第30話 酔っ払いが現れた! どうする? →無視する


 ここは迷宮魔窟2層。

 1層でお世話になった死霊のグレイゴーストに加え悪霊のエビルガイスト、

強化されたスケルトンとグールが出現する。

 クゥの護衛の時は一発で倒してしまったのでわからなかったが、近接で戦っ

てみると霊廟のスケさんやグールとは比べ物にならないぐらい強力になってた。


 「ごめん、エリー。警戒と罠感知の併用がなかなかうまくいかない」

 「罠感知の方はまだ慣れてないし仕方ないわ! 警戒はわたしも常時、広域

  で発動してるから心配しないで」


 ここへきて少し壁にぶち当たっていた。

 必須スキルである警戒と罠感知の併用に四苦八苦してしまっている状態。

 戦闘は強化されてようが苦戦する事もなく倒せているが、スキルの方は完全

にお手上げだよ。


 「2つのスキルの特性が似ているからうまく使いこなせてないのかなぁ」

 「とりあえず考えるのは後にしましょ! 周囲を囲んでるこいつらを始末し

  てからね! 我が眼前の全てを焼き尽くし無に返せ! フレイムバースト!」


 炎の爆発が周囲でいくつか起きる。おそらく魔導書で溜めておいたのだろう。

 それに巻き込まれてほとんどの敵は光の中へ消えていった。


 「もう魔導書を使いこなしてるなんて。俺も負けてられない」


 新武器のウォーハンマーで遠心力を利用しながら撃ち漏らしたモンスターを

光の中へ帰らせていく。

 最後のグールの頭を叩き潰し、周囲を警戒したまま一息つく。


 「エリーはすごいね。魔導書覚えたばかりなのに」

 「元々、似たような事はやってたからよ! でもありがと!」


 エリーが俺を見つめてくる。どうしたのかと思い首をかしげる。


 「ロック、転移門も近いし今日はそろそろ帰りましょ」

 「突然どうしたの? まだ大丈夫だよ」

 「無理しないの! 顔に疲れが出てるわ。わたし達はデスれないんだから慎

  重にいくべきよ!」


 自分の顔をペタペタと触ってみる。いつもとは違う疲労感をがあるのは確か

だ。顔に出てたとは。


 「ありがとう。エリーがいなかったら気づけなかったよ」

 「いいのよ! わたし達パーティーなんだから」


 少し照れながら言うエリーに感謝しながら早めではあるが転移門へ向かった。



 「ロックはねぇ、なんでも自分でやろうとし過ぎなのよぅ! ふぇぇ」


 今日のエリーは泣き上戸モードらしい。

 毎回ここまで酔っ払えるエリーをたまにうらやましく思ったりもするよ。


 「それで相談っていうのはなんだ、坊主」

 「ロックさんがそんなに悩んでるのも珍しいッスね」


 まだ、この街で知り合いも少ない俺は、冒険者ではなくとも違った方向性の

経験が豊富な2人に仕事終わりを待って相談する事にしたよ。

 ここはガリアさん行きつけの飲み屋だとか。

 ガリアさんが迷宮都市が嫌で逃げ出した事をクゥにバラしたマスターがやっ

てるあのお店。


 「今日初めて2層に挑戦してきたんだよ。そこで少し行き詰っちゃってさ」

 「そりゃこの短期間で2層に行きゃあ誰でもそうなるぞ」

 「それが戦闘は問題なくてスキルの警戒と罠感知の併用が難しくて」

 「お2人って絶対に火力過剰ッスもんね」


 ガリアさんは度数のかなり高そうなお酒をちびちび舐めながら話し出す。


 「既に出来上がってるお嬢ちゃんが言ってる通りかもな。ワシが知ってる限

  り、迷宮魔窟に2人パーティーで潜ってるやつなんて聞いた事がない」


 果実から作ったジュースのようなお酒を飲みながらクゥもそれに同意する。


