を決めた方が良さそうッス……。
「ちなみに敵の種類とかもわかったりするッスか?」
「たぶん動き的にグールじゃないかなぁ」
あーこれは、デスったッス。ついに丸まってブルブルする時が来たッス。
「さっさと片付けて帰るわよ!」
「何言ってるんッスか!? グールッスよ!」
「もうクゥは本当に臆病ね! ロック
「わかったよ。それじゃホイッと」
ロックさんは師匠に用意してもらった投げナイフを
猫の獣人種の自分でも
(威力は見せてもらったけどあんな距離で当たるわけないッス)
「ドゴーンッ!」
「え」
見えるッス。グールに命中し光の中に消えていく姿が。
「体狙ったんだけど少しズレちゃったなぁ。もう少し精度上げないと」
「わたしの魔法みたいにヘッドショットできるようになりなさい!」
何事もなかった様に笑い合う2人を見て決めたッス。
この2人のために装備を作りたい、何者にも負けない一般常識とかけ離れた
そんな装備を!
「転移門まで案内して! 早くお風呂に入りたいわ!」
「クゥもこれで仕事上がりでしょ? 魔晶石置いたらうちにおいでよ」
神様心の底から感謝しますッス! こんなにも素晴らしくぶっ飛んだ友人と
巡り合わせてくれた事を!
お店に寄った後2人の家に行くと、神様がお酒を飲んでいてめちゃくちゃモ
フられたッス。
「神様ですよー。感謝してるなら大人しくモフらせなさい?」
されるがままにモフられたッス。
神様が家に来るとか……やっぱりこの2人おかしいッス!
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