第29話 真の天才には常識外れである事でしかなれないかもしれないけど混ぜるな危険


 この間の護衛依頼を終えてから、クゥがいろいろな装備の提案をしてくれる

ようになった。

 俺としては「武芸」スキルの成長のために様々な武器を使っていきたいので

助かってるよ。

 ただ、打撃部分だけでとんでもない重さになる巨大なハンマーは遠慮させて

もらった。持ち上げるだけでもやっとで、とてもじゃないけど使える気がしな

かったんだ。

 それを少し長柄にして打撃部分を軽くしたウォーハンマーは新たな武器とし

て加えさせてもらった。


 「やや、君ははじまりの街で解錠の講習を受けた子だね」


 店の中で見覚えのある人に声を掛けられる。


 「その節はお世話になりました。少し前に迷宮都市に来たんですよ」

 「ほうほう、強くなるとは思っていたが想像以上の早さだね。今のはじまり

  の街は終着点にもなってしまったから、さっさと出ちゃって正解かな」

 「そうなんですよね。もう少し解錠スキルも上げたかったんですが」


 ふむふむと言いながら全身を観察してくる。


 「戦闘能力はここでやっていくには充分に見えるかな。問題はスキルだね。

  「罠感知」というスキルは持っているかい?」

 「いえ、初めて聞きました」

 「やっぱりねぇ。あっちは罠ないからー。それならすぐにでも講習を受けた

  方がいいよ。迷宮魔窟の奥もこの先のピラミッドも罠が自動生成されるん

  だ」

 「え!? そうだったんですか? ギルドで早めに予約しておきます」

 「それがいいね。あと、きみのパーティメンバーは冒険者には珍しい事に魔

  法使いだと思ったんだけれども「魔導書」というスキルを取ってないなら

  必ず役に立つはずだよ」

 「それも持ってないはずなので勧めておきますね。何から何までありがとう

  ございます!」

 「いいのいいの。僕みたいな者はきみみたいに将来有望な後輩の力になるた

  めにいるのさ。そうだっ!」


 何かを思い出したかのようにごそごそと持っていた袋を漁っている。しばら

くして探し当てた一つの古い箱を取り出した。


 「一つだけ裏技を教えてあげるよん。僕が用意した種も仕掛けもあるこの箱。

  これを毎日少しでいいから解錠の練習に使ってみて」

 「これをですか? わかりました! 頑張ってみます」

 「うん、素直でよろしい。最後にその箱の事はきみのパーティーメンバー以

  外には秘密にしてね。それじゃ僕はそろそろ行くよ。後ろでクゥさんが待

  ちくたびれてるようだからね」


 そう言いながら軽くウィンクをするので振り返ってみるとクゥが次の武器候

補を持ったまま手持ち無沙汰でいた。


 「迷宮都市に僕もいるからまた会う事もあるさ、でわでわ」

 「いろいろとありがとうございました! また!」


 手を振り挨拶を交わしてクゥに待たせた事を謝り、さっきまでと同じ様に新

武器候補探しを続けた。



 「って事があってさ。「罠感知」を2人で受けて、エリーには「魔導書」の

  講習を受けてもらいたいんだよね」

 「へー、あの講師って本当に観察力が鋭いわね! いいわよ! 後はその箱

  だっけ?」

 「そうだね。これが解錠の裏技しいから毎日空いてる時間に練習しようよ」

 「わかったわ! 大盗賊を目指すわよ!」

 