 「そうッスね。中級以上のダンジョンは少なくとも3人か4人のフルパー

ティーが基本ッス」


 俺は2人に言われた事をエールを片手に吟味ぎんみする。このエール冷やしたらお

いしそうだし後でマスターにどこで手に入るか聞いてみようとか余計な事を考

えながら。


 「ちょっと事情があってパーティーの人を頻繁に入れ替えたり、臨時パーティ

  ーみたいな事はしたくないかな」

 「坊主達のパーティーはかなり特殊だもんなぁ」

 「どこにょ馬の骨とも知らにゃいやつを入れりゅ気はないわ! うぇーん!」


 なんで号泣してるんだろう。エリーがこの酔い方をするのは初めてかもしれ

ない。エリーなりにパーティーメンバーの事で思う所があるのかもしれない。

 本当にベロッベロだけれど。


 「お前が行けたら鍛冶師としても良い経験になると思うぞ」

 「自分も着いて行きたい気持ちはやまやまッス。でもデスるのコワイんで無

  理ッス!」


 ん? デスるのが怖いか、なるほど。これならいけるかもしれない。

 この2人なら信用でしるしね。


 「つまり、デスらないならいいの?」

 「いいッスけどそんな冒険者存在しないじゃないッスか」

 「だな。そんな冒険者聞いた事もない」

 「これから話す事はここだけの話にしてね」


 一応クロエ様に聞いてみよう。


 「クロエさまー! 2人に例の事話してもいいですかー?」


 煙が出たがクロエ様が現れない。

 と思いきや、カウンターで飲んでいた女性がこちらに歩いてきた。


 「じゃーん! カウンターで飲んでましたー!」

 「なんで煙出したんですか!?」

 「やっぱりーなんとなく演出は必要じゃない?」


 俺にもたれかかりながら話を続ける。


 「今からロックくんが話す事は秘密ですからね。2人ともわかったかしら?」


 クロエ様が突然現れて驚いているガリアさんとクゥは頭だけをブンブンと縦

に振る。クゥは会ったばかりなのになぁ。


 「約束破ったら世界から消しちゃうぞ」


 いつものクロエ様ジョークも全開だね。

 ガリアさんはガタガタと震えだし、クゥはぽろぽろ泣き出した。


 「ちょっ、クロエ様2人が真に受けてショック受けちゃってますよ!」

 「あらやだ。ごめんなさい。冗談よ。この冗談効き目が強過ぎるのかしら?」


 そうかもしれないですね。その冗談聞いた人みんな効果抜群ですから。


 「神様が関係してるという事はそんなにも重要な事なのか」

 「そうだね。だから信用してる2人には話すよ。俺とエリーはデスらずにダ

  ンジョン攻略をしているよ。強くなるために」

 「待て、それじゃお前ら霊廟でもデスッてなかったのか?」

 「うん。最後にデスったのは霊廟スライムのレアを手に入れた時かな」

 「おかしいッス! 帰りはどうしてたんッスか!?」

 「普通に歩きか転移門だったよ。だからこの間クゥに転移門を教えてもらっ

  て助かったよ」

 「だ・か・ら・クゥちゃんがパーティーに加入するならわたしは賛成よ」

 「よしっ! クゥ! 神様もこうおっしゃってるんだ。行って来い!」

 「神様が……。本当に本当にデスらないッスか?」

 「わたしたちにゃークゥのその臆病さが必要にゃのよー。ヒック!」


 エリーはここまで酔ってる割に結構核心を突いてる。


 「実はにぇ、これを聞いちゃった時点でクゥには選択肢が残されていにゃい

  の! どうする?」


 その上選択肢を消しておどしにかかるとは。本当に酔っ払ってるの?


