第2話 越えてはいけない一線を考えよう
クロエ様に言われた事を考えながらセレンの街を歩く。言葉通りに受け取る
なら「死んじゃダーメ」って事かなぁ。
俺達、冒険者にとってはデスる事が日常茶飯事なんだ。酷い時は日に何度も
デスッたり。
「思った以上に難易度が高そう」
どうせしばらくは初心者ダンジョンに通うんだ。あそこなら死に戻り狙いし
ない限り死ぬ事は絶対ないだろう。
これからの予定を立てながら俺は初心者ダンジョンへと向かった。
ダンジョンにはクロエ様とクロエ様以外の神様達が決めた明確なルールがあ
る。クロエ様以外の神様は普段人に接触してこないから誰も見た事ないらしい
けどね。
ルール1、5人以上のパーティーでのダンジョン探索の禁止
ルール2、ダンジョンへの国の介入禁止
ルール3、神様にはノータッチ
これが主な決まり。子供から大人までみんな知ってるダンジョンルール。
実はこれ、初めはルール1だけだったんだって。
ある時どこかの国の支配者が国の兵士に命じてダンジョンを攻略して富を得
ようとしたらしい。ルール1を無視するために全員バラバラに行動させてね。
それにお怒りになった神々はルール2を追加し国のトップを丸ごと強制的に
入れ替えた。こわっ。
ルール1の理由はクロエ様から直接聞いた事がある。
「助け合いは大切だけど個人の力を試し楽しむ場所、それがダンジョンだか
らよ」との事だった。
俺は毎日のようにクロエ様を呼び出している。たぶん俺程クロエ様を呼んで
る人いないんじゃないかな。
その俺がクロエ様に度々言われるのがこの「楽しむ」という事。
だから俺は毎日を楽しむ事に一所懸命でいる。
ルール3だが……これは楽しみが越えてはいけない一線を越えてしまった結
果なんだろう。今でも伝説として酒場では話の種になるぐらい。
神様はあの抜群のプロポーションと美貌で男女共に人気がある。他の人があ
まりクロエ様を呼び出さないのは緊張してしまうからだろう。ジャックなんて
1度も呼んだ事ないって言ってた。
毎日呼び出してる俺もクロエ様の前になると、しどろもどろになったりする。
そんな大人気な神様の非公認ファンクラブなるものが実はいくつもある。
その内の1つ「クロエックス」という会員数およそ100名以上というそれ
なりの規模のファンクラブが問題を起こした。
「クロエックス」の連中は神様を呼び出し、あろうことか!あろうことか!
胴上げをしようとしたんだ。
本当に意味がわからない。
そしてルール3が追加された。「クロエックス」が本当にわからないよ。
禁止されてるって事は当然罰も用意されている。
それが「ダンジョン探索権停止」通称ダン停だ。このダン停になると悲惨な
んだ。
名前の通りダンジョンに入れなくなるだけじゃない。頭の上を赤いバッテン
がくるくる回る。
「うわーあいつダン停か!何やったんだか」
と一発で街でわかっちゃうんだ。だから「クロエックス」の一斉ダン停は今
でも話の種になるんだ。
想像してほしいな。100人以上の頭の上をバッテンが点灯し回ってる様を。
俺はルールを破らず楽しいダンジョンライフを送らせてもらうよ。今日から
はできるだけ死なないように!
「こんちはー」
「おう、ロックよく来たな」
ダンジョン前にいる人に挨拶をする。この人はダンカンさん。冒険者を引退
し今はダンジョン管理の仕事をしている。
誰がダンジョンに入っているか、誰が戻ってきていないか、そういった事を
管理してるらしい。
神様がいるから滅多に問題は起きないけど、たまーに死に戻れない事がある
とか。
「今日は混んでる?」
「新人が何人か入ったぐらいでガラガラだぁ」
俺も新人の頃はよくダンカンさんに冒険者のなんたるかっていうのを聞かせ
てもらった。今でも新人みたいなものだけどね。
軽く雑談を交わしながらダンジョンへ入っていく。
ダンジョンの中へ入るとまず空気が変わる。生温いような、それでいてまと
わりつくような。初めのうちはこの感覚がちょっと苦手だった。
そしてこのダンジョンの主役とも言えるやつらが目の前にいるこのモンスタ
ーだ。こいつは初心者ダンジョンで最弱のミニスライム。
「サクッサクッと倒しますか」
腰にさした短めの片手剣を抜き、走って近づく。ミニスライムが動き出す前
に核に向かって剣を突き出す。
ミニスライムは光って消えていった。
「チャリーン」
「ミニスライムじゃこんなもんか。昨日の霊廟はうまかったなー」
同じモンスターでも違うダンジョンでは倒した時にドロップするお金やアイ
テムが変わる。ここ初心者ダンジョンのスライム系はレアを落とさないが霊廟
のスライムはレアを落とすといった具合に。
「今日からデスらずに帰る事も計算に入れないとね」
そう考えながらミニスライムとスライムを倒していく。
スライムの弱点は中を
「ん? 第一ダンジョン人発見」
俺より先に入った新人だろう。辺りを警戒しながら進んでいる。わざと音を
立ててモンスターを片っ端から倒してきた俺と違って慎重だ。見所はあるが慎
重過ぎるな。
「よう、そんなガチガチで大丈夫か?」
新人は俺の声に驚いたようにビクッとしてた。
「あ、あなたは……?」
さすがにそんなビビらなくても。
「俺はロック。始まりの街へ来て1年ぐらいの初心者に毛が生えたぐらいの
者だよ」
警戒しながら近づいてきた新人は声をあげた。
「あっ! 昨日酒場で飲み過ぎて死に戻った人!」
「見てたの!?」
恥ずかし過ぎる。声を掛けるんじゃなかったよ。けど声掛けちゃったし軽い
アドバイスぐらいしよう。
「それは置いといて、あまりに警戒してたから声を掛けたんだよ」
「飲み過ぎて死に戻るってどういう気分?」
この人聞いてくれない。それ以上はやめて、精神的にデスッちゃう。
まぁ当初の目的である肩の力を抜かせるという事は達成できたしいっか。
「その話は今度にしよう! 少しは緊張も解れたかな?」
フードを被っていて気付かなかったが女の子か。自分の手足を確認している。
「もう大丈夫よ。初めてのダンジョンで緊張しちゃって」
「それなら良かった。それじゃ俺はもう行くね。死に戻る時は最奥まで行く
といいよ」
「わかったわ! わざわざありがとう」
もう大丈夫そうだ。手を振って別れた。名前聞かなかったけどまた会う機会
もあるよね。
願わくは、その時こそ酒場でデスらないように。
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