 貴族から大盗賊へ華麗なる転身ですね、ほんと。



 翌日、さっそくギルドへ予約に行く。

 「罠感知」は人気スキルではあるが必須スキルでもあるので、数日置きに講

習が行われてるみたいですぐに予約を取る事ができた。

 「魔導書」は取る人が少な過ぎて講習を好きな日に予約できるのだとか。

 魔法使いが冒険者になる事がそれだけ珍しいのかもね。


 「罠感知」は警戒に近いスキルで両方を使う事が中級以上の冒険者では

常識になっている。

 とんとん拍子で成長してきてしまったので、そういった常識にうとくなってし

まっている気がしてきた。

 それをエリーに話すとこう言われた。


 「細かい事は気にしないの! 真の天才には常識外れである事でしかなれな

  いわ!」


 真の天才は常識外れか。エリーが言うと物凄い説得力だ。

 俺もエリーを見習ってできるだけ常識外れでいる事を目指し、凡人ぼんじんの中の秀

才ぐらいにはなりたいと思う。



 罠感知の講習をエリーと2人で受けた。

 罠にはいくつか種類がありイタズラタイプ、状態異常タイプ、ダメージタイ

プ、に分かれているみたいだ。

 イタズラタイプは以前霊廟でエリーが宝箱を開けた際に中身に「スカッ」と

書かれた紙が入っていたが、ああいった物が当てまるらしいよ。


 厄介やっかいなのが状態異常タイプとダメージタイプ。

 この2つはその名前の通り、状態異常とダメージを与えてくる。2つが一緒

になってる罠もあるらしい。

 完全にデスらせにきてるのがこの2つ一緒のタイプ。

 即デス級のダメージに継続ダメージの状態異常をかけて、即死回避を持って

いてもデスらせたりするとか。


 このスキルは本当に受けておいて良かったよ。解錠スキルの講師さんに感謝。

 スキルのコツは警戒に似ているため通常は成長しない警戒が成長してしまっ

ている俺達には簡単に習得する事ができた。



 「行ってくるわね! わたしがいないからってハメを外し過ぎないようにし

  なさい!」

 「わかってるよ。エリーも講師の人を困らせないようにね?」

 「優秀過ぎる事で困らせてみせるわ!」

 「うん、そだねー。いってらっしゃい」


 ロックはほんとわかってるのかしら。

 わたしがいない間にまた神様を呼んであんな事やこんな事してたらただじゃ

おかないんだから! 1人だけ神様と仲良くするなんてズルイもの。


 今日のスキル「魔導書」はきっと余裕ね。

 スキルの効果について事前に調べたけども、似たような事をスキルなしでも

できてるもの。

 それの発展形っていうのがわたしの見解よ!


 「こんにちは! 魔導書の講習に来たのだけど」

 「お待ちしておりました。ご案内します」


 ロックと罠感知を受けた部屋とは別の部屋みたい。それにしてもやけに狭い

部屋ね。こんな部屋じゃ数人入ったら一杯じゃない。

 受ける人数が少ないとは聞いてたわ! ここまで少なかったのね。

 そこへヨボヨボのおじいさんが入ってきたわ。


 「集まってるようじゃな。始めるかのう」

 「集まってるってわたし1人しかいないわよ!」

 「そりゃお前さん1人しか受講者がおらんからのう」


 少ないとは聞いてたわ。まさか、わたし1人だとは思わなかったわよ!


 「冒険者になろうなんていう奇特きとくな魔法使いはほとんどおらんからなぁ」

 「真の天才とは奇特であり常識外れであるものよ!」

 「お嬢ちゃん若いのに頭魔法使いじゃのう」

 「えぇ、でも今のわたしは学校に通ってた頃とは違うわ! 実戦派の頭魔法

  使いよ!」


 ただの頭でっかちだった頃とは違う。初めは右も左もわからなかった。ロッ

クと出会って成長してきたんだから!