 「もうそれ強制じゃないッスか!? けどデスらないなら……。」


 ちょ……落ちたな……。

 こうして俺達のパーティーに鍛冶師のクゥが加わった。

 臆病なクゥにはまず警戒や罠感知、アイテム類の管理をしてもらう事にした。

 魔晶石の袋を軽々持ち上げる力だったり、ガリアさんを素早く押し倒す俊敏

さがあるなら普通に戦えると思うけどそれは後々だね。

 そんなにデスるの怖いかぁ。俺なんて今でもデスりたくてうずうずしちゃっ

たりするのに。



 翌日、パーティーメンバーの追加をギルドに申請した。

 ついでにクゥがまだ持っていない「罠感知」を予約する。

 警戒は元々持っていた。が、驚かされたのはそのLevelが10だった事。成

長型じゃないと言われてるスキルをなぜか成長させた上に俺たちよりも高Level

に成長させてるとは。

 クゥにも警戒が成長する事を黙ってるように言い含めた。


 クゥ強化計画を立てていくうちに本人も腹が決まったみたいだよ。俺のスキ

ル武芸の事を話したら鍛冶屋魂に火がついたのか余計にやる気を見せてくれて

いる。


 「ロックさん、モンスターに合わせて武器を複数持込むッスよ。使わない分

  は自分が持っておくッス」

 「ありがとう! 今までは、その日ごとにサイクルさせてたから助かるよ」

 「クゥ、あんたも念のため武器を持っておきなさい!」

 「自分は短剣と鍵爪を使うッス」

 「臆病な割にすごい近接型ね! まずはわたしとロックの連携を見て足りて

  いない部分を見つけなさい!」

 「了解ッス! そういうのは得意ッスよー」



 大切なパーティーメンバーが加入し、そのメンバーを鍛えるためにいきなり

2層に連れて行った。俺達はスパルタだからね。


 「わーッ! 右斜め方向から10体のエビルガイストが接近中ッス。左方向

  には5体のグールが!」


 俺とエリーは顔を見合わせてうなずき合うと一斉に動き出した。

 エビルガイストの群れをエリーに任せグールを近接で狩る。


 「光の女神よ! 顕現せよ、ホーリーアロー!」


 何度も詠唱魔法を唱え魔法を発動させず魔導書で溜め込んでいく。そしてエ

ビルガイストの群れ目掛け放出した。


 「いきなさい! 光の女神の慈悲を与えたまえ、ホーリーシャワー!」


 いくつものホーリーアローが放たれ、まるでシャワーのようにエビルガイス

トに降り注ぐ。魔導書を使ったエリーの独自魔法だろう。

 そのまま何もできずに10体のエビルガイストは光の中へ消えていった。



 その間に、俺はクゥに勧められた双剣を使いグールの群れへとおどりかかる。

 剣の長さは短剣と長剣の中間ぐらい。その剣を両方の手に1本ずつ持ち、速さで

グールを翻弄ほんろうする。

 以前はグールの強靭きょうじんさや素早さで逆にこちらが翻弄されていたけど、今では

そんな事にはならないんだ。

 エリーにかけてもらった女神の加護の効果で致命的ダメージを即座に与え5

体の群れを片付けた。


 「そっちも終わったみたいね!」

 「問題ないね。それにしてもクゥの警戒が正確過ぎてすごいよ」

 「これと鍛冶だけは自信があるッスよ」

 「さすがね! よっ! この臆病者!」

 「えへへーッス」


 果たしてそれはめ言葉なのかという思いを飲み込みつつ、2層での狩りを

続けた。クゥの加入でパーティーの壁を乗り越えられた気がする。

 エリーが言う通り、俺はなんでも1人でこなそうとし過ぎていたのかな。

 クゥが加入した後の初ダンジョンから一気に楽になったのをかんがみるとその可能性

が高いなぁと反省する。

 迷宮都市アドバンに来てから反省する場面が多い。それを不甲斐無ふがいなく思う事

もあるけれど俺達はまだまだ成長過程にあるんだ!

 これからもっと成長していくさ。

 クゥは持ち前の器用さで罠感知も一発取得した。


 「坊主、ありがとうな。最近クゥの作る武器は以前とは比べ物にならない程

  良い物になった。あいつもお前らと一緒で壁を乗り越えられたんだ」

 「ダンジョンでもすごい助けられてるよ。分野が違っても切磋琢磨せっさたくまし合うっ

  て重要な事なのかもね」

 「そうかもしれんな」


 深く考え込んでいる。ガリアさんにも何か思うところがあったのかもしれない。

 少し経った後、静かに語り出す。


 「ところでワシ神様に消されたりせんよな?」


 世界に名をとどろかすドワーフの名工ガリア、意外と臆病。

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