 「お主は魔法を溜める事はできるかの?」

 「できるわよ! そんなの余裕ね!」

 「原理は同じじゃ。それをスキルとして昇華しょうかさせたものが魔導書である。言

  うだけあって優秀なようじゃな」

 「やっぱり、魔法溜めの発展形だったのね! 優秀なのは当然よ! 飛び級

  で首席卒業したんだから」

 「なんと、そこまで優秀じゃったか。にも関わらず冒険者になるとは……。」

 「むをない事情があったのよ……。」


 魔法使いが冒険者になるのはそれ程までに珍しい事なの。変な空気になりか

けているので空気を変えましょ。


 「原理はわかったわ。実際にはどうすればいいのよ?」

 「そうじゃったな。年をとると話がすぐ脱線してしまってのう。それでは魔

  法を使える場所に移動して練習じゃ」


 ギルドの地下に連れられて行くと円形のコロシアムの様な場所だった。


 「へー、ギルドの地下にこんな場所あったのね」

 「普段はあまり使われん場所じゃからな。ここは中位ぐらいまでの魔法なら

  障壁でびくともせんから自由に練習できるんじゃよ」

 「へー、本当か試してみましょ!」


 指先を噛み千切り魔力で空中に魔方陣を描く。上位魔法の準備完了よ!


 「お主は人の話を聞いておったのか? なぜ明らかに上位魔法を撃つ準備し

  とるんじゃ?」

 「試してみるためだけど何かおかしいかしら?」

 「あれじゃな。お主は頭どころか全身魔法使いじゃ」

 「ふふーん、でしょ? ありがと!」

 「その物騒な魔方陣を消して初歩で溜める練習をするのじゃ」

 「わかったわよ! 初歩ね、初歩。アイスアロー!」

 

 初歩の氷魔法アイスアローを詠唱破棄で唱え発動させずに溜める。


 「詠唱破棄で魔法溜めとは本当に優秀じゃのう。そのまま限界まで溜め続け

  ていれば、おのずと見えてくるはずじゃ」

 「こんな事、魔法学校時代にもやってたわ! 本当にこんなので覚えられる

  の!?」

 「魔法学校時代はスキル「魔導書」の存在を知らなかったじゃろ? 今はも

  う知っている。そういう事じゃよ」

 「そんな簡単な事がキーになってたのね。魔法学校の連中もそれぐらい教え

  なさいよ!」

 「それはこくじゃよ。本来、魔法溜めを学生レベルでできるわけないのじゃか

  らのう」

 「優秀過ぎるって罪ね」


 講師のおじいさんは何も言わず遠くを見ている。自分の若かりし日々でも思

い返してるのかしら。

 わたしは子供や孫に自分の冒険譚ぼうけんたんをせがまれるような、おばあちゃんになり

たいわね!


 「ん? 魔力が留まる感覚に変化したわね」

 「自分自身のスキルを確かめてみるのじゃ」


 そう言われたわたしは目を瞑りスキルを見る。「魔導書」がしっかり増えて

いた。


 「やったわ! 増えてる! おじいさんありがとう!」

 「魔導書は成長型スキルじゃ。成長する事で溜めた魔法の発動順番を変えた

  り、溜められる魔法も増えていくじゃろ。より研鑽けんさんを積むように。お主に

  はそんな助言必要なさそうじゃがの」

 「いえ、わたしはもう自分が井の中のかわずだと知ったもの。これからも努力し

  ていくわ! 全魔法の上位を溜めて一斉放出してやる!」

 「本当に頼むから、止めてくれるかのう」

 「冗談よ! 冗談! ただし倒せないモンスターがいたらるわ」


 講師のおじいさんに挨拶をして帰る事にした。思った通り、魔導書は余裕で

習得できたわね!

 魔法学校の教師はスキルの話なんて一切出さなかったもの。あいつら絶対頭

魔法過ぎてこんな便利スキル知らなかったはずよ。



 「ただいまー! 魔導書覚えてきたわよ!」


 そこには神様に膝枕されて、神様のそれはそれは大きい果実を顔の上に乗せ

たロックがいた。

 人が頑張ってる間にあんな事やらこんな事やらしてたんだわ!


 「ロック! あなただけズルイわ! 神様ー、わたしにもしてください」


 神様のたわわな胸に飛び込んだ。